第7話 生徒会の企み
西蓮寺有沙。彼女は西蓮寺財閥グループの令嬢である。彼女はとある理由により燦崎裕翔と知り合い、以後幼馴染として過ごしてきた。さすが令嬢であるだけあって、容姿端麗、学業そしてスポーツ共に優秀。さらには幼少期に様々な習い事をしていたせいか、基本的にはなんでもできる。まさに完璧美少女といったところだ。それゆえか、学校での人気は異常なほどに高い──あの姫崎奏音と同格と言っても差し支えないくらいだ。今学校では三大姫のうち一人として名を馳ぜている。ちなみに彼女は裕翔らとは違い、中学校からのエスカレーター式進学だ。
彼女は確かに表面上は可憐な美少女に見えるかもしれない。だがそれはあくまで仮面であって、彼女の本性ではない。唯一それを知っているのは裕翔とその親族だけである。そんな世間体もあり、裕翔が幼馴染ということは他の誰にも知られてはならない──それは令嬢の立場での話である。当然、人前で話す時は敬語であり、彼と話す時のような砕けた話し方はしない。それが西蓮寺現当主で──彼女の父親が彼女に下した条件である。というのも、当初は有沙が都立明律中学校からエスカレーター式で進学することに少し渋っていた。だが、有沙の『裕翔と一緒の学校に通いたい』という純粋な娘としてのお願いをみすみす見逃すわけにも行かなかった──父親としての情が出てしまったのかもしれないが。そういうわけで、条件付きで彼女は一人暮らし、そして明律高校へ進学したのだ。
余談だが、彼は決して燦崎裕翔を嫌っているわけではない、というかむしろ好んでいる。それゆえ、彼に娘のことを任せることに一切不安を覚えなかった。彼の裏にある小さな願望は、燦崎家の人間と一致しているのかもしれない──。
──閑話休題──
時は十二時三十分。裕翔と大翔は食堂に来ていた。
「本当に広いな、ここ」
「なんたって明律高校の食堂は東京都の中でも屈指の広さだからな」
「っていうかなんでお前が得意げなんだ?」
そんな冗談を大翔はさらりと受け流し、適当に空いている席に座った。
「今日のおすすめメニューは……カツ丼か。俺はこれにしようかな。お前はどうする?」
「こういう時は仲を深めるために同じのを食べるのがいいんだよ。俺もカツ丼にする」
カツ丼の食券を二枚買い、それを持ってテーブルに戻ってくる。それから数分後彼らの元にカツ丼が二つ届けられた。
「そういえば聞いてなかったけど、中学校ってどこだったんだ?」
カツ丼を二人で頬張りながら不意に大翔がそんなことを聞いてきた。裕翔は別に隠すことでもなかったので、その質問に素直に答えた。
「俺か?俺は中学校には行ってない。いわゆる引きこもりってやつだ」
さらっととんでもないことを言ったせいか、大翔は少し目を見開いた。
「引きこもっててよくこの学校に入れたな。この学校ってそこそこ偏差値高いし」
「こう見えてもそこそこ頭はいいんだぜ?」
いまいち腑に落ちていない様子の大翔を尻目に裕翔はカツ丼を黙々と食べ勧めていた。
「……どうかしたのか?」
「いや、裕翔って思ったよりも飯食うの早いんだなって」
そんな会話をしていると、昼休みはあっという間に過ぎていった。
◇ ◇ ◇
裕翔が大翔と共に昼食を食べている中、明律高校の生徒会室では会長と副会長が昼食を摂りながらとある題について話し合っていた。
「ねえ、雲井君」
雲井と呼ばれた彼は箸から彼女へと目線を向ける。彼は生徒会副会長、雲井景。そして名前を呼んだ張本人である彼女は生徒会現会長、四草彩奈。
「なんだい、会長」
「なんだいって…まあいいけど。私たちは今年度生徒会を引っ張って行く立場なのよ。つまり、新一年生から生徒会役員を引き抜かなきゃいけない」
