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転生魔王はのんびり暮らしたい。~私が勇者の指南役? ご冗談を  作者: 九條葉月


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閑話 戦い・2


『――おぉおおぉおおおおっ!』


 人のものとは思えない。

 だが、人のものとしか思えない。そんな絶叫が建物内に響き渡った。



 それと同時に、地下へと繋がる階段から何かが飛んできた。


 人だ。

 金属の鎧を身に纏った騎士が、軽々と吹き飛ばされ窓に激突。そのまま窓を突き破って庭に放り出されてしまったのだ。


 なんという力か。

 ブラッディベアですら、あれだけのことをできるかどうか……。


『おぉ、おぉおおお……』


 苦しそうな呻き声を上げながら。それ(・・)は階段を上ってきた。


 人間、であろうか。

 姿形は人間のものだ。頭に、胴体。腕と足。間違いなく人間を構成するパーツたちである。

 しかし、人間と思えぬほど筋肉は盛り上がり、血管は浮き上がって脈打っている。ただでさえガタイのいいはずの騎士たちよりも、さらに倍はあろうかという身長。これはもはや人間というよりオークやオーガの方が近いだろう。


 そんなバケモノたちが四人。いや、四体も。


「……あれが、あのときの賊ですか?」


「はい、間違いなく。肉体が盛り上がった場面や、枷を素手で引きちぎったところを自分もこの目で見ていましたから」


「枷を……」


 騎士団で使う首枷や手枷は金属製であったはずだ。それを素手で引きちぎるなど、エリカでもできるかどうか……。


(……いえ、おねーさんならできそうですけど)


