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第10話 課外研修①

今日で1年。

(やらかしたー!)

5時間目の終業の鐘で目が覚めた。昼休み直後の授業が一番眠いのは説明するまでもない事実だが、始業から終業まで寝たのはさすがの俺も初めてだ。初のフル居眠りに加え、1日と14時間前に夏休みが終わってしまったせいで全くやる気が起きない。今日はもういいや、と思って再び机に伏せようとした時だった。

十色(といろ)!なに寝ようとしてんだよお!」

康晃(やすあき)が勢いよく机に突っ込んできた。ラグビー選手のタックルかと思ったぞ。

「なんだよいきなり。何かいい事でもあったのか?」

「いい事があったわけではないけどな、6時間目は課外研修の話らしいぞ!楽しみだな!」

そういえばそんなものもあったな。


うちの学校では1年生は課外研修として自然体験センターとやらに行くことになっている。しかも1泊2日で近くの宿泊棟に泊まるそうだ。なぜ自然を学ぶのに2日も使うのかよく分からないがこれが1年生の行事の目玉になっている。「宿泊」という部分がやはり大きいのだろうか。まあとりあえず、当日を楽しみにしておこう。


そして当日。クラス全員を乗せたバスは自然体験センターへと向かっている。談笑する者、寝る者、お菓子を交換する者など過ごし方は様々である。隣に座る喬椰(きょうや)がぽつりと言った。

「なあ十色、オセロを持ってきたから夜勝負しようか。」

「いいよ。言っとくけど俺、オセロ強いからね。」

自慢じゃないが俺は中学生の時にクラスのオセロ大会で優勝したことがある。当時は卓球でも結果出してたからこれで人気上がると思ったんだけどなあ。みんな案外、他人を気にかけていないかもしれない。俺自身も誰が結果を出してもそいつに歩み寄ることはしなかったし。

「ちょっと(いずみ)ちゃん!?何その量!?」

「いやあこんなの誰も予想できないよねぇ。」

最後尾の5人席を陣取っている女子がざわめいている。しかも大人しめの白雪(しらゆき)さんのことでだ。少し様子を見てやろう。

「見て!4個入りのミニドーナツ12袋持ってきたよ!」

い、(いか)つい。まさか白雪さんがその方向でネタに走ってしまうとは。1種類のものを大量に買うなんて到底俺にはできない。ついバランスを取りたくなってしまうからな。

「泉さんミニドーナツ好きらしいぞ。学校行事の度に持ってきてるって。」

喬椰がニヤつきながら補足してきた。

「それ誰から聞いたの?」

音葉(おとは)からだよ。」


時は飛んで夕方、初日のメインイベント『カレー作り』である。班のメンバーは俺、康晃、喬椰、翔陽(しょうよう)の4人だが…料理できるやついるのか?というのが一番の懸念点だな。まあでも高校生4人、レシピもある、きっと大丈夫だろう。

「まずにんじんを1口サイズに切る!」トントン

切れたぞ、ちゃんと1口サイズに。でも思ってたのとは違う。まるで正四面体、角張ったオレンジ色の積み木である。普段料理をしないとこうなってしまうのか。他はどうだろうか。

「十色ぉ、やっちまったよ〜!」

これは翔陽が切ったじゃがいも…とにかく細い、フライドポテトに使うのかってくらい細い。てかカレーのじゃがいものイメージって大体みんな同じだよね?少しゴロっとしたやつ。どうやったら細長くなるんだ。

「まあ大丈夫だろ、味が良ければ全て良し!なんなら食えればそれでいいんだ!」

「お前吹っ切れたな。」

可哀想な野菜たちをルーとともに煮込んでいる間に米が炊けたようだ。担当は康晃と喬椰、2人とも飯盒(はんごう)炊爨(すいさん)は初めてのはずだ。出来は…

『うおー!!』

ふっくら、そして一粒一粒が輝いている!底の方におこげはあるのだろうか、あっても構わない、いやむしろあった方がいいまである。嗚呼、今すぐルーとともに!いざ実食!


「ちょっととろみが足りないな。でも美味い。」

喬椰がそうボソッと呟いた。

「水、いや、カレー味のお湯か。」

翔陽が分かりやすく言ってくれた。そう、煮込む時間が足りずスープのようなカレーになってしまったのだ。この世にはスープカレーというものがあるがそれとも違うので正直説明に困る。

「まあ食えるから結果オーライかな。」

「4人で作ったからより美味く感じられるしな!俺はおかわりもするぞ!」

康晃は4人の中で一番良い食べっぷりだ。確かに、このメンバーで作ったなら失敗なんて関係ないな。せっかくだしそう思って食べよう。

うん、カレー味のお粥!


夕食が終わればあとは部屋で自由時間を過ごすのみだ。俺と喬椰は約束通りオセロをしている。

「お、じゃあここ貰うよ。」

「うっわまじかよ!」

負けた。これで3連敗。喬椰は思っていたよりも強いな。そもそもオセロが強い人は何を考えているのだろうか。相手を迷わせる手とかはよく分からないな。

「おい皆の衆、肝試しに行かないか?」

康晃が急な提案をしてきた。

「肝試し?自然学習センターの宿泊棟に肝試しできる要素があるのか?」

当然翔陽が疑問を持つ。

「この宿泊棟には小さい別棟があってな、そこでは昔宿泊客が複数名不審死を遂げたらしい。それで今は別棟は使用禁止だ。」

なるほど、それが本当ならとんでもない心霊スポットじゃないか。だが俺は幽霊なんか信じちゃいない。いないけど本当に行くつもりなら留守番するぞ、先生にバレても困るしな。第一、せっかく友達と泊まるってのにわざわざリスクを負って心霊スポットに行くやつがいるか?

「面白そうだな、行ってみよう。」

え、翔陽行くの?お前のラガーマン並のフィジカルも幽霊相手には無意味なんだぞ?まあ幽霊なんかいないけどな。

「2人が行くなら俺も。」

喬椰も?お前は副委員長なんだから真面目に部屋に籠ってろよ。お化けがいた!なんて先生に言ったら笑いものだぞ?まあ幽霊なんかいないけどな。

「十色〜お前もしかして行かないつもりか?それは許さないぞ!よし、来い!」

えー………。


先生の監視を抜けたその先では、俺らの足音だけが響いていた。暗闇へと続く廊下、無機質な白壁、点滅する蛍光灯、雰囲気が既に完成してしまっている。

「みんな、行くぞ。」

スマホのライトを着け、康晃を先頭に別棟へと侵入した。

「うおっ!?なんだトイレのマークか。人かと思ったわ。」

翔陽はまだ平気そうだ。だが俺の横では喬椰が震えながら静かに呼吸をしている。俺もだけどさてはお前、流れであとをつけてきたな。…そうだ!喬椰と先に部屋に戻ろう。大丈夫、 多分まだ間に合u

「キャーーー!」

甲高い悲鳴が響き渡った。それと同時に

「どわあああーー!」

「バカ!十色大声出すな!」

「あ…ああ…。」

喬椰叫ぶことすらできていない。なんだあの悲鳴は。絶対ヤバい、引き返さなきゃ、終わる。

「け、結構近かったんじゃないか?もう少し進めば何かあるぞ。」

「す、進むか。」

康晃も翔陽も頭のネジが飛んでいる。この状況で先に進むとか何を考えているんだ。ふざけてんのか。


先にあった、というか落ちていたものを見て俺はハッとした。まさかあの人…いやあの人たちも?

「喬椰、これって…。」

「ああ、その可能性は高いな。」

落ちていたのは記憶に新しいミニドーナツだった。












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