「確かに、そう言われればもうそんな時期か」
彩奈は彼が季節の感覚がないのは知っていたが、ここまでくると流石にやばいのではないかと内心思い始めていた。彼らは一年生の時に生徒会役員に選ばれ、そのまま三年間生徒会役員を務めている。
「あらかじめ言っておくが俺には人脈っていうものがないぞ?」
「そんなことは解っているつもりよ。そうじゃなくて、今年度の生徒会にはどんな人材が必要なのか、それを相談したいんだけど」
そう言いながら彩奈は今年度新入生が記載されているファイルを渡した。
「とは言っても、大方は決めているんだけどね。あと一人だけ決まってなくて」
「そうだな……」
渡されたファイルをパラパラとめくる──ふとあるページで景の指が止まった。そして人相が悪い顔、というか意地悪を企む子供みたいな笑みを浮かべた。
「なあ、こいつなんてどうだ?」
「えっと……彼は一年C組の子ね。雲井君が引き入れたいのなら私は構わないわ」
彼は少し考えるそぶりを見せる。
「じゃあ彼を。他には決まっているのか?」
「一応決まっているのは一年C組の姫崎奏音、一年E組の西蓮寺有沙の二人よ」
「そうか……。よし、今年度一年生生徒会役員兼風紀委員の引き抜き人材は決定だな。それじゃあ俺が監査委員会に提出しておくよ」
面倒なことに巻き込まれそうだ、そう思いながらもとりあえずその意見を肯定しておく。
「ありがとう、雲井君。おかげで早く決められたわ」
時刻を確認する。時刻は午後一時を過ぎようとしていた。
「もうこんな時間なの?それじゃあ、またよろしく」
そう言うと彩奈はそそくさと生徒会室を後にした。彼女がいなくなった生徒会室で一人残された景はもう少し生徒会室に残ることにした。五限が始まるチャイムが聞こえたが、生徒会での仕事としておけばサボりにならず、怒られることもない。それが生徒会の特権である。(それは単なる職権濫用というものなのだが)空になったマグカップを片手に取り、コーヒーを淹れる。コーヒーの渋みと甘味が生徒会室の部屋全体に広がった。景は改めてこの学校の委員会一覧を見た。
──都立明律高校の委員会はいわゆる中学の頃にあった委員会と大差ない。だがこの学校にややこしい二つの委員会がある。それが生徒会と風紀委員会である。まず、一部の上級生と職員による監査委員会によって選出された生徒会役員は一年生のうちは強制的に風紀委員会を兼ねることになる。そして、二年生、三年生と学年が上がるとそれぞれの委員会に希望で入ることができる。ただ、いくら別々の委員会になったからといって根本は生徒会役員であるため、生徒会の呼び出しがあった場合風紀委員も赴かなければならない。ちなみに中学生は委員会は行わなくて良い。そしてこの学校は原則として、仮に生徒会役員として任命された場合、その業務を三年間継続しなければならないというものがある。だが特例が認められることもあるため、そこまで生徒を縛りつけるような規則でないことは確かだ──
コーヒーを飲みながら委員会一覧ファイルを閉じ、先程の彩奈との話を思い出す。
「一年C組、燦崎裕翔か。懐かしいな……あいつが知ったらどんな顔をするんだろうか」
雲井家は燦崎家の分家である。そんなこともあり、景の方が幾分年上だったので幼い頃、よく一緒に遊んでいた。ちなみに西蓮寺有沙とも面識がある。だが、景が中学生になった時から疎遠になってしまったので、この高校で再会できることは素直に嬉しかった。
「で……姫崎奏音。彼女を生徒会に引き入れるのか」
というのも、確かに彼女は完璧少女である。それに境遇もどっかの誰かさんと似ている。おそらく、快く引き受けてくれるだろう。彼はそんな甘い考えをシュミレーションしながら生徒会室を去ったのだった。




