表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者候補、育てます。~私、魔王だけどいいのかしら?  作者: 九條葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/31

公爵


 シンシアちゃんは私を部屋に残し、父親(公爵)への報告に行ってしまった。たぶん話が纏まれば私も呼び出されるのだと思う。色々ありすぎて忘れがちだけど、元々私はシンシアちゃんのお母様を治療するために商都までやって来たのだし。


 ティナによると、これは『領主の妻を治療せよ』という緊急クエストらしい。


 原作である夢幻のアレクサンドリアにも、同じクエストはあった。


 ゲーム開始後に初めて直面する高難度クエストであり、これをクリアするとゲームのアイコン(広告塔)にもなっている『シンシア・アルフィリア』がキャラガチャに実装されるので初心者プレイヤーから何度も攻略の質問をされ、必然的に印象に残っていたのだ。クエスト内容含めて。


 あと、クエストを終えるまではシンシア・アルフィリアと行動を共にできるから、そういった意味でも印象に残っていた。だって私が『推し』のシンシアちゃんと初めて出会ったのだから。


 ちなみにシンシア・アルフィリアはこのクエストをクリアするとガチャに実装されるけれど……引ける確率上昇(ピックアップ)期間はクリア後の72時間限定&その後は通常ガチャ入り=引ける確率が0.02%になってしまうので、前世(?)の私は家賃程度の課金をして引き当てたという経緯がある。


 まぁ、そのあと通常ガチャ(確率0.02%)で何人かシンシアちゃんが出てくるというお約束をかましたのだけどね。つまり私はシンシアちゃんを愛し、シンシアちゃん×3も私を愛してくれたということなのだ。


『アホですか?』


 さらっと心を読むの、やめてもらえません?


 昔話はとにかく。これが原作ゲームと同じクエストであるなら……シンシアちゃんのお母様は病気ではなく、別の理由で寝込んでいることになる。


 その原因は――呪い。


 公爵家に恨みを持つ人間が闇魔法を使ってシンシアちゃんのお母様を呪い、復讐をしようとするというのが大まかな流れとなる。


 呪いだからポーションや回復魔法では効果がなく、地道な聞き込みや調査などで犯人を捜し当てなきゃいけないから初心者プレイヤーにとって最初の関門になるんだよね。


 まぁでも、問題なし。だって私は誰が犯人か分かっているし。そいつを見つけて『成敗!』すれば事件解決なのだから。


 そんなことを考えていると、客室のドアがノックされた。シンシアちゃんかな?


『では私が』


 ティナがすすす、っとドアに近づき、扉を開けた。そこにいたのはシンシアちゃん――ではなくて、ガタイのいい男性だった。よく見ると後ろにシンシアちゃんもいる。


 男性の年齢は40代といったところだろうか? 少し薄い色をした金髪を後ろになでつけている。かなりのイケメンであり、紳士と呼びたくなる御仁だ。


 着ているものはスーツ……よりも少し高そうな感じがする。男性の服の格式とかはよく分からないけど、重要な式典にも着ていけそう。


 見覚えは、ある。

 最推しの家族なのだから、当然覚えている。


 ――ガングード・アルフィリア公爵。


 商都を中心とした広大な土地を治める大貴族であり、この国の元宰相。


 かつては王の側近として辣腕を振るい、対立する貴族を失脚させたり愛娘シンシアちゃんと王太子の婚約を結んだりと権勢をほしいままにしたのだけど――愛する妻が病に倒れたことで宰相を辞任。商都に引きこもり妻の介助をしているという愛妻家だ。


 公爵が宰相を辞め、王都から離れたことでシンシアちゃんの後ろ盾が弱くなり、それが原作ゲームにおいて王太子から婚約破棄されてしまう一因になるのだけど……まぁ、それは今は関係ないか。


 公爵はなんとも大げさに両手を広げた。


「おお! なんと美しい! エリカフィアーネ様、でしたな? お初にお目にかかります。シンシアの父、ガングードでございます」


 彼は『公爵』とは名乗らずに、『シンシアの父』と名乗った。


 つまり、先ほどティナが助言してきた『ハイエルフらしい不遜な態度』を取りやすいし、ハイエルフという存在を知っているガングードさんも気を使ってくれたのだと思う。


 まぁ、しかし私はチキンハートなので一応確認するけれど。


「はじめましてガングード公。自己紹介は必要なさそうね。……私、人間社会の礼儀には疎いのだけど」


「おお! お気遣いいただき感謝いたします! ですがお気になさらず。しょせん私など公爵の地位を親から引き継いだだけの男。ハイエルフとして生まれ、かつてのグラトス帝国を知っているエリカフィアーネ様から見れば赤子も同然ですからな!」


 ちょっと演技っぽく答えてから、ガングード公は私にウィンクしてきた。こういう人を伊達男というのかしらね?


「それに、ハイエルフに敬語を使わせたとあっては、私が他の貴族連中から袋だたきに遭ってしまいます。ここは私を助けると思って」


「そう? じゃあ、これからよろしく、ガングード様」


「いえいえ、様付けなど結構。どうぞ気安く『ガングード』と呼び捨てにしてください」


「さすがにそれは……じゃあ、親しみを込めてガンちゃんで」


「が、ガンちゃん……? いえ、光栄でございます。急いで用意させた客室ですが、何か不自由などありませんでしたでしょうか?」


「えぇ、問題ないわ。素敵なお部屋をありがとう」


「いえいえこちらこそ、伝説のハイエルフを我が屋敷に迎え入れることができるとは末代までの誇りとなりましょう。本来であれば相応の格となるよう部屋の改装をしたかったのですが――」


 なんかこのままだと上流階級っぽい雑談が続きそうだなーいつまで経っても本題に入れなさそうだなーと判断した私は、さっさと話題転換することにした。


「ガンちゃん。あなたの奥様が病気だと聞いたのだけど?」


「……はい、今は小康状態ですが、日々痩せていっておりまして……。エリカフィアーネ様はポーションを持っておられるとか」


「えぇ。シンシアちゃんに頼まれたから治療をするのは構わないのだけど。病状によって適したポーションが変わってくるのよね。奥様に会わせていただくことは可能かしら?」


「かなり痩せ細っていますが、ご不快でなければ是非」


「大丈夫よ、では早速行きましょうか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