偽物剣士と偽物姫
生まれ変わるというのは、即ち前の人生が失われてしまったと同じ。
幻想的な異世界で、私はそう回想していた。
ぷくぷくほっぺに澄んだ瞳、とんがった耳。
(エルフ族、エルフって聞こえるから勘違いでもない)
「成人までずーっと先、どうしようかなあ」
長命種の悩みは人生が長いゆえにどうやって過ごすかの悩み。
ある程度魔法を使えるようになったので、今後の人生の使い方を悩む日々。
「リーシャ、どうだ?」
「うん、似合ってる」
私が自作した服が彼女の凛々しい顔に似合う。
この服は私の転生する前の人生で見たことのある服を再現したものだ。
リーシャはそれをみながら、ハッとなる。
「そうだ!RPGの旅をしに行こうかな」
幼馴染のエルフ、ホロンはこちらを不思議そうに見ている。
「あーるぴーじー?とはなんだ?」
「冒険!」
「冒険?」
「うん。絵本とかで作ったやつ」
「ああ、リーシャが作ってた奴か」
思い出したのかホロンはそれを指す。
「幸い、私の形状記憶魔法は凄く、その凄いから、擬似ダンジョンを作ったり、敵を作ったりすることが可能なの。ゲームの能力だって、この世界の人なら魔力使えば再現可能だし」
ここは現在、エルフの街の私の家の私の部屋。
もう直ぐ区切りの年齢が来るので、なにかやりたいという気持ちだけがあった。
「本みたいな冒険したくない?」
聞いて見たがホロンは苦笑。
「といってもな、モンスターもないし、ダンジョンもないし」
「そ、こ、は、作るの!」
「作るのか?」
「で、私達はそれを動画で撮影してこれを流す」
私達の擬似冒険をテレビ的な立ち位置の魔法で流す。
この世界は、前世の世界で言うところの動画投稿初期時代。
動画投稿する個人なんて珍しく、企業がテレビポジションに居るのが普通の感覚。
つまり、決まったところしかなく、個人の投稿がないので私はマンネリなのだ。
エルフも他の種族も楽しそうに見ているから、マンネリとかいう概念、無さそう。
「それで、最後にラスボス倒してクリア」
「ラスボスっていうと王様か?」
実はラスボスの風格と見た目と肩書きを持つ人がいるんだけど、異世界の王様なのだ。
緩いところに定評がある異世界は、王様も緩い。
まるで、親戚のおじさんである。
「王様なのに国民にオジちゃんって呼ばせるところから世界観、訳わかんないよねえ」
あの人ならノリノリでラスボス役してくれそう。
「と、言うわけで、私達はRPGの旅に出ようね」
「徒歩か?」
「徒歩だけど」
ホロンは冷や汗をかく。
リーシャの思いつきは毎回面白いけれど、くたくたになる。
「折角この格好なんだから、手始めに草を回転斬りするところ撮影しよっと」
「母上のお気に入りの花を切らないようにするんだぞ?」
ホロンはやれやれと一緒に外へ行ってくれる。
魔法で撮影を開始。
草を切る。
私は姫の格好をしているから、本当は剣士役にやってほしい。
というわけで、ホロンにさせた。
「はああ!」
掛け声までの監修もばっちり!
「良い感じ、良い感じ」
「ほら、草切ったらお金出てきたよ」
「なんで出てきた??」
草切っても出てこないのは世の中の常識だ。
はい、1エルフ。
「お金の単位がエルフなのか」
「考えるの面倒い」
リーシャという監督が居る中、ホロンの剣士様という格好での旅は始まった。
「ふう、喉乾いた」
自動販売機があるので、そこで購入。
そして、近くに居た人にこれを売るフリをして欲しいと頼む。
「?????」
突如売り物屋にさせられた人はエルフ二人に混乱しながら飲み物を売る商人をやらされた。
手揉みお願いします。
あ、カブトムシのバックもあるんで、小道具セットしてもらって良いですか?
