科学者達が新生物を創っているが人類にとって極めて危険なので人命を守る対策を実施することにした
「反対です。危険過ぎます。我々が皆殺しにされてもいいんですか!?」
私はそう叫んでいた。
それは科学者達による惑星開発プロジェクトが承認された日のことだった。
私たちが生きているこの時代、人類は太陽系を飛び出し、宇宙の海を探検できるようになっていた。そしてバイオテクノロジーも大きく進歩していた。人の寿命は何倍にも増えた。更には死後に再生させることも可能になっていった。人間はコンピューターと無線接続が可能になり、行動した記録や思考などの精神情報を常時バックアップした。死後にコンピューターに接続した超高機能3Dプリンターで人形を形成するように人体を形成し、生前の精神情報をインストールする。分子レベルで形成できるため、細胞ひとつひとつの細胞核の中の染色体まで再現できた。再生した身体も時間が経てば老いて死ぬが、何度でも再生は可能だ。身体(DNA)情報は初めのものが使われるため、劣化コピーといった心配はなかった。
ただし、死後再生されるのは生前人類に貢献し、再生後も人類に貢献する人に限られた。
科学者達は人工的にDNAを合成し、新生物を創り始めていた。
一つ一つの文字を繋ぐと単語になり、単語を繋ぎ合わせると文章になり、文章がまとまって小説が出来上がる。それと同じようにDNAを繋ぎ合わせると新しい生物が出来上がる。作家が小説を書くように科学者は新生物を創造していった。
バイオハザードの危険があるのにも関わらず、科学者達は研究に熱中した。彼らは実現できるかもしれないことを実現させる実験に酔いしれたのだ。
その結果、思いもよらない事故が起きて研究所から新生物が逃げ出し、犠牲者が出た。
私はその日のことを忘れない。
この日を思い出すたびに、蘇らせた恐竜が惨劇を引き起こす古い映画を思い出していた。
新生物を創造することは禁止された。当然だ。創造されたものに殺されるなんてごめんこうむる。
なのに科学者達は諦めなかった。創造を禁止されることは彼らにとって死ぬより辛いことなのだから。作家に文章を書くなというのに等しい。それで地球でダメなら他の星で、ということで地球の近くの星での生命創造実験を企てたのである。
しかしそれは失敗に終わった。というか終わらせた。どんな危険性があるかわからないことを進めさせるわけにいかないので政府に直談判して危険性を訴え、実験を終了させ破棄させることに成功した。あり得ないことが起こって、新生物が地球に持ち込まれないとも限らないからだ。
私は古いコミックを思い出していた。隣の星をテラフォーミングするために遺伝子改造した害虫を送り込んだところ、それは人類に貢献するどころか人類の脅威に変貌してしまった…という内容だ。
それでも科学者達は諦めなかった。地球に影響を及ぼさないくらい遠い星での実験を要求してきた。しかし、どれだけ遠く離れた星であろうと、私としては認めるわけにはいかなかった。生命創造が行き着く先は、人類を超える知的生命体を創造するということは容易に想像できた。科学者達は実現できると思ったことは必ず実現させてしまうのだから。人類を超える知的生命体が創造されたら、もしそれが暴力的だったら、私たちは皆殺しにされるだろう。いや、もしではない。すでに新生物による犠牲者は出ているのだから。
しかし政府は認めてしまった。十分に遠く離れた星ならば、たいして危険はないだろうと判断したようだ。知的生命体を創造するとは想像していないようだ。
冗談ではない。私は絶望しながらも進言した。「ならばせめて、知的生命体を創造することは止めさせてください。私たちが滅ぼされないように。」
科学者達は遠く離れた生物の存在しない星に降り立ち、途方もない年月をかけて単細胞生物から多細胞生物、そしてより複雑な生物へとDNAを合成して何万種もの新生物を創り出していった。
あれから何年経っただろう。私の再生回数は二桁になっていた。
そしてあれほど禁止されていたのに、とうとう科学者達は知的生命体を創造してしまった。
ホントにヤメテ。
それだけではなく、恐れていたようにそれらは非常に暴力的だった。それらはお互いに殺し合うようになったのだ。部族間で争い、負けた側を皆殺し、あるいは奴隷にした。
この者たちが科学的にも発達して、宇宙に進出してきたら、地球に侵略してくることは火を見るよりも明らかだった。宇宙の海を航海してきたとき、私たちは後悔するだろう。
私は進言した。「今のうちに滅ぼすべきです。お互いに殺しあっているのに、地球にやってきて私たちを殺さないということがあるでしょうか。」と。
進言は通った。これ以上の実験は禁止され、創造された生物は全て滅ぼされることに決まった。
これで安心できる……そう思っていたのに、あろうことか一部の科学者が人工生物を保存していたのである。のみならず、再度それを元の星の上に戻したのだ。なんでそんなことをしたんだ!?
科学者側にしてみれば新生物を滅ぼすことは焚書も同然の行為で、保存しておくことは当然だと思っていたようである。
また、この当時、私たちは地球外知的生命体とちらほらと遭遇するようになっていた。彼らは総じて平和的だったが、最初はそうでもなかったようだ。彼らも科学が発達するまでは野蛮なところもあったようである。それで次のようなロジックが賛同されるようになっていった。
「自らの星を脱出し、他の星の知的生命体と接触を図ろうとするものは平和的である。何故ならば宇宙旅行を可能とするエネルギーを発見したのにもかかわらず、それを戦争に使って自滅しなかったからである。自らの暴力性をコントロールしてお互いに仲良くすることができるようになったからである。」
なるほど。いまいち納得できないが、暴力的なままなら地球にたどり着く前に自滅するというのならば様子を見よう。私だって暴力的でなかったなら滅ぼしたくはなかった。暴力性がなおって平和を愛するようになればそれに越したことはない。かなり望みは薄いけれど。はたして隣の民族を侮蔑したり差別したりしないようになるだろうか。戦争をしないようになるだろうか。
それでも知的生命体を創造した科学者達は暴力性を克服してくれると信じているようだ。暴力性を克服し、我々のように発展してくれることを望んでいる。彼らにとっては子も同然だからだ。
最初に人工DNAを合成した科学者は自伝の中でこう書いている。「DNAからつくられた種がコンピュータの前に座り別の種を設計する未来へと進んでいきたい。」