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星彩の旅人  作者: TenK4su
12/12

1.10 作戦

警報で叩き起こされるのにももう慣れたと思っていたが、それが鐘の音になるとは思ってもみなかった。


仕方ないことだが、やけに肌触りの良い服とベッドもこれでは勿体無い。


隣の部屋から何やら物音がする。

どったんばったん音を立てているから、アンリが起きたところだろう。

警報の正体がなんであれ、対処できる準備は整えておくべきだ。


用意されていた中で動きやすそうな服にいそいそと着替え、目立つ軍用ジャケットに結局袖を通し、エンドテーブルの収納に仕舞っていた拳銃をホルスターに差し込んで、一階に降りる。


アンリがひと足先に降りており、飛んできたらしい従者ユーベルと何やら会話している。


こちらに気付いたアンリが口を開こうとしたその時、拡声器で増幅されたような、しかしノイズが無い、若い男の声が、窓の外から響いてくる。


『あ、アレティア軍及び戦闘能力のある冒険者に告ぐ!至急東門前に集合せよ!繰り返す!アレティア軍及び……』


その声の語気にしても内容にしても、かなり差し迫った問題が発生していることには間違いなさそうだ。


「どういう状況だ?」


二人に聞いてみると、ユーベルがやや緊張したような声で答える。


「『東部大森林』、ムカイ殿がいらした所よりしばらく東にある森より、数百から千頭規模の魔物群が襲来しているとのことです」


「なっ……」


魔物一体の戦力が未知数だが、慌てようからして昨日見たようなスライムが500なんてことはないだろう。頭という数え方をしているから、獣の類が魔力で変異した魔物、とかなのだろうか。


「にしたって、何故ここに……?」


漏れた独り言を聞いてか、アンリはライフルスリングを肩にかけながら叫ぶ。


「今は考えても仕方ないよ!私たちも東門に行こう!」


緊急時に考えすぎて判断や行動を遅らせるのは状況を悪くしかねない。

今求められているのは100点の遅い行動よりも、80点の迅速な行動だ。


「……ああ、すまない。行こうか」


二人は頷き、俺たちはセーフハウスを後にした。



街中でその規模の戦いが起きたら怪我をする住民は続出するだろうし、死人が出るかもしれない。街を戦場にしてはならない。


冷凍睡眠の影響がまだ残っているのか、未だ微妙に力が入りきらない体に鞭を打ち、駆け出す。


寝泊まりしたセーフハウスから門までそれほど離れている訳ではないようだが、今は一分一秒が惜しい。


若干息が辛くなってきたが、ユーベルやアンリの方はペースむしろペースを上げており、息が乱れている様子もない。


やはり体力がかなり落ちているのか、などと考えていると、一瞬俺の方を振り向いたアンリが少し驚愕したような表情を見せ、ペースをこちらに合わせてくる。


「渡し忘れてたー!」

アンリが叫びながら、何かを手に持ってこちらに差し出してくる。


息切れのあまり言語としては成立していない返事とともに、少々困惑しつつそれを受け取る。

途端、息の苦しさが消え、少し体が軽くなる。

教科書的に習った戦闘用薬物の効能リストが一瞬よぎるが、暖かな光を浴びるような感覚が、魔法の作用であることを直感させる。


何という技術、いや魔法だ。

全速力、何ならそれ以上の速さで走っているのに、肉体にかかる負荷は軽いジョギング程度だ。

これなら、彼女らが息を荒げてすらいないのにも納得できる。


「すごいな。これは一体?」


「体力とか、その他身体能力を引き上げる魔導回路を刻んだ腕輪ね。魔石もついてるから、しばらくは肉体の魔力切れも心配しなくて大丈夫!」


銀というよりは白に近い金属光沢を持つ、その細身の腕輪を左手首につける。不思議と金属の冷たさも無く、軽量だからか違和感もほぼない。

中央に嵌められた丸い魔石は、その石本来の空色ではなく、風や森を思わせるような緑色に輝いている。


使用中は色を変えるということだろうか?


