がたがた
というわけでシンシアちゃんのお家に移動。フレヤちゃんも何度か遊びに来ているのか気負った感じはなかった。
メイドさんが用意してくれた紅茶で喉を潤してから、私は二人に質問した。
「二人は『レベル』って分かるかしら?」
「はい?」
「れべる、ですか?」
「そう、レベル。これが上がると基礎能力が上がって強くなったり、特定のレベルになると限界突破できるようになるのだけど」
まぁ限界突破のためには特殊な素材が必要なのだけど。それは今はいいとして。重要なのはこの世界にレベルという概念があるのかどうかだ。あるなら繰り返し同じ敵を倒してレベリングすればいいし、ないなら様々な敵を倒して色々な経験を積まなきゃならなくなる。
二人の様子は……あまりピンときてなさそうね。
「限界突破、ですか」
「達人の自伝などを読むと、あるとき天啓を得たとか限界を突破した気がしたという記述があることはありますが……」
ふーん。レベルや限界突破は知られてないけど、修行しているうちに偶然限界突破できた人はいるって感じかしらね?
「じゃあ、『ホーム画面』を呼び出すのは?」
私が実際にホーム画面を表示してみせると、二人は目を丸くして驚いていた。うーん、これは完全に初見の反応……。
「ほ、ほーむがめん!」
「ほーむがめん!」
二人がたどたどしくホーム画面を呼び出すけど、なーんの反応もなし。これじゃあ自分のレベルが不明だし、レベルアップまでどれほどの経験値が必要かも分からない。なによりSPを使って新しいスキルをゲットできないのがなぁ……。
こうなると地道に鍛錬してもらうしかないのだけど、それだと私が教える意味はないのよねぇ。
『――少々よろしいでしょうか』
と、小さく手を上げるティナ。
『エリカ様がお二人と師弟関係を結べば、エリカ様からはお二人の状態を確認できるようになるかと』
「あー、そっか」
原作ゲームでも主人公はキャラクターたちのレベルを初めとしたスペックを確認できたし、スキルを弄ることもできたからね。ティナの言う『師弟関係』を結べばゲームと同じようにできるのでしょう。
「じゃあ、師弟関係を結んでくれるかしら?」
「もちろんです」
「そもそも弟子入りしたようなものですからね」
二人が了承してくれたので、さっそく師弟関係を結んでみる。念話でティナからやり方を教わりながら、あたかもやり慣れているような態度で。
「――師弟契約」
その呪文を唱えると、私とシンシアちゃん、そしてフレヤちゃんの周りが光に包まれた。細やかな粒子が舞い踊り、私たちの身体に吸収されていく。
「お?」
先ほど表示したホーム画面の『担当生徒』と『授業』ボタンが光っていた。新しい機能が追加されたって通知かな?
まずは『担当生徒』ボタンを押してみると、シンシアちゃんとフレヤちゃんの顔写真が。まずはシンシアちゃんのアイコンに触れてみると、詳細が表示された。名前や年齢、スキル等々。
「ほうほう? レベル9で、スキルは剣技Lv.2と炎魔法Lv.2、生活魔法Lv.3か。称号は王太子の婚約者と、勇者候補。そして担当生徒と」
ちなみにレベルの上限は99で、スキルレベル上限は10となる。
最初から剣技と魔法のスキルを持っているのはさすが最高レアキャラ。いわゆる魔法剣士。SPが足りない初期だと使いこなすのは難しいけど、後半になればなるほど威力を発揮する系だ。
えーっと、たしか最初のボスであるブラッディベアを倒すにはレベル10から15くらいは欲しいって話になっていたはず。レベル10ならプレイヤーの腕で何とかできて、15あれば初心者でも何とかなるって感じで。
剣技のレベルは2。山賊5人を簡単に切り伏せたわりには低いような気もするけれど……スキルのレベルは10が最大だからね。むしろ勇者学校に通う前からレベル2なのは凄いくらいだと思う。
SPはそこそこ貯まっていた。これはまぁ使い方を知らないのだから当然よね。原作ゲームの定番なら回復系のスキルを真っ先に取るのだけど……。
私が持っている自動防御と自動防御結界はスキル一覧に見当たらなかった。まだレベルが足りないから習得できないのか、あるいは最初から習得できないのかもしれない。
そう、キャラによって習得できない魔法やスキルがあるのだ。
たとえば魔法使いとしての才能があるシンシアちゃんなら後天的に他の属性の魔法も習得できるけど、フレヤちゃんでは攻撃魔法系のスキルは習得できないはずだし。
