1.8 鞄
今回短めです。
「おっ、いけた」
400年弱もの沈黙を破り、鞄はあっけなく解錠された。
「え!?開いたの!?」
いつの間にかそばに居たアンリは、横からこちらを覗き込んでくる。
隙間が見えないほどに固く閉じられていた特殊合金製の蓋が、少し持ち上がっている。
「うそ……」
それに気づいたのか、アンリは言葉を失って固まる。
「おーい、どうした?」
あまりに長く固まっているアンリの顔の前で手を振ってみると、彼女ははっとした様子で答える。
「ごめんごめん、びっくりしちゃって。ほら、さっそく開けてみようよ!」
「ああ」
小さく頷き、鞄の蓋に手をかける。
「いくぞ……」
慎重に、ゆっくりと蓋を開ける。
中に入っていたのは、見慣れた記録装置と、1枚のメモだった。
「これ何?」
「記録装置だな、残念ながら今は読むための装置が無い」
携帯端末や脳内埋込型インプラントの類があれば話は別だが、ないものをねだっても仕方がないし、インプラントについては付けたいとはあまり思わない。
「問題は、こっちか」
メモは多少劣化があるが、読むのには支障がなさそうだった。
「読み上げるぞ」
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やあ、向井。
これを読んでるってことは、どの時代かはともかく肉体の修復が完了してて、あの町はまだ残ってる…ってとこだといいな。
これを書いてるのは例の一件、「天災」から丁度10年ってタイミングだ。
おそらく君は、寝ている間の出来事や、「天災」について気になっている所だろう。
今わかってる範囲ではあるが簡単に説明しよう。
ジャンプドライブが起動したあの瞬間に、人工太陽が消えて、人々の様子がおかしくなった。
周りにいた殆ど全員が気絶して、起きたら皆「今までの記憶がない」って言うんだ。
君は昏睡状態で動けなくなってたから、なんとかまだ動いてる医療ポッドを見つけて放り込んだよ。
それ以来、電子機器類はほぼ全部ダメになって、都市部は暴走したドローンで崩壊。
専門家も一般人も程度はまちまちだけどみんな記憶喪失。
脳内インプラントを入れてる人も、そこに保存してたデータが全部飛んでしまったらしい。
僕はサバイバルの知識が皆無な人間がこの環境で生き残るのは難しいって思って、家に溜め込んでた本とかの知識を共有して、皆で生き残るための教室を開いた。
それがあの町ができた経緯だ。
書ききれないけど、今わかる事と、僕がやったことは大体こんなところかな。
「何が起きたのか」は少し分かるけど、「なぜ起きたのか」は今のところ全く分からない。
人類の滅亡を避けるための働きは十分にしたと思うから、僕もどこかで冷凍睡眠に入って君の起床を待つことにするよ。
クレイオ
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「記憶喪失に、機械の暴走か」
機械に依存しきって、それが動く前提で成り立つ社会で、そんな事が起きたらひとたまりもない。
コロニーがまだ生存可能な状態で制御されている事すら、奇跡と言って差し支えないだろう。
「クレイオさまが……まだ生きてる?」
「らしいな、どこで寝てるかか分かればいいんだが」
「そっちの方にヒントがあるかな?」
アンリが記憶装置を指さしながら言う。
記憶装置を扱える機器は持ってないし、地下の機械群は破損していた。
となれば……ああ。
おそらく現存する、もしかしたら唯一の管理者アンドロイド。
「ユリアなら、分かるんじゃないか?」