ありがとうございます。
初めての商人犠牲者は意味のわからないまま、カブトムシというリュックを背負わされ、飲み物を手に報酬と言われたものを暫し見つめると、ゴクリゴクリと飲んだ。
長命種なので一応再起動は早めだ。
その後、この世界の人達は、その場でクエストやちょっとした小ネタなどを言わされる、唐突のエキストラをさせられることとなる
「あの人、凄く困惑していたな」
「そだねえー」
やめた方が良いんじゃないか、という遠回しの言葉は当然通じるわけがなかった。
「動画投稿する前にBGMと字幕付けておかないとな」
軽いシナリオも。
出ないと、見る人も何が起こっているのか分からないだろう。
「まあ、リーシャが良いなら良いが」
投稿日を予約しておき、リーシャは寝る為に自作した自宅を空間からここへ取り出す。
「ホロンの部屋も完備しておいてるから、安心して寝て」
「ああ」
ホロンは疲れたのか即座に寝落ちた。
明日の冒険の為の仕込みをちょちょいとしておいた。
私も後から寝落ちした。
たっぷり英気を養い、ホロンと共に起きる。
「ほい、果物」
「これだけか?少なすぎる」
冒険の初めって食料不足なんだよね。
「大丈夫。これ、果物に見えるけど食べたらちゃんと美味しい料理に偽装させた別物なんだよね。見た目はこんなんだけど量とか多いよ」
「凄い。果物に似せた違う食材だ」
「やっぱりそこは外せない」
ホロンは仕切りに感心して、さてと、と立ち上がる。
今日はどうするのかと聞かれる。
「もちろん、冒険の初心はモンスター討伐!スライム用意してまっせ!」
CGじゃなくて実写。
魔法で巧みに動かす。
「どう?凄くない?モンスターっぽくない?」
「凄い。生きているみたいだ」
生きてないから大丈夫。
「ホロンはあれをばっさり切るんだからね?」
「そうか」
「出来るだけ立ち回りしてね。苦戦して」
「分かった」
ホロンは言われた通り剣をブンブン振り回してはスライムの攻撃を当たり、当たられ、苦戦の末に倒す。
「なにか落ちている」
拾い上げると昨日リーシャが考えていたスライムの素材(偽物)である。
「それはスライムを倒すと出てくるスライムの素材」
「スライムの素材」
存在しないモンスターの素材を集めてどうするというのだろう、と彼女は混乱。
「あ、大丈夫大丈夫。のちのちクエストで使うから」
「クエスト(存在しない)??」
存在していないクエストに、存在しない素材。
ホロンは頭が混乱して、取り敢えずポーチに入れた。
「存在してないから、余計にわけがわからないんだが」
打ち明けるとリーシャはからりと笑う。
「へーきへーき!私達だって存在してない剣士と姫だもん」
そういえば、そうだった。
これは、異世界を巻き込むこととなる、ロールプレイングゲームなのだ。
「スライムを倒したら進もう。ちょくちょくトーク挟みつつね」
「トーク」
「やっぱ旅は会話がなきゃね」
「旅??旅してるんだったか?そうか、してたな」
エルフ的に旅じゃなくて散歩というか、旅行というか。
「あ、宝箱みっけたよ」
「宝箱???とは??」
宝箱など人生で現実に見たことないぞ、と向こうを見ると宝箱があった。
そして、手前には頭に髑髏マークの描かれたエキストラ盗賊(唐突に指名されたお店でお酒を飲んでいた男性一名様)。
「ホロン、宝箱には良いものが入ってる。でも盗賊を倒さないと奪えないんだよ」
「盗賊から宝を奪ったら私達は第二の盗賊なんだがな」
ホロンは取り敢えずお宝を盗賊風のお兄さんから奪還する為に、押し合いの剣捌きに徹する。
「がんばれホロン。HPが赤色だからもう直ぐだよ」
「その概念はどこからやってきた?」
勿論、動画編集時に出現させる予定。
死闘の末、ホロンは盗賊を倒して宝を得る。
因みに、盗賊のエキストラお兄さんは生暖かい目で帰っていく。
宝の中身は盾。
「???。思ったんだが、この盾を盗賊が使えば良かったんじゃないかと」
「装備出来るのホロンだけだからむりじゃない?装備しようとしたら弾かれるんじゃない?」
「無体な盾だな」
ホロンは盾を装備する。
この盾を作ったのはリーシャだ。
デザインにはこだわったよ。
「剣と盾の次はなににしよっかなあ」
今日の動画はまだ続く。
歩き出す二人はトークという動画にか欠かせない要素を交えて進む。
「お、街が見えてきた」
「ここは私たちの街と隣り合ってる。いや、待て、なんだか廃れてるぞ!?」
うちの街と大差ないような見た目だったのに、朽ち果てる前の前くらいの見た目に変化してしまっていた。
「実は事前にここの町長に話をしておいた。仕込みって大切じゃん?」
「大掛かりになってきたな」
「町長すっごいノリノリだったよ」
そんなバカな。
と、ホロンは思ったが街人やボロの布を纏う町長を見て、絶賛乗っかってる!?とこれ以上ない証拠に驚く。
「おや、旅のお二人、こんな寂れた街にどうしました?」
すっごい笑顔。
「実は、途中で盗賊と出会い、命からがら逃げてきたのです」
漸くリーシャが姫らしいセリフを言った。
「まあ、それは大変ね。最近はここも魔物の活動が活発になってきたから、盗賊もおいそれと外へ出られないのよ?」
「この人達、演技派だな」
毎度言うが、この世界にはモンスターなど居ない。
演技力S Sかとみまごう者たちの街ごとロールプレイング、始まるよ!
「宿、確保!旅の醍醐味はクエスト」
わくわくして、クエストを出してくれる人を見つけて駆け寄る。
「農作物がドラゴンに荒らされたのだ。どうか退治しれねーか?」
「この人は私たちを歴戦の戦士かなにかと勘違いしているのではないか??ドラゴンとか、無理だ!」
ホロンが叫んだ。
リクエスト不受理というわけか。
「ホロン、リクエストはね、拒否できないんだよ?知らないの?」
いくらバツボタンやBボタンを押しても無理矢理押しつけられるのがゲームというものだ。
ホロンは、空の顔になって宿泊予定の宿に入っていく。
あ、すねちゃったかな?
によによしながら後を追う。
翌朝、ホロンは私を残して住んでいる場所に戻って、もりもりご飯を食べていた。
「もー、なんでえ?」
クレームを言うと彼女から剣を渡される。
それでお前がドラゴンでも対峙しに行け、と押し出された。
仕方なく姫様が向かったのであった。
ま、姫も戦ってことだよね!