 そしてエリカであれば金属の枷を引きちぎるバケモノでも簡単に制圧できるはず。

 しかし今、エリカは森の中で『緊急事態』に対応しているという。

 さらにはシンシアたちに任せてくれたのだから……ここは自分たちで何とかしなければならない。


「――狭い廊下では各個撃破されます! まずは訓練場に誘導を! そこで賊共を包囲しましょう!」


「ははっ!」


 騎士団長が承認したことで作戦は決まった。あとは上手いこと誘導されてくれるかという問題があるのだが……。


『――おぉおおおぉおおお!』


 シンシアたちの姿を見つけ、一層の大声を上げるバケモノたち。憎々しげな目で、シンシアを射貫かんとばかりに睨み付けている。


「え? え? 私?」


 戸惑うシンシアと、


「……足を切られたことを恨んでいるのでは?」


 冷静に大剣を構えるフレヤだった。


「足を切ったのはおねーさんですけど!? ――わぁ!?」


 バケモノの一人が、もう一体のバケモノの首根っこを掴み……シンシア目掛けて投げつけてきた。


 人間の筋力であれば人を片手で持ち上げることなどできないし、投げることなど不可能だ。

 だというのに。投げられたバケモノはまるで砲弾のようにシンシアへと向かってくる。


「は、はぁあああ!?」


 迫り来る肉ダルマ。あまりに非常識な光景にシンシアの思考が一瞬止まり、


「――シッ!」


 シンシアの前に躍り出たフレヤが、手にした大剣で飛来する男を両断した。剣を振るったというよりは剣に当たって勝手に斬れたという表現の方が近いのだが。


「え? な、なんですかその切れ味!? 大剣って切れ味はそこまでじゃないはずですよね!?」


「お姉様の準備してくださった大剣ですよ! このくらい!」


「それもそうですか!」


 即座に納得したシンシアは剣を構えつつ後退し、訓練場へと戻った。


 騎士たちがバケモノとシンシアたちの間に展開する。


「お嬢様! お下がりください! ――騎士共! お嬢様とフレヤ様がおられるのだ! 淑女を守るは騎士の本懐であるぞ! ここで奮起せずして何が男か!?」


 騎士団長の煽りを受け、騎士たちが「おう!」や「やってやりますぜ!」と気炎を吐く。


 頼もしい騎士たちに満足しつつ、シンシアが騎士式の敬礼をする。


「騎士団長! 私たちも戦います!」


「お嬢様!? しかし……」


「私たちもエリカフィアーネ様から後事を託されたのです!」


「……承知いたしました」


 シンシアたちがそんなやり取りをしている間にも騎士たちが動き、かぎ爪の付いたロープを投げてバケモノ共を拘束しようとした。


『おぉおおぉおおおっ!』


 だが、力任せに暴れるバケモノ共のせいで、押さえつけようとした騎士たちはロープごと投げられてしまう。

 やはり簡単に対処できる敵ではない。

 自然、遠巻きで様子を見る形となる騎士たち。


 残ったバケモノは三人。


 うち二人は騎士たちが取り囲んだが、騎士の数が足りない。残った一体は必然的にシンシアとフレヤが対処することになった。


「やぁああっ!」


 シンシアがバケモノの巨体を恐れることなく斬りかかるが、その剣は易々と防がれてしまう。バケモノの右腕によって。


 いくら筋肉がオーガ並みに盛り上がっていようとも、鉄でできたロングソードの一撃を防げるわけがないのだが……もしかしたら筋肉だけでなく魔法的な防御も有しているのかもしれない。


 あまりの手応えのなさにシンシアが驚愕していると、バケモノが剣を受けたのとは逆側の腕でシンシアを殴りつけた。


「ぐぅううっ!?」


 腹部に一撃を食らい、耐えきれずに吹き飛ばされるシンシア。そのまま訓練場の壁に衝突してしまう。


 普通の人間であれば内臓が破裂するし、壁への衝突で背骨が折れてもおかしくはない。……いや、普通の人間より遥かに鍛えているシンシアでさえ、それと似たような負傷を負ってしまった。


 即死しても不思議ではないし、たとえ生き延びても戦闘続行は不可能。


 だが、シンシアには自動回復(イルズィオン)のスキルがあった。しかもエリカの手によってスキルレベルが上がったばかりの。


 そして。

 シンシアが無事であると確信していたフレヤは、シンシアの方を向くことすらせずバケモノに斬りかかった。シンシアを殴りつけて伸びきった左腕に。


 ロングソードですら傷を付けられなかったバケモノの身体。


 しかし、ロングソードよりも遥かに重く、遥かに切れ味の鋭い専用装備『大剣フレアグス』は易々とバケモノの左腕を切断してみせた。


「……ちっ」


 体勢が崩れた状態での追撃は無理だと判断したフレヤは後ろに跳び、バケモノと距離を取ってからシンシアに駆け寄った。


「シンシア! 無事ね!?」


「ぶ、無事っぽいですけど……もうちょっと心配してくれてもいいのでは?」


「あんなパンチ、お姉様の攻撃魔法よりはマシよ」


「それもそうですけど……」


 実際自動回復(イルズィオン)のおかげでもう痛みすらほとんどないが、それでも少しくらい……と思ってしまうシンシアだった。


「でも、やっぱり凄い切れ味ですね。あんな固い腕を易々と両断――え?」


 フレヤと専用装備を称えていたシンシアが、目を見開いた。

 バケモノが切り取られたばかりの自分の腕を拾い上げ、切断面と切断目を『ぐちゃり』と押し付けたからだ。


 切り口を合わせたところで腕が繋がることなどない。そんなことは魔法のある世界であっても『常識』だ。


 だというのに。

 切断されたはずの腕は、繋がってしまった。まるで粘土をくっつけるように。


「うげぇ」


「非常識な……」


 エリカのおかげでグロテスクと非常識に対する耐性ができている二人だが、それでもなお目を逸らしたくなる光景だった。


『おぉおおおっ!』


 バケモノが繋がったばかりの腕を振り回し、シンシアたちに襲いかかってくる。

 だが、その動きは緩慢だ。

 いいや、以前のシンシアたちであれば対応できなかったかもしれないが……今の彼女たちはもっと速く、もっと容赦のない攻撃魔法を体験してきたのだ。いったい何を恐れることがあろうか。


