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第7話 青春のお悩み

残暑だなぁ

文化祭後、夏休み_。学生がやることはたったひとつだ。

「みんな文化祭お疲れー!カンパーイ!」

『カンパーイ!』

法理(ほうり)さんの声を合図に店内が騒がしくなる。今日はクラス全員で焼肉屋に来ているのだ。目的はもちろん文化祭の打ち上げだ。

(こういうの初めてだから違和感だな…。)

クラスは全員で36人なので6人ずつの6グループに分かれている。俺のグループは俺、法理さん、康晃(やすあき)喬椰(きょうや)白雪(しらゆき)さん、なつさんのいつメンだが、不思議なことに白雪さんをかなり久しぶりに見た気がする。

「いやぁ大人数で食事は久しぶりだなー楽しいねぇ!楽しいねぇ!」

法理さんがいつにも増してハイテンションで、残像が見えるレベルの横揺れをしている。でもここまで来るとちょっと…

「今日の音葉変人じゃない?」

白雪さんがストレートに言った。声は引き気味だが笑顔だ。そういえば文化祭初日以外は白雪さんと会ってない気がする。

「最終日俺らめちゃくちゃ大変でさー!なぁ十色(といろ)?」

「ああ、あと閉祭式だけだったのに余計に疲れたよ。なつさんはどうだった?」

「どうだったも何も、いや、な、何でもないよ…ほら、音葉(おとは)ちゃんは?(あれは思い出しただけで死ぬ!)」

「うーん。私見てたよ、みんなのこと。いやーなつちゃんだいぶ攻めてたねぇ!ニヤ」

「いいい言わないでーー!」

まあ、そんなこんなで打ち上げはおおいに盛り上がった。そして時刻は午後8時、空には星々が浮かんでいる。

「焼肉美味かったー!喬椰、十色、二次会でカラオケ行こうぜ〜!」

康晃はまだまだ元気そうだ。だけど…

「いや、俺は帰るよ。ここから家まで遠いし。」

「そっか〜、喬椰は?」

「…………。」

喬椰の顔が青ざめている。

「大丈夫か喬椰?」

「吐きそう……帰る……バス探さなきゃ……」

すぐに帰ってもらった。元々少食ぽいから今日は少し無理をしたのだろう。

「じゃあ僕と行こうか康晃君。」

話しかけたのはクラスのムードメーカー西貝翔陽(にしがいしょうよう)だ。

体格、髪型ともにザ・ラグビー部といった感じで、身長は180cmあるとか。だが実際は合唱部である。なんというギャップ。

「よし、じゃあ翔陽と行ってくるわ!じゃあな!」

「行ってらっしゃいませー。」

俺はしばらくカラオケに向かって歩く2人を見ていた。市街地は明るく、遠くからでも2人の姿がよく見えた。

(さて、帰って漫画でも読むか。)

そうして俺は街灯の少ない方へと歩き出した。



15分前まで打ち上げで騒いでいたのがもうかなり前のことに思える。あっという間だったからだろうか。でも余韻はまだ心の中にしっかり残っている。不思議な感じだ。そんなことを考えながら私は夜道を歩いていた。

(いずみ)、また考えごとしてるでしょ。次はどんな妄想してるの?ニヤ」

「も、妄想じゃないってば!おちょくらないでよ音葉〜。」

自分の世界に入りかけたところで音葉に話しかけられたので動揺してしまった。ふと音葉の方を見るとちょうど目が合った。ちょっと引きつった笑みを浮かべる音葉を見て気付いた。私はすかさず問う。

「なんか悩み事でもあるの?」

「あははっ、相変わらず勘が良いね〜。ま、今相談しようと思ってたんだけド。」

そう言って早速音葉は話し出した。

「私のバンドはね、今年組んだばかりだけどかなり順調だったんだ。ライブに来てくれる人もかなり増えてきてさ。でも、ある日のライブでみんなミスを連発してね。そんなに難しい曲でもなかったんだけどなぁー。」

初めて元気の無い音葉を見た私は目を合わせられなかった。内容はざっくりだし喋り方も変わってないけど分かる、心が不安定だ。

「ライブの後、リーダーが言ったんだ、もっと『本気』でやろうって。その時は頷いたけど、今はもう自分の本気が何なのかもわかんなくなってる。」

本気かぁ…確かに、今まで全力でやってきてのミス、それで本気でやれと言われても腑に落ちないよね。

よし、自分らしく友に応えるとしよう。

「私は、『本気』はミスをしても、お客さんが離れても、自分を信じて続けていくことだと思う。空回りしても、それは全力でやった結果だからね。誇りに思ったっていいと思う。どうかな?」

自分らしいセリフだったかな?と考えながら音葉の方を見た。

「それいいねっ、信じるものは救われる、みたいな?」

そこにはこっちを向いてニッコリ笑っている音葉がいた。ボブヘアが月明かりに照らされる。

(可愛い…。)

そう思った次の瞬間には口が動いていた。

「私、音葉も信じるし、音葉の音楽も信じるよ。だから…音葉も自分を信じてね!」

「もちろんだよ!」

まさかの即答に少し驚いたが、私たちは前を向いて家への歩みを進めた。正面にあるのは満月だ。

高校生になってからの仲だけど、私に悩みを打ち明けてくれた事、そして友達の力になれた事が、今日はたまらなく嬉しかった。


「ねえ泉ぃメガネ取ってもいい?どんな顔になるか気になるナー。」

急に?

「ん?じゃあ外すよ、ほい。」

「う、うおおぉ!?」

「どう?」

「か、かわ、うおぉ!?」

表情豊かだなーこの子は。

















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