ドカーン
まぁメイドについては一旦保留にするとして。
『即座に廃案にするべきでは?』
でも~、原作ゲームファンとしては~、メイド服姿のフレヤちゃんも見てみたいというか~?
『釣った魚に餌をやらない系女たらし……』
ひどい言われようだった。
そんなやり取りをしているうちにシンシアちゃんが公爵から訓練場の使用許可をもぎ取ってきてくれたので、屋敷から騎士団の訓練場に移動する。
公爵家の訓練場は元々闘技場だったというギルドの訓練場よりは狭めだけど、それでも個人が持っているとは信じられないレベルの広さだ。トラック競技とか開催できそう。
「えーっと、スキルレベルについて説明すると、スキルを使えば使うほど経験値が貯まって、レベルが上がっていくのよ」
私の説明にシンシアちゃんが『こてん』と首をかしげた。かわいい。
「経験値……。それは、長年修行した達人の腕前が凄い理由ですか?」
「そうねぇ。理屈で言えば一度上がったスキルレベルは下がらないし、修行すればするほど強くなるわ。まぁ人間の場合は老いがあるから強くなり続けるのは難しいけど。肉体的な影響のないスキルであれば経験値の積み重ねが威力を発揮するわね」
「ほへー」
「初耳の情報ばかりです……」
そりゃあまぁ原作ゲーム知識とそれっぽい嘘を織り交ぜて話しているしね。
(素直な少女たちを騙くらかして……これが魔王……)
騙くらかすってあんた。
「えーっと、とりあえず、重要度の高い自動回復と自動魔力回復のスキルレベルを上げていこうと思うのよ。最高レベルまで上がれば致命傷を負ってもすぐに回復するし」
ちなみにケガや病気を回復するために使用されるのは本人が有するMP(魔力)だ。攻撃魔法のスキルを所持できないフレヤちゃんでも魔力(MPゲージ)自体は持っているからね。
むしろフレヤちゃんの場合は攻撃魔法で魔力を浪費しないシンシアちゃんよりも継戦能力は高いかもしれない。その上さらに自動魔力回復でMP自体も回復させてしまうと。
「自動回復ですか」
「便利なスキルというのは分かりますけど、どうやって鍛えるのですか?」
「それはもちろん――次々にケガをして、次々に回復しましょう!」
「……へ?」
「はい……?」
「次々にケガをして! 次々に――」
「いえ、大丈夫です」
「聞こえてます。理解できなかっただけで」
「えー?」
理解できないの? 経験値を積む。つまりケガと回復を繰り返す。こんなにも簡単な理屈なのに?
「これがハイエルフの思考……」
「……やはり、勇者候補ではない私は帰らせて――」
「では! 早速やってみましょう!」
先ほど冒険者相手にやったように、無詠唱で初級の炎攻撃魔法を発動する私。
私の手のひらに現れた炎魔法。いわゆるファイヤーボールを目にしてシンシアちゃんとフレヤちゃんが目ん玉飛び出るくらい目を見開いていた。
「む、無詠唱!?」
「いくら初級攻撃魔法とはいえ――」
「はい、じゃあ、どーんっと!」
ファイヤーボールをシンシアちゃんたち……ではなく、彼女たちの足元に投げつける私。
原作ゲームにおける裏技というかお遊び技。ファイヤーボールを地面に叩きつけると爆発するのだ。ドーンと。
まぁしょせんは初級攻撃魔法なので威力はほとんどない。爆竹みたいな感じ? 近くにいたらちょっと火傷するくらいで。魔物が出たときに驚かせて戦いを回避するくらいにしか使えない小技だ。
そう。威力はほとんどない。
ない、はずなのだけど。
「きゃあぁあああぁあっ!?」
「わぁああぁああぁあっ!?」
ドカーン、と。
まるで特撮のような大爆発のあと、シンシアちゃんとフレヤちゃんが吹き飛んだ。昭和のギャグアニメみたいな勢いで。
そのまま数秒滞空し、受け身もできずに地面を転がる二人。あっれー? なんか威力高くなーい?
『いい加減、ご自身の手加減が下手くそだと理解した方がよろしいのでは?』
心底呆れた目で見つめられてしまった。いやいや初級攻撃魔法よ? どこをどうやって手加減しろというのか……。
おっと、今はシンシアちゃんとフレヤちゃんを心配しなくちゃね。
「二人ともー、大丈夫ー?」
「うぅ……大丈夫です……」
「凄い……擦り傷がみるみるうちに治って……打ち身の痛みも引いていきます……」
おぉ、ちゃんと自動回復は発動しているみたいだ。
一応『担当生徒』画面で詳細を確認。うん、凄くゆっくりだけどHP(体力)が回復しているわね。それと反比してMPが減っていくけれど、こっちも自動魔力回復があるからそのうち回復していくでしょう。
獲得経験値は……お、スキルの方はちゃんと経験値を得られているわね。戦いでは勝利していないせいか本人のレベルアップに必要な経験値は動いてないけど。
「問題なし、と。じゃあ二発目行ってみましょうか!」
「……へ?」
「はい……?」
初級攻撃魔法を再び発動。シンシアちゃんとフレヤちゃんは別方向に吹き飛んで距離があるので、左右の手に一つずつのファイヤーボールだ。
「魔法の同時起動ー!?」
「しかも無詠唱ー!?」
大絶賛の声に押されながら、私は二人に向けてファイヤーボールを投げつけたのだった。
「きゃあぁあああぁあっ!?」
「わぁああぁああぁあっ!?」
ドカーン、と。
まるで特撮のような以下略。
まぁ天丼展開はお約束かつ美しくすらあるのだけど。ちょっと簡単に吹き飛びすぎじゃない? とか考えながら二発目三発目を。
『……これだから手加減という言葉を前世に置き忘れてきた女は』
ひどい言われようであった。
しかし、これでは私が一方的に蹂躙しているみたいじゃない?
『みたい、ではなく、事実蹂躙しているのです。年端もいかない少女たちを』
ひどい物言いであった。私はただ二人が死なないよう心を鬼にして鍛えているだけだというのに!
『魔王』
なぜだ……。
ティナからの扱いに涙しつつ、私はシンシアちゃんとフレヤちゃんに向けて提案した。
「二人ともー、もっと避けていいのよー? 身体強化を使ってー」
「簡単に言ってくれますね!?」
「避ける暇もないくらい魔法を撃ち込んでくるくせに!?」
「せっかく魔法とスキルで二つも身体強化使えるんだから、使わなきゃ損よ? ――というわけで」
二人が避けやすいよう逃げ道を確保しつつ、さらに魔法をぶっ放す私だった。
「きゃあぁあああぁあっ!?」
「わぁああぁああぁあっ!?」
ドカーン、と。
まるで特撮以下略。