「シンシア。どうします?」


「どうします、と言われても……」


 腕を切り落としても回復するのだから、並大抵の攻撃では回復されてしまうだろう。それこそ、自動回復(イルズィオン)のスキルで致命傷すら回復してみせたシンシアのように。


 エリカの特訓がなければ、先ほどの一撃でシンシアは死んでいただろう。


 ならば、エリカの教えの中に『答え』があるはずだ。そうでなければこんなにも都合良く特訓を付けてくれるはずがない。


 エリカはブラッディベアを輪切りにしていた。

 エリカは山賊共の首を次々に刎ねていた。

 エリカは冒険者たちの足を切り、行動不能にしていた。


 シンシアの実力では輪切りにすることは難しいが……。


「……首を刎ねれば、死にます」


「まるでお姉様みたいな解決方法ですね」


「えぇ、おねーさんみたいに、です」


 首を刎ねる。

 言葉にすれば簡単だが、実際にやるとなれば困難だ。シンシアのロングソードでは攻撃力が足りないし、フレヤの大剣だと素早さが足りない。さっき大剣で腕を切断できたのは攻撃後で油断していたからこそ。


 もはや相手も油断しないだろうし、素早く動き回るバケモノの首を刎ねるのは困難だろう。


 しかし、何とかするための答えはもうエリカから教えられていた。


 急に決まった特訓でエリカから教えられたことは三つ。


 自動回復(イルズィオン)

 自動魔力回復(イルズィカーリオン)


 そして、身体強化(ミュスクル)のスキル。


 先ほどの特訓の際、エリカは言っていた。「せっかく魔法とスキルで二つも身体強化(ミュスクル)使えるんだから、使わなきゃ損よ?」と。


 そう。今のシンシアたちは二種類の身体強化(ミュスクル)を使うことができるのだ。元々習得していた魔法・身体強化(ミュスクル)と、エリカから教えられたスキル・身体強化(ミュスクル)を。


 二つ、使う。


 つまりは(・・・・)二重起動(・・・・)である。


 スキルの身体強化(ミュスクル)を発動した上に、魔法の身体強化(ミュスクル)を重ねる。


「やりましょう、フレヤちゃん。身体強化(ミュスクル)の二重掛けです」


 シンシアの提案と、エリカの教えがフレヤの中でも一つになったらしい。


「ま、まさか、お姉様はこんな状況も見越して身体強化(ミュスクル)のスキルを私たちに……?」


「えぇ、そうに違いありません。だってあまりにも出来過ぎているのですから」


 この戦いが始まる前に教えられた三つのスキル。そのうち身体強化(ミュスクル)は急いで習得する必要はなかったのだ。すでにシンシアたちは身体強化(ミュスクル)の魔法を使えたのだから。


