光の丘の子犬たち【冬の童話祭2026】
弟は、いつも私といっしょに遊びたがる。
ダメって言うとすぐに泣く。
泣きむしだ。
いつも、私が、がまんする。
弟は、いつもママを独り占めする。
交代してっていうと、すぐに泣く。
泣きむしだ。
いつも、私が、がまんする。
私だってゆずれないときがある。
今日は、ダメ。
でも、そう思うたび、胸の中がきゅっとする。
* * *
丘の上の巣穴に、朝の光がすべりこんできました。
柔らかい草のベッドの上で、子犬のネイは、目をこすりながらあくびをします。
あたりには朝露の匂い。
鳥の声が空を満たしています。
弟のコリンが起きてきて、ネイのしっぽをくわえて引っぱっりました。
「ネイ、あそぼうよ!」
ネイは、まぶたを半分閉じたまま、あとでね!と小さくつぶやきます。
けれど、コリンは、すぐに泣きそうな顔に・・・
「いまが、いいの!」
その声に、ママが、ゆっくり顔をあげました。
「どうしたの?」
ママの声が、朝の光と一緒に飛び込んできて、ネイは、目を開け体を起こしました。
「ネイが、あそんでくれないの!」
コリンは、小さな足をばたつかせます。
ネイは、ため息をついて立ち上がりました。
しかたないな・・・そう心の中で思いながら、ぶんぶんと振られるコリンのしっぽを見て、ネイは、小さくため息をつきました。
外に出ると、丘の草が風にゆれていました。
ネイとコリンは、ふたりで転がりながら遊びます。
草のにおい、空のにおい、風のにおい。
コリンは何度もころんで、ネイはそのたびに助け起こすことになりました。
「ほら、気をつけて。」
ネイに助け起こされるたび、コリンは、しっぽをぶんぶんと振るのでした。
昼になると、コリンが、また泣きはじめます。
「もっとあそびたいのっ!」
ママが、お昼寝の時間よ!と優しく言うと、コリンは顔をしかめます。
「やだっ!」
ネイは、小さく首をふって言いました。
「ママの言うこときかないとダメよ。」
コリンは、目に涙をため、ネイなんかきらい!と叫びながら、巣穴の奥へともぐりこみました。
その小さな言葉が、針のようにネイの胸に刺さります。
ママが、そっと寄り添って、ネイの頬をなめました。
「コリンは、まだ小さいのよ。言葉より、気持ちが先に出ちゃうの。」
ネイは、ママの言葉にうなずきましたが、やっぱり胸の中のもやもやは消えませんでした。
その夜、コリンはママのお腹の横で眠りました。
ネイは、反対側で、ひとり静かに巣穴の天井を見つめます。
ママのやさしい呼吸の音。
コリンの寝息。
それらが重なって、巣穴の中は、とてもあたたかい環境です。
けれども、ネイは、とても寂しかったのです。
私だって、ママにくっつきたい。
でも、コリンが泣いちゃう。
だから、私はがまんするの?
それが、おねえちゃんだから?
いろんな疑問を頭に浮かべながら、ネイは、静かに目を閉じるのでした。
翌朝の風は、少し強く、冷たいものでした。
森の葉っぱは、ざわざわと揺れています。
ママは、言いました。
「今日は、風が強いから、遠くに行ってはだめよ。」
ネイは、素直にうなずきましたが、コリンは首をかしげます。
「だって、あそびたいのに・・・」
「でも、お外は、寒いよ。」
「ぼく、寒いのは、平気さ!」
「コリンは、元気ね。でも、ママは食べものを探しに行かなくちゃ。おうちを守るのは、ネイとコリンの役目よ。お願いね・」
おうちを守る・・・私にできるかな?
ネイは、ちょっと心配になりました。
ママが出かけたあと、ネイは巣穴の前に座って風を感じていました。
となりでコリンは、鼻をひくひくさせながら言います。
「ママ、はやく帰ってくるかな?」
「うん。きっと、すぐよ。」
その時、木の枝が、ぱきりっと音を鳴らしました。
ネイは、びくりっとして、コリンの前に立ちます。
「大丈夫。私がいるから。」
コリンは、ネイのうしろに座り、小さくうなずきました。
冷たい風が止むと、森の中に光が差しこみました。
その光はやさしくて、あたたかくて、まるでママのしっぽのよう。
ネイは目を細めて思いました。
きっとママが、どんな時も見てくれている・・・
だから、がんばれるはずっ。
ネイは、表情を引き締めて、巣穴の入り口に仁王立ちするのでした。
ママが帰ってきたのは、夕暮れでした。
くちいっぱいに木の実をくわえ、しっぽをふっていました。
「ふたりとも、いい子にしてた?」
「うん!」
巣穴の奥から飛び出してきたコリンは、叫びます。
ママは、笑って、コリンの顔をなめました。
「コリン、風の音、こわくなかった?」
「うん、ネイが、まもってくれたの。」
その言葉に、ネイは少し驚いてコリンを見ました。
「そう。ネイ、ありがとうね。」
ネイにとって、そのママの声は、夕日の光よりもあたたかく感じました。
朝、空気は澄んでいて、丘の下の川がきらきら光っています。
ママが、言いました。
「お水を飲みに行きましょう。」
三匹で、丘を下ります。
草の上を歩くたび、朝露が、きらきらと光って、とってもきれいです。
コリンは、はしゃぎながら石の上を跳ねます。
「ネイ、見て!飛べるよ!」
ネイは、叫ぶように注意しました。
「気をつけて!」
次の瞬間でした。
どぼんっ!
コリンは、足をすべらせて水の中に落ちてしまいました。
「コリン!」
ネイは飛びこみ、コリンの首根っこをくわえて引き上げます。
コリンは、びしょぬれで震えていたけれど、すぐに泣き出しました。
「ネイが、怒ったぁ!」
ママが、かけよって、その大きな体でふたりを包みこみます。
「ネイ、ありがとう。コリンを助けてくれて。」
ママは、ほっぺをなめて褒めてくれましたが、ネイの胸は、ざわざわしました。
どうして、コリンは、私が悪いみたいに言うんだろう。
危ないことを止めただけなのに・・・
ある日、いつものようにママが、お出かけすることになりました。
「ちょっと食べものを取りにいくから、ネイ、コリンをお願いね。」
「うん。」
ママが出ていくと、コリンが、言いました。
「ママいないとつまんない。外であそぼうよ。」
ネイは、首をぶんぶんと振ります。
「ママが、言ってたよ。外は危ないって。」
「でも、ぼく、たいくつだもん!」
「泣いてもダメ。ママとの約束だから。」
コリンは、目に涙をためたけれど、やがて小さくうなずきました。
ネイは、その頬を優しくなめてあげました。
「泣かないで。だいじょうぶ。ママ、すぐ帰ってくるよ。」
外から風がそっと吹きこみ、巣穴の中に光がゆれます。
それは、ネイを支える心の灯りのようでした。
夕方、丘の上は金色の光でいっぱいです。
草が風にゆれ、光の粒が空へと舞いあがります。
ネイとコリンは、並んで座っていました。
森の向こうから、ママが歩いて帰ってきます。
夕日のトンネルの中を通るママの毛は、金色に光って見えました。
「ただいま。」
ママの声が、やさしく響きます。
「ネイ、コリン。いい子にしてた?」
「うん!」
いつものように、コリンが、元気よく答えます。
「うん、がんばったよ。」
ネイは、少し照れながらそう言いました。
ママは、二匹を抱きしめるように頬を寄せると、柔らかい声で言いました。
「あなたたち、もうすっかり立派になったわね。」
コリンが、笑いながら言いました。
「ぼくね、ネイみたいになりたい!」
「えっ?」
ネイは、驚きました。
「だって、やさしくて、つよいんだもん。」
ネイの胸に、あたたかい光が広がります。
風が、ふわりっと吹きぬけ、丘いっぱいに光が舞いました。
草の緑、空の青、ママの目、すべてが金色に染まります。
まるで、三匹の周囲だけ時間が止まったようでした。
ネイは、空を見上げます。
夕焼けの空に、一番星が光っていました。
「ママ、空がきれい。」
「そうね。がんばった子には、空がほほえんでくれるのよ。」
ネイは、ママに体を寄せ、コリンの小さな体を引き寄せました。
風の音が、やさしく耳をなでます。
わたしたちは、家族だから・・・泣いて、笑って、がまんして、守って!
その全部が、光になって重なっていくの。
「ママ、ありがとう。」
「どうして?」
「何だか分からないけど・・・ありがとう。」
ママは、微笑み、ネイの頬をなめました。
「そうね・・・ネイ、優しさは、強さの中にあるの。今日は、よく頑張ったわね。」
コリンが、あくびをして、ネイのとなりにころんと寝ころびます。
ママもそっと身を伏せ、三匹は肩を寄せあいました。
空の色がゆっくり夜に変わります。
けれど、丘の上には光が残っていました。
金の粒のような、あたたかな光が・・・
* * *
丘の上の風はやさしく、家族のぬくもりが、世界を包んでいき、空の星が、ひとつ、またひとつ光りはじめます。
それは、おねえちゃんになった日の、小さな光です。
光は、いつまでもネイを照らし、キラキラと輝きつづけました。