そんな中、全員が習得できるのが防御系の自動回復と自動魔力回復だ。
なので本来なら二人も習得できるはずなのだけど……。お、あった。現在の所持スキルとは別に、習得可能スキル一覧画面を発見。そこにちゃんと記載されていた。まだ習得してないから半透明だけど。
ちなみに自動防御と自動防御結界は見つからなかった。まだレベルが足りないのか、そもそも習得できないのかは分からない。
「シンシアちゃん。スキルはまず自動回復と自動魔力回復を習得しようと思うのだけど。それでいいかしら?」
「へ? あ、はい? ……えーっと、スキル習得ですか?」
「? なにか他に欲しいスキルがあるの?」
「いえ、その前にですね……スキルって習得できるのですか? 生まれ持ったスキルしか使えないはずでは?」
「……あー、なるほど。ゲームの世界ではそうなってるのね」
「え、えぇ、人間の世界ではそうなってますけど。しかも自動回復と自動魔力回復? そんなもの、持っているだけで騎士団か魔導師団に入れるじゃないですか」
「ふーん、普通はみんな最初に習得するスキルなんだけど」
「ふつう……さいしょに……。ハイエルフ、怖いです……」
なぜかガクブルと震えだすシンシアちゃんだった。
「はい。というわけでスキル二つゲット。部屋の中で試すのは危ないから、あとで訓練場にでも行ってみましょう」
「あ、はい」
「じゃあ次にフレヤちゃん」
担当生徒一覧からフレヤちゃんを選択。レベルは8で、スキルは剣技Lv.2と大剣Lv.1か。
大剣。
その二文字で思いだした私は、空間収納から『大剣フレアグス』のカードを取り出した。フレヤちゃんの専用装備で、私ではカードからの実体化ができなかったものだ。
「はい、フレヤちゃん。これ、使えるかしら?」
「? これは……カードですか?」
首をかしげながらも素直に受け取ってくれるフレヤちゃん。すると、カードがフレヤちゃんの手のひらの上で回転し始めて――大剣へと姿を変えた。
「おぉおおおお重いぃいいいいっ!?」
突如として現れた大剣を支えきれず床に落としてしまうフレヤちゃんだった。うーん、さすがに片手で、いきなり出現した大剣を支えるのは無理だったかぁ。
「お、お姉様!? なんですかこれは!?」
「大剣よ」
「それは見れば分かりますが! なんですか!? カードがいきなり大剣になったんですけど!?」
腰が完全に引けている状態で私と大剣を交互に見やるフレヤちゃんだった。犬というよりは猫っぽい。
「空間収納の中に丁度いい大剣が余っていたからね。フレヤちゃんに使ってもらおうかなって」
「た、大剣って余るものなのですか……?」
承服しかねる、みたいな顔をしつつも大剣を拾い上げるフレヤちゃんだった。
「――わぁ」
途端に目を輝かせるフレヤちゃん。そのまま私たちから距離を取り、大剣を一度、二度と振ってみせる。もちろん室内なので軽くだけど。
「す、凄いですお姉様! 完璧な重量配分! とても振りやすくて――まるで手に吸い付くようです!」
そりゃあ、フレヤちゃん専用装備だものねぇ。
キラキラした目で大剣を見つめるフレヤちゃん。そんな彼女を見て大満足な私。
と、服の裾を引っ張られた。どこか不満げな様子のシンシアちゃんだ。
「……おねーさん、丁度いいロングソードが余っていませんか?」
お? 嫉妬? フレヤちゃんだけズルい系? ふふふ、モテモテね私?
もちろんシンシアちゃんが望むならレア武器が出るまでガチャを回す覚悟だし、借金をしてでもドワンさんに最高品質の武器を頼んでもいい。
でも、シンシアちゃんは最高レアキャラだ。
装備ガチャで専用武器が出てくるフレヤちゃんとは違い、最後の限界突破で専用武器が出てくるのがフレヤちゃんなのだ。
「んー、ロングソードは余ってない、けど」
「けど?」
「……シンシアちゃんはいずれ『聖剣』を使えるようになるからね。それまで待っていてもらえるかしら?」
「……聖剣ですか?」
「うん、聖剣」
「聖剣は、まさしく勇者の証ですけど……いえおねーさんの言葉を疑うわけじゃないですけど」
「そう? みんな結構聖剣を使っていたけれど?」
シンシアちゃんの専用装備は『聖剣クラウ・ソラス』で、他の最高レアキャラもそれぞれ別の聖剣とか聖槍とかを使っていたし。
「みんな……聖剣を……ハイエルフって……」
なぜかガタガタと震えるシンシアちゃんだった。




