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勇者候補、育てます。~私、魔王だけどいいのかしら?  作者: 九條葉月


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あ、やば


 執事のセバスさんを先頭として、私、ティナ、ガンちゃん、シンシアちゃんという順番で廊下を進む。ちょっとしたRPG気分ね。


 階段を上がり、しばらく進むとセバスさんはいかにも『豪華!』という圧を放っている扉の前で立ち止まった。装飾が派手というわけではないのだけど、それでもお高いのだろうな~と分かる扉だった。


 セバスさんが扉を開けてくれたので、中に入る。


 室内はずいぶんと空気が澱んでいた。たぶんずっと窓を閉め切っているのだと思う。昔の人は窓を開けると外から悪い空気が入ってくると考えていたんだっけ? まぁこの世界ではどうなのかは分からないけど。


 ガンちゃんの心配したとおり、奥様はずいぶんとやつれていた。皮と骨、というほどではないけれど、人によっては不快感があるかもしれない。これは早く元気になってもらわないとね。


 まずは一応鑑定しておきましょうか。スキル一覧に鑑定眼(アプレイゼル)の上位互換、千里眼(バーレイグ)があったし、試用も兼ねて。


「――千里眼(バーレイグ)


 スキル名を唱えると、奥様の周囲に様々な情報が表示された。名前や年齢、職業、保持スキル等々。


 そんな中、『状態:呪い』というのも想定内だった。あとは呪いであると説明してから犯人を捜せば――


(エリカ様。ここは演出も兼ねて、聖魔法で治療するのも手かと)


 と、頭の中にティナの声が響いてきた。聖魔法?


 ……あぁ、そういえば原作で呪いを解呪するとなればまずは聖魔法だったものね。解呪ポーションは高いし作るのも面倒だったから。


 ゲームが進むと呪いへの耐性が強くなるから、初心者プレイヤー相手くらいにしか効果がないのよね。そして初心者は呪うより殴り倒した方が早いと。だからすっかり失念していたのだ。


 ま、とにかく。ティナがオススメしてきたのだから従っておきましょうか。


 冒険画面に移行し、魔法ボタンを押す。


 聖魔法を選択し、呪いを消せそうな最上級浄化魔法を選ぶと、目の前に呪文が表示された。これを唱えれば魔法詠唱になるのだと思う。


「|見よ、神々の慈悲は天にあり《Misericordia deorum in caelis est.》。

 |金色の豊穣は大地に広がり《Agricola per terram diffunditur.》。

 |絆は人々の間にあり《Vincula inter homines existunt.》。

 |天よ。恵みの雨を降らせたまえ《Caelestem, pluviam benedictionum》。

 |地よ。我らに実りを与えたまえ《demitte.Terra, fructus nobis da.》。

 |人よ。温もりの中に奇跡を示さん《Populus, miracula nobis in calore tuo ostende.》」


 私の周囲に光が満ち溢れ、穏やかな風に銀糸の髪が揺れ動く。

 身体の中から魔力が僅かに抜けた感覚があった。

 その魔力が、奥様を癒やしていることが分かる。魔を祓い、呪いを消し、死の運命を破壊していることが感覚で理解できた。


「――道を知れ。(Hildegar)|神の奇跡を、今ここに《dis Bingensis》」


 最後の一小節を唱え終えると、ひときわ強い光が部屋に充満した。あまりの眩しさに私が思わず目を閉じると、


「ぐっ、ぐあぁああぁああぁああっ!?」


 お? なんか背後から絶叫が。男の人の声なのでガンちゃんかセバスさんかな?


 私が振り向くと、セバスさんが苦悶の表情を浮かべ、執事服のボタンがはじけるほど激しく悶え苦しんでいた。え? なに? 急病?


『ここは普通「もしかして最上級浄化魔法のせいかな?」と疑うべき場面では?』


 いやいやまっさか~。さすがにないでしょ。浄化魔法で悶え苦しむなんて悪魔か魔族くらいのもの――


≪――ゲゲッ! まさか本当に『大聖女』だとはな!≫


 下品な高笑いを浮かべながら。セバスさんの身体が床に倒れ、肉体から漏れ出した黒い『モヤ』が集まり、人の形を作った。


 でも、人ではない。

 悪魔とでも言うべき存在だ。

 人間であればあれほど手足は長くないし、指の先から伸びる爪が鋭すぎだし、なによりも頭の両脇から羊のような角が生えていることなんてない。


 そう、頭から、羊の角が……。


 …………。


「……あ、まさか『執事』と『羊』をかけているとか? 執事から羊の悪魔が~」


 なんというギャグセンスのなさ。いっそ可哀想になってしまう私であった。


『可哀想なのはエリカ様の頭だと思いますが』


 なんでやねん。


≪くっ! くそが! 舐めやがって!≫


 悪魔の男が激高するけど、特に恐ろしさは感じられなかった。


 だって、なんというか、こう……満身創痍だったし。

 身体のあちこちから血が流れ出し、苦しいのか肩で息をしている。口を閉じる余裕もないのかヨダレがダラダラ垂れているし、目の焦点もどこか虚ろだ。


≪ぐっ、この深手では……。せめて『大聖女』だけでも道連れにしてくれる!≫


 そう叫んだ悪魔が懐から何かを取りだした。


 手のひらに収まりそうな、筒?


 なんだかどこかで見たことあるなーと思ったら、その筒に付いていた丸いパーツが『ピンッ』と外された。あれはまるで、手榴弾のピンみたいな……。


「……あ、やば」


 思い出した。

 原作ゲームにおける攻撃アイテム、『発破筒』だ。いわゆる手榴弾で、威力は低いけど攻撃範囲は広いのでMP(魔力)を節約して雑魚を一掃するのに重宝していたアイテム。


≪――偉大なる魔王猊下(・・・・)万歳(・・)!≫


 悪魔が叫ぶのと同時、発破筒から閃光が迸った。



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