 それを知りながらもスキルの方も教えたのは――二つ使えという意味に違いない。シンシアはそう確信したのだ。


 ……もちろん、あのポンコツがそこまで考えているはずがないのだが。確信を抱いたシンシアは身体強化(ミュスクル)のスキルを発動した。


 全身に力が溢れ、どんな敵でも倒せそうな気持ちになる。


 その上でさらに呪文を唱え、身体強化を二重掛けする。


「――身体強化(ミュスクル)!」


 まるで弾丸のように。シンシアはその場からバケモノに向けて射出(・・)された。


『お、おぉおおおっ!?』


 今までとは明らかに違うシンシアの動きにバケモノが戸惑うが、もはや反射的に拳を振るい、シンシアを迎撃しようとする。


 そんなバケモノの右腕を、シンシアのロングソードが切り裂いた。バターを切り取るように。易々と。先ほどは傷一つ付けられなかったというのに。


 そして、


「――やぁああああっ!」


 同じように身体強化(ミュスクル)を二重掛けしたフレヤも切り込み、バケモノの足を切断した。エリカが冒険者共にしたように。


『おぉおおおっ!?』


 いくら人を越えた肉体を有しようとも、足を切られればバランスを崩し、倒れるしかない。


 砂埃を上げながらバケモノが地面に倒れ込む。


 盛大な『隙』だ。

 その隙を見逃すことなく、シンシアはロングソードをバケモノの首に振り下ろした。まるで罪人の首を落とす処刑人のように。


 鮮血が吹き出し、地面に首が転がっていく。

 バケモノはしばらく痙攣していたが、やがて動かなくなった。


「や、った……?」


 シンシアが気を抜きそうになるが、


「まだです! まだ一体残っています!」


「そ、そうでした!」


 戦いの中で騎士たちも一体のバケモノを打ち倒したようだ。

 しかし騎士たちも満身創痍。もう一体を倒すことは難しいだろう。


 フレヤの言葉でシンシアが最後のバケモノに意識を向けたところで、


『――おぉおおおぉおっ!』


 包囲していた騎士を振り払い、バケモノがシンシアたちに突撃してきた。


 しかし、一度攻略したあと。シンシアとフレヤは慌てることなく化け物と対峙した。まずはシンシアが斬りかかってバケモノの意識を自分に向け、そのあとフレヤが足を切る。そうしてバランスを崩したところで――シンシアが首を刎ねた。


 もはやパターン化した対処方法。最初こそ手こずったが、身体強化(ミュスクル)の二重掛けという力を得た二人からすればもはや『ゲーム』の攻略に等しかった。同じ動きをする敵に対して最適化された行動を取り、狩る。たったそれだけのことなのだから。


「制圧終了。ここは騎士に任せて森に向かい、おねーさんのお力添えに――え?」


 剣についた血を拭ったシンシアが、驚愕で目を見開いた。……首を落としたはずのバケモノが、まだ動いていたからだ。


 蠢くバケモノは、首を落とされたもう一体のバケモノに近づき、その上に倒れ込んだ。


 ぐちゃり、という音がした。


 ぬちょり、ぼきりという音がする。


 その光景をなんと表現したものか。

 首を落とされた二体のバケモノ。それが、合わさった(・・・・・)のだ。


 合体。

 まるで粘土で作った二体の人形をぶつけ、こね回し、大きな大きな一体の人形にするかのように。首を刎ねられた二体のバケモノが、一体の巨大なバケモノになってしまったのだ。


