1.12 火力
いくら24世紀の超技術で作られていようが、所詮拳銃は拳銃だ。
獣相手には威力不足なのではないか、という微かに抱いていた懸念は残念ながら現実のものとなり、当てたところで大抵は頑丈な肉体に阻まれてしまう。
ただ、その量産品にしては過剰とも言っていいほどの照準性能のおかげで命中率は高く、脚部や頭部などに弾を当てて怯ませ、ヴェローナやアンリ、そしてユーベルにその隙をついてもらうという形で順調に戦闘は進んだ。
ところでアンリは、彼女がいつも携帯しているミニエー銃に似たライフルにはまだ手をかけず、ユーベルとともに魔法を主体にして戦っている。
考えてみれば、まだ彼女があの銃を撃ったところを見ていない。
見た目通りの前装式ライフルなのであれば、装填に手間がかかるからだろうか。
火縄銃よりは早いだろうが、それでも一分かけて3発撃てれば上出来というほどだ。威力や射程は十分だろうが、いくら手際が良くても打つたびに何十秒も隙を作ってしまう。魔法で戦ったほうが手早いだろう、という結論に至るのもおかしくはないか。
であれば、なぜそんな文字通りの無用の長物を携帯しているのか、という疑問が出てくる。
ストックにはめ込まれた魔石や、銃身に施されている彫刻に何かしらの秘密があるのだろうか?。
「……来たか」
などと考えていると、新たな標的、と言っても既に飽きるほど見た赤イノシシが射程に入ってくるのが見える。
拳銃を構え、照準器に表示されたグリーンのレティクル越しに目標を捉える。
目標との距離、風の条件などの軌道計算を経て光点が動き、予想される着弾位置を正確に表示してくれる優れものだ。
息を吐き出し切ったところで一瞬息を止め、引き金を引く。
高電圧が流れるコイルで幾重にも加速された鉄芯弾が、独特の金属音を立てて飛翔し、赤イノシシの右眼を貫く。
「ナイスショット!私もいくよ!」
予想外の一撃に怯んだ赤イノシシに対して、アンリはすかさず飛び出し、右手を敵に向かって突き出す。
杖や魔導書なしで魔法を使う時の基本的な動き、らしい。
開かれた掌の中心に炎のような赤い光が灯り、その熱はみるみるうちに強くなり、矢、あるいは槍を想起させるような輪郭を形作る。
「えいっ!」
アンリが叫ぶと、手のひらに生成された『炎の矢』は放たれ、燃えるような赤色の軌跡を描いて飛んで行く。
その矢は目標から少し離れた地面に衝突し、外したかと思ったその瞬間、着弾点は爆発音と共に炎混じりの黒煙に包まれた。
「おお……」
とても一人の人間が一瞬で作り出してはいけない惨状に、思わず声が出てしまう。
爆発半径は10m程度だろうか。そのの勢いは凄まじく、周囲の数頭の別個体を巻き込むほどだった。
他の味方が近いようには見えなかったから問題はないが、狙いのズレを爆発力で解決するというのは一体どうなんだ。
しかも、掛け声一つだけで発動していたような。彼女が最初に魔法を使う様子を見た時は、多少なりとも詠唱らしいフレーズがあったような気がするし、最初の砲撃の時に後衛の魔法使いたちは言語まで違う長い詠唱をしていた。
そもそも、魔法そのものが既知の科学からかけ離れすぎていて訳がわからないが、ますます分からない。
「ふう、なんとかなった〜」
そんな俺の困惑に気付く筈もなく、アンリは爆風でずれたらしい丸眼鏡の位置を直すと、何かに気づいたように辺りを見回した。
「どうした?」
「今戦ってるやつら、みんな何かから逃げてるって感じしない?」
少し落ち着いてきた戦場を見回してみると、一部の個体がアレティア市街方面ではなく、戦線から逸れて南方の別の森林の方に流れている様子が見える。
アレティアを襲撃するというよりは、元いた森から逃れようとしている様に見える、かもしれない。
「確かにな。でも一体何から逃げてるんだ?」
「もしかして、例の大型個体っていうのは……」
アンリは途中で言い淀むと、群れが来た方の森のある一点を見つめる。
「ねえ、アレって」
アンリが指差した先に目を移すと、双眸が深紅に光る異常な大きさの影が、砂煙を立ててこちらに迫っているのが見えた。