「ふうむ……ちなみに魔力が切れたらどうなる?」


「魔石の方を使い切ったら、肉体の魔力を消費するね。だいたい平常時の20%を下回るくらいから意識が朦朧としてきて、それでも使い続けると気絶、もしそこから更に他者に吸い上げられたりなんかしたら……って感じかな」


「なるほど」


魔力というのは血中に流れたり、何らかの形で肉体にも存在しているのか。


……となれば俺にも魔法が扱えるということか?

正直興味はあるな。落ち着いたら聞いてみようか。



緊急時と言っても腹は減るもので、腕輪のアシストがあるとはいえ動いている以上エネルギーの消費も激しい。


こういう時に無理矢理口に流し込めるゼリー飲料があれば便利なのだが、もちろんのことそんな物は無い。

あのグレープフルーツ味が恋しくなるとは思ってもみなかった。


まあ、最悪3日くらいなら食わずとも動けはするから問題ないだろう。


あとの二人はどうしているのだろうと思い横を見ると、いつの間にかアンリの方はパンを咥えながら走っていた。


クレイオの奴が昔見せてきた古典アニメ作品みたいだ。

本当にやる人いるんだ。


ユーベルの方は特に変化なく、つくづく内心の見えめない人間だと思わせてくれる



「おお、あれは」


前を見るとと、人だかりのざわざわとした喧騒が近づいてくる。

歩速を緩めて近づいてみると、恐らくアレティア軍の、同じ意匠の鎧の兵士の隊列と、数人のグループごとに固まっている、冒険者と呼ばれるらしい集団が数十組。

人数比的には半々といったところだろうか。冒険者の方は、歴戦のエリートっぽい気迫のある者から、よくあるファンタジー作品で言うところの薬草を摘む依頼ですら失敗しそうな奴まで幅広い。


軍の隊列の前には、この門の検問で会話を交わした、第2中隊長を名乗る赤髪の女性も見える。あの時は分厚い大振りの剣だったが、今日は似たような意匠の大型斧を持ってきているようだ。


閉じられた門のすぐ前には、仮設されたのであろうステージが設けられ、その奥には軍の司令官らしき逞しい体格の男が見える。


彼が壇上に登ると、冒険者たちは一斉に静まり返る。


「諸君らはもう知っていると思うが、現在、獣型魔物の大群がこちらへ一斉に移動しているとの報せがあった」


男の低く重たい声が響く。

これから行われるのは、作戦前のブリーフィングといったところだろうか。


「偵察隊の伝達魔法による情報であり詳細は不明だが、確かに強力な魔力の流れを検出している」


「分析班の情報によれば、多くは猪型であり、3体の大型個体が混在しているとのこと」

周囲がどよめく。どうやら珍しいことらしい。


「珍しいなー。あっちの方で何かあったっけ?」

アンリが俺にギリギリ聞こえるくらいの声量でユーベルに聞く。


「先日お嬢様をお迎えに上がった際、道中から見える森の方でブラッドボアを何頭か見かけたのですが、どれも目が通常よりも赤くなっていたような、いやしかし……」


発生要因について結論は出なかったようで、二人して少し唸り、冒険者達の会話も落ち着いた頃、壇上の男が再び口を開く。


「城門の突破を避けるため、我々はこれより東に進み、街から離れたところで可能な限り数を減らす。特に、大型個体は城壁に近づく前に始末せよ」


「猪型は突進する性質を持つ。軍は防衛線を築き、うち魔法部隊は戦闘支援を行う。冒険者諸君は、遊撃と討ち漏らしの対処、状況や能力により軍の支援を頼む」


「冒険者への報酬は、ギルドから難易度B依頼相当の報酬、活躍が見られた者にはアレティアより別途報酬を約束する」


無理矢理当てはめるとすれば、正規軍と個人のPMCの混成といったところなのだろうか。

やり方の違いで対立が起きたりはしないのかという疑問もあるが、軍も冒険者も相当慣れているようで、特に争っている様子はない。


疑問もあるが、とにかく今は早く動くべきだ。


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