第4話 準備期間
4月だけど未だにネックウォーマーつけてる。
文化祭3週間前の放課後、俺はフォトスポットのセットの買い出しに向かっていた。
白雪さんと2人で_。
「…………。」
「…………。」
沈黙。行き交う車の走行音と近所のおばちゃん達の話し声だけが響く。てかおばちゃんの声デケーな。
「あのぉー…。」
俺は沈黙を断つべく話を切り出そうとする。
「な、な、何かナ?」
白雪さんは何故か動揺している。いつもは法理さんと知的な会話をしているイメージがあるのだが。
「いや、なんでも…。」
俺は咄嗟に返した。それに対し白雪さんも返す。
「そ、そう。私、歩いてる時は人と話さないから慣れてなくて、上手く喋れないんだ…よ。」
「へえー、意外だな。」
「そ、そうなんだ、ね。」
それからまた沈黙が始まり、なんの面白味も無く買い出しが終わると思ったのだが…。
「じゃ、じゃあ学校に戻ろうか、十色君。」
俺の前にいたのはキリッとした目のかっこいい系美人だった。
「ああ、て誰?(美人だ…。)」
「何言ってんのさ、私だよ!」
美人の正体はメガネを外した白雪さんだった。大人しそうなメガネ女子が実は結構な美人だとは。まさか現実にいるとは思わなかったぞ。
「なんで外してるんだよ?」
「いやー度が強くてずっとつけてられないんだよねー。」
(新しいの買えよ…。)
帰りは白雪さんから話かけてきた。
「文化祭があるとはいえ十色君が仕事してるのなんか意外だなー、普段ぼけっとしてる感じだからさ。」
若干のディスを感じるがスルーしておこう。
「そうかな?まぁ俺特技とか才能とかないからこんくらいのことしかできないけどね。」
少し間を空けて白雪さんが返す。
「でも卓球は得意じゃん。中学の時は市ベスト8だったんでしょ?」
「あれは運が良かっただけだよ。俺には特に何も無い。」
そう言うと白雪さんが語り出した。
特技も才能も無い人はいない。俺みたいな人でも何かしらは持っている。ただそれを見つけられていないだけ。だから今の自分に何も無いからと言ってネガティブになる必要は無い。だってさ。熱いなー。そしてポエム味を感じる。
やっぱ一応頭の片隅に置いておこう。
そんなこんなで俺らは教室に戻ってきた。時刻は午後5時、まだ外は明るい。作業をしていた康晃、法理さん、なつさんが俺らに気づく。
「遅かったねぇ〜何か恋のイベントがあったのかな〜?」
何を考えているのか、法理さんはニヤニヤしている。
「特になーんにもなかったけど。」
白雪さんは何故か赤面している。買い出し中は何も起きなかったはずだけど……俺の記憶が消えてるのかな?
「じゃあなんで赤面してるのかな〜?ニヤニヤ」
ついにニヤニヤがセリフになってしまった。
「べ、別にナニモ…」
うんホントに何もなかったよ。だから面倒なことしないでください。
「ねえねえ〜」
法理さんは白雪さんの両肩を掴んでだる絡みしている。
「だから本当に…」
白雪さんは嫌そうな顔をしている。
「知ってるよーん、いつもの演技でしょ?ニヤ」
え?
「バレちゃった、あはは」
白雪さんの表情は一転し笑顔になる。
「ホント、こういう茶番好きだよねー!ハハ!」
法理さんはニヤニヤを超えてニッコニコだ。
えー……。
仲良しJKから目を逸らすと、椅子を6個並べて寝ている奴がいた。副委員長の百木喬椰だ。
「で、なんで喬椰は寝てるの?」
俺の質問に康晃が答える。
「あいつ、ちょっと作業手伝ってから『準備期間を満喫するんだー!』って言って他の人達とトランプしてから寝たよ。」
「何やってんだか…。」
「喬椰君は一番青春してる感じがするねぇ、あの子が何考えてるか凄く気になるよ!ニヤ」
法理さんの『ニヤ』に違和感が無くなってきた。まあそれはともかく、喬椰の頭の中は1回覗いて見たいものだ。
「さあ皆さん作業再開しましょう!予定より早めに完成しそうですよ!」
ここでなつさんが呼びかける。提案者なだけあって熱量は人一倍だ。
「よし、じゃあさっさと終わらせるか!」
「今日の作業終わったらみんなでラーメン行こうよ!」
「いいね!ほら、十色君もやるよ!」
「あ、うん。」
これが高校の文化祭…準備期間とはいえ結構楽しいかも。さて、少し頑張るか。