第二章プロローグ ギルマス
――王都。
商都(公爵領)の冒険者ギルドマスター・ギルスは怒濤の展開に頭を抱えていた。
ハイエルフが出たという報告をするために王都を訪れたまでは、まだよかった。ハイエルフの取り扱いを本部に丸投げすれば良かっただけなのだから。
しかし、問題はそのあとだ。
商都の騎士団本部で『ウロボロス』の構成員が暴れ。エリカがウロボロスの秘密基地を制圧し。しかもアース・ドラゴンを倒したという。
もはや公爵家が対応できる範囲を超え、正式に冒険者ギルドへの協力要請、そして王都にも報告が来たという。
「――あれだけ大人しくしていろと!」
ワイバーン便が持ってきた報告書を握りつぶしながら呻くギルスであった。
しかし彼がいくら嘆いたところで現実は変わらない。
「……約束の時間だ。本部に行かなきゃならねぇ。ったく、どう説明すればいいんだ……」
あえて独り言を呟きながら仕度をして、本部を目指すギルス。ギルド長は忙しいお方なので面会時間も指定されていたのだ。
本部の建物は相変わらず豪勢なものだった。地上五階建て。レンガ造りの限界に挑んでいるかのようだ。噂では当時所属していた魔法使いを総動員して状態保存の魔法を掛けたのだとか。
「――ギルス様! お待ちしておりました!」
建物に入るなり駆けつけてくる受付嬢。そのままギルスの手を取り、奥へと連れて行く。
若い女性からそんなことをされたら少しくらい期待したくもなるのだが……残念ながら今のギルスにそんな余裕はない。それに、受付嬢の様子もおかしかった。
もはや必死を通り越して決死の形相をした受付嬢はギルスの手を掴み、建物の奥へ奥へと連れて行く。
この先には大会議場があるはずだ。名目上はこの国の全てのギルドマスターが集結して議論をするための場所なのだが、あまりに広いため宴会くらいでしか使われていない部屋だ。
「――ギルス様をお連れいたしました!」
と、大会議室の扉の前で、深々と腰を折る受付嬢。なんだなんだと訳が分からないギルス。普段であればノックもせずに扉を開けてしまうのが『冒険者ギルド流』だというのに。
「入ってくれ」
と、扉の向こうから聞こえてきたのはギルド長の声。冒険者ギルドで一番偉い人間であり、もちろんギルスの上司に当たる人物だ。
たしかに偉い人物であるが、本部の受付嬢なら頻繁に顔を合わせているはず。こんなにも畏まる必要はないはずなのだが……。
「ではどうぞ! 私はこれで!」
受付嬢は扉を開け放つと、脱兎の如く逃げ出してしまった。ちなみにここで言う『兎』とは初心者冒険者にも狩りやすい魔物のことだ。
しかし、一応は客人であるギルスを放置して逃げるとは……。あの受付嬢はあんな人間ではなかったはずだが……。
疑問に思いつつ、部屋の中に入るギルス。
「――うおっ」
部屋の中にいる面々に圧倒されるギルス。当初会談する予定だったギルド長の他に、各地のギルドマスターまでもが集まっていたのだ。おそらく、各地と王都を結ぶ転移ポートを使ってまで……。
転移ポート。
人一人移動させるだけで大量の魔石を消費するため、滅多なことがなければ使われない装備だ。
そして今は『滅多なこと』が起きたのだと理解するギルマス。
部屋の中央奥。そこに鎮座していたのは――この国の『国王』だったためだ。
(は!? はぁあああああぁああああっ!?)
叫ばなかった自分を褒め称えつつ、即座に床に膝を突くギルス。王族。陛下。この国で最も偉い人間がなぜ、どうして冒険者ギルドになどいるのか。
「こ、国王陛下におかれましては!」
そのあとの言葉が続かないギルス。当然だ。ただのギルドマスターが国王陛下への挨拶を習得しているはずがない。
「――よい。今は公式の場ではない。楽にせよ」
いかにも荘厳。いかにも偉大。国一つを背負って立つのに相応しい重厚な声がギルスの頭に降ってくる。
楽にせよ、と言われて楽に出来るはずがない。なにせ相手は国王陛下なのだ。
ちなみに。ティナから言わせればそんな国王よりハイエルフであるエリカの方が遥かに格上であり、『エリカ様に対してはあんなに気安かったくせに』と重機関銃を取り出してもおかしくはない場面だったりする。
しかしギルスからしてみれば、冒険者になろうとしていた『軽い』エリカよりは、幼少期よりすり込まれてきた国王陛下の偉大さの方が勝ってしまっていたのだ。
頭を下げたまま動けなくなるギルス。国王が『楽にせよ』と口にしたのだから他のギルドマスターたちのように椅子に腰掛けるべきなのだが、今の彼にそんなことに思い至れるような余裕はない。
見かねたギルド長がギルスに助言する。
「ギルス。早く椅子に座らないと逆に不敬だよ」
「そ、そんなものですか……」
ギルド長に促され、用意された椅子に腰掛けるギルス。
部屋の最奥にいるのはやはり国王陛下。直接目にしたことはないが何度も何度も肖像画で拝見したお方だ。
両脇に侍らせているのは近衛騎士か。ギルスに鑑定眼などないが、一目見るだけで高ランク冒険者でも勝てない存在であることが察せられた。
「――さて、それでは会議を始めるか」
当然のように場を取り仕切る国王陛下。
なぜこんな場所に国王陛下がいるのか。そんなツッコミはとてもではないができないギルスだった。
※書籍化作業に追われているため、不定期更新です
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