 こんなことができるのは、もはや生物ではないだろう。

 魔物でも、魔族でも、こんなことは不可能だろう。


 首を落としたおかげか、首から上は存在しない。

 だというのに、バケモノは確かにシンシアたちの姿を捉えた。


「……なんですか、これ?」


 手の震えを隠すようにシンシアが剣の柄を握りなおし、


「分かりません……。しかし、倒さなければいけない『敵』です」


 フレヤも、僅かに声を震わせながら決意を口にした。


 そんな二人を横目に、勇敢なる一人の騎士が果敢に斬りかかるが、バケモノに当たった剣はあっさりと折れてしまった。


『『おぉおおぉおっ!』』


 訓練場が震えるほどの大声を上げたバケモノが、斬りかかった騎士を叩き潰した。うざったい羽虫を潰すように。


 騎士だったものの鮮血が周囲に飛び散る。


 一撃を食らえば、シンシアたちもああなるだろう。いくら自動回復(イルズィオン)があったところで耐えきれるかどうか……。


 しかし、ここで逃げるという選択肢はない。


 逃げれば騎士が犠牲になるだけだし、騎士が全滅すればこのバケモノは街に出るだろう。無辜の民が犠牲になることなど、許せるはずがない。


 なにより。

 シンシアは貴族であり、勇者候補なのだ。いずれ魔王と戦い、打ち倒さなければならない使命を抱いているのに、こんなバケモノ相手に逃げ出してどうするというのか。


 剣を構え、改めて身体強化(ミュスクル)を二重掛けする。


「――――」


 気合一閃。

 シンシアが爆発的な勢いで踏み込み、バケモノに剣を振り下ろした。


 バケモノの反応はない。

 シンシアのスピードに対処できなかったのか、あるいは――対処する必要すら感じられなかったのか。


「なっ!?」


 振り下ろしたシンシアの剣が折れる。バケモノにかすり傷すら負わせることなく。


「まさかまた強化され――」


 シンシアは、見た。

 自分に向けて振るわれる拳を。

 先ほど騎士を簡単に潰してしまった一撃を。


 まだ、バケモノの拳には騎士の血が、肉片がこびりついている。


「あ……」


 シンシアは死を覚悟し、


「――シンシア!」


 そんな彼女の前に、フレヤが躍り出た。まるで『盾』になるかのように。


 バケモノの拳はフレヤの大剣に当たり、そのまま大剣ごとフレヤとシンシアを吹き飛ばした。


 そのままの勢いで訓練場の壁に激突するシンシアとフレヤ。


「ぐっ」


「くっ」


 フレヤの状況は酷いものだった。大剣を盾代わりにしたので即死こそ免れたが、大剣を握っていた両腕の骨は複雑骨折し、止めきれなかった衝撃は内臓のいくつかを破裂させていた。自動回復(イルズィオン)のおかげで即死こそしなかったが、先ほどのシンシアより遥かに悪く、しばらくは呼吸すら困難になるほどの負傷だ。


 それに対してシンシアのケガはさほど深くはない。壁に激突した際のダメージはもうスキルのおかげで回復している。


 だが、頼りの武器は折れてしまった。

 エリカであれば空間収納(ストレージ)から別の武器を取り出せるかもしれないが、シンシアはそんな便利なものは持っていない。


 しかし、だからといって抵抗を止められるものか。

 まだ回復に至らないフレヤを。この場にいる騎士を。そしてなにより街の住民たちを守るため。シンシアは戦わなければならないのだ。それこそが勇者候補であるし、それこそが貴族なのだから。


 いざというとき武力で民を守るからこそ、貴族は貴族たり得るのだ。

 ここで立ち向かうからこそ、勇者候補は勇者になれるのだ。


 武器は、ある。

 フレヤの持っていた大剣フレアグスを握りしめる。持ち手が致命傷を負いながらも刃こぼれ一つない名剣を。


 もちろん、シンシアに大剣スキルはない。身体強化(ミュスクル)を使えば振り回すことはできるかもしれないが、フレヤのように使いこなすことはできないだろう。


 そもそも、強化されたバケモノ相手では、この大剣も効果を発揮するかどうか……。


 だが、それでもシンシアは戦わなければならない。


 なぜなら彼女は勇者候補だから。

 なぜなら彼女は貴族だから。


 民のために戦い、平和のために戦い、いずれは魔王を倒す勇者にならなければならないから。こんなところで、終わるわけにはいかないのだ。


 手が震える。

 怖いのだ。

 死ぬのが怖い。

 あんなバケモノを相手にするのが怖い。

 でも、もっと怖いのはフレヤが死ぬことだ。騎士にこれ以上の犠牲が出ることだ。罪なき民が殺されてしまうことだ。


 それを防ぐには、戦うしかない。

 シンシアが戦うしかない。


 戦って、勇者になるしかない。

 戦って、勇者にならなければいけない。


 たとえ弱くとも。

 たとえ力が足りなくとも。


 どんな状況でも決して諦めず、どれだけ強大な敵でも圧倒し、たとえ魔王であろうとも打ち倒してしまえる。そんな、勇者に――


 そんな勇者に。

 シンシアには、一人、心当たりがあった。


 とっても強くて。

 とっても優しくて。

 どんな敵でも鼻歌交じりで倒してしまえる。そんな、本物の勇者の存在に。


 そして。

 そうして。

 こういうときに現れるからこそ――


「――あら? なんかすごい状況になってない?」


 真なる勇者の声が、訓練場に響き渡った。




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