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小説 コーポ長谷川 ②|家事は嫌だ。でも火事はもっと嫌だ。 の巻

洗い上がったシャツにアイロンを滑らせながら思う。一樹のスーツ姿は好きだけど、このシャツのアイロンがけだけは、家事の中で一番嫌いだ。

昨夜の告白を思い出しながら、この四年間はいったい何だったのかと、胸の奥が虚しさでいっぱいになる。


「真っ白でシワひとつないこのシャツを見て、後悔しろ」

わたしの時間を返せ。労力を返せ。


一樹との付き合いも四年目に差しかかる頃、私たちは同棲を始めた。

きっかけは、一樹の実家で起きた火事だった。


火事があった夜、私は一樹と一緒に部屋でテレビを観ていた。突然、彼の弟が勢いよく部屋の扉を開け、「火事!火事!」と叫んだ。その背後の窓には、すでに真っ赤な炎が揺らめいて映っていた。

すぐに父親も慌ただしく駆け込んできた。


「一樹も、ゆいちゃんも、すぐ逃げなさい!今すぐに!」


私たちは取るものも取らず、慌ててそのまま外へ飛び出した。


一樹の実家は、敷地内で工務店を営んでいた。火元はその工場だったらしく、大きく燃え上がった火の手は間もなく母屋へと燃え移ろうとしていた。

十月下旬。乾いた空気が火をあおり、一樹の家はあっという間に燃え盛る炎に包まれた。


薄着のまま逃げてきた私たちと一樹の家族は、身を寄せ合うようにして空高く立ちのぼる炎をただ見上げることしかできなかった。


ようやく駆けつけた消防士たちは懸命に消火活動を行い、警察官たちは簡易的な事情聴取をしながら現場を回っている。

ふと気がつくと、どこからともなく現れた若者たちが、家の前の路肩に停めていた私の車を押して、近くの畑へと移動させていた。

それを呆然と見つめながら、私は思った。


「あ……免許証も、車のキーも、あの家の中だ……」


【3】へつづく

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