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第4話 性格違いな教師の説教




始業式も無事終わり、休憩時間となったので、新入生がワラワラと教室へ戻ってきていた。始業式が終わるちょうど数分前、裕翔は奏音と別れ一人学校を彷徨っていた。変に二人だけが教室にいると何かと怪しまれかねないからだ。そしてバッタリ大翔に出会した。


「よっ!今日はサボりかぁ?」


会って最初の言葉がこれである。裕翔は何か言い返そうとしたが図星であるが故に返事が曖昧になってしまった。


「まあ、そのちょっと色々あってな……。それで、始業式どうだった?」


「またいつもの校長の長話から始まって……あっでもミスクレアの説明なんかしてたぞ。なんか校則が云々かんぬんとかいってたっけ?」


「内容覚えてないのか?」


「ああ……あんまりにも退屈してたから結局校長の話半ばでダウンしたよ」


その時、唐突に大翔を呼ぶ声がした。その声の主は何やらすごい勢いで向かってきていて、二人の前まで来るとキキっと急ブレーキをかけたかのように止まった。


「久しぶりだね、大翔。割と半年……いや、一年ぶり?」


「アホか、そんなわけないだろ。入学式、今朝も会ってるわ!」


完全に突っ込む機会を失った裕翔は困惑気味に二人を交互に見た。


「えっと……」


「ああ悪い裕翔。こいつは俺の幼馴染の穂香。それで…こっちが燦咲裕翔だ」


穂香と紹介された女子は見た目は割とギャルに近かった。カーディガンを短く折ったスカートに巻きつけ、白いシャツの上からは見ただけでも質量が伝わってきそうなほどの胸がかなり強調されている。そして首元にはチョーカーまでも着けていた。どっちかというと優しいギャル、といった印象だ。


「もー、今日も大翔ノリ悪いなぁ。私は九条穂香、一年C組だよ。よろしくね、ゆうっち」


「あ……ああ、こちらこそよろしく」


初対面の人にここまでハイテンションで挨拶ができるのだろうか。それにあだ名をつけるの早過ぎではないだろうか……そんな疑問を頭の中で一旦引き出しにしまいながらしどろもどろに返事をした。


「それにしても、大翔に友達かぁ。てっきりもう作らないのかと思ってたよ。だって中3の時なんかもう友達作るのやめた、なんて言ってたしさぁ」


「いや、そんなこと一言も言った覚えないんだけれども。勝手に捏造してでっち上げるな!」


「二人は昔から結構仲良いのか?」


このまま裕翔が会話に参加しないといつまで経ってもボケとツッコミが終わりそうになかったのでひとまず裕翔はありきたりな内容を聞いてみることにした。


「俺とこいつがかぁ?ないない、どこが仲良く見えるんだ?」


「そうよ、私はこいつとなんて別に仲良くもなんともないよ!」


二人ともこういうことを言われているのは慣れているのだろう。そういうところがなんだが、なんていう余計なことは言わないでおくことにした。


「ところで、九条さん。さっきのって……もしかして衝撃緩和スキル?」


「穂香でいいよ、ゆうっち。もしかしてバレた?」


「バレるも何も、あんなに唐突に止まりゃどうやってが止まったかぐらいわかるだろ。少しは考えろ」


「大翔は黙ってて!……ゆうっち、私のスキル視えるんだ」


「視えるって?」


穂香は周りが誰もいないことを確認して耳打ちした。


「私、隠密性スキルが使えるからあんまり人にばれないんだよね。大翔は別だけど」


隠密性スキルとは、あらかじめそのスキルを発動させておくことでその後使用したスキルが感知されにくくなるものだ。その隠密性は発動者にもよるが、使い手次第では周りに気付かれることはまずない。それにこのスキルは誰でも使えるわけではなく、この学校にもいて数人だろう、それほど希少性の高いスキルだ。


「それって俺に言っても大丈夫なやつ?」


「ゆうっちには隠し通せそうもなかったからね。だけど、他人には絶対に言わないでよ」


「ああ。そういえばなんで大翔はわかるんだ?」


大翔が口を開きかけた途端、ホームルームが始まるチャイムが廊下全域に響き渡った。


「その話はとりあえず後にして、教室戻ろー!誰が先につくか、勝負だ!」


「あっ、穂香、ずりーぞ!」


真っ先に穂香が走り出した。それに続いて裕翔たちも走って教室に戻ったのだった。



◇ ◇ ◇



無事一日の全日程が終了し、いざ帰ろうとしたところであまり考えないようにしていたことがやはり起こった。


「これで今日のホームルームは終わります。終わり次第、燦咲さん、姫崎さんは少し残ってください」


最後に爆弾発言を残して琴音はホームルームを締め括った。裕翔はチラリと姫崎の方へ目をやる。彼女はというと、悪びれた様子もなく、ウィンクして下をぺろっと出していた。


「……っ!!」


この動作は有沙にはない別の何かを感じる、そう思いかけていた裕翔だったが、必死に妄想を消し飛ばした。周りの生徒は一体初日から何をしたのか興味津々の様子だったが、触れてはいけない何かを察知したのか、すぐに興味をなくし、それぞれ帰宅準備を始め出した。


「早速先生に目つけられたのか。大変だな、裕翔」


「うっせ。今日は穂香とでも一緒に帰れ」


若干の皮肉を混ぜてみたが、大翔にはあまり効果はなかった。


「まあせいぜいめいいっぱい叱られてこい」


そういうと大翔は一人で教室を出て行った。どうやラ今日は連載漫画の発売日らしい。


「なんとも薄情なやつだな…」


裕翔は走っていく大翔に向かって軽くため息をついた後、呼ばれている生徒指導室へと向かった。



「……一発殴ってもいいかしら」


その一言からが始まりだった。


「はい?解咲先生、今なんて?」


その発言で、二人の目は完全に点になってしまった。


「だーかーら!一発殴ってもいいか聞いてんのよ。燦咲、それに姫崎、もしかして耳ついてないとか言い出さないでしょうね?」


「「はぁ……」」


「何?その気の抜けた返事は!はぁ……これだから新入生は……」


みんなが揃いも揃って呼んでいた「かえちゃん先生」の像はどこに消し飛ばしたのだろう。明らかに愛称として親しまれている彼女とは別人だ。


「あの……先生。本当にかえちゃん先生なのでしょうか?」


「他に誰がいるのよ、全く。それで今回呼び出したのは、あんたたちが始業式をサボっていたことに関してよ」


「……この詐欺師が」


「ん?燦咲、何か言った?」


少し反論しただけでこの様だ。琴音はキッと裕翔を睨みつけならが圧力をかけてきている。


「いえ……別に。というかなんで……」


「なんで教室とは別人なのかって?そりゃあ、燦咲、先生というものはこうやって性格が裏表ないとやっていけないのよ。特に最近は残業が膨大なくせに給料だって上がらないし」


琴音ため息を吐きながらは机に置いてあるマグカップを一口啜った。ほろ苦いコーヒーの香りが教室全域に広がる。


「まぁそれはそれとして。一体始業式サボってどこ行ってたのよ。特に姫崎、あんたは答辞を読む予定だったのにそれをすっぽかして……何か言い分があるのでしょうね?」


先程までの雰囲気とは打って変わって琴音は呆れながら奏音を見た。ただ、琴音の様子から察するにそこまで怒っっている感じはしない。


「…………」


奏音は完全に黙秘行動に徹した。裕翔が庇おうと口を挟もうとしたその時、琴音は呆れ返りながらもう一度口を開いた。その時、ちらっと裕翔の方を見たのは気のせいだろうか。


「……まあ理由はどうであれ、今後はこういうことがないように。あんたたちの尻拭いは私なんだから。イチャイチャするなら先生にバレないようにしなさい」


そう言って琴音は話はもう終わり、と二人をしっしっと追い払うように仕草をした後、手元にあった資料に目を写した。


「もう終わりなんですか?」


「なんだ、燦咲。まだ怒られ足りないのか?今回は姫崎に免じて見逃してやっただけだ。感謝しろよ」


「……じゃあ、失礼しました?」


「ああそれと、燦咲、姫崎。今日のことはくれぐれも他言しないように」


出ていく間際そんな声が背中から聞こえたが、二人は振り向かずにドアを閉めた。数秒間の沈黙があった後、奏音が突然笑い出した。


「一体急にどうしたんだ?」


「すみません、先生のギャップが……すごくって……!!」


「本当だよ、まさかあんな先生もこの学校にいるとはな……」


二人でひとしきり笑った後、奏音は笑いすぎて出た涙を拭って言った。


「燦咲さん、帰りましょうか」



◇ ◇ ◇



二人が出て行ってから、琴音は小さく伸びをして再びコーヒーを啜った……と思いきや、彼らが来ている間ずっと隠していた缶ビールに口をつけた。


「それにしても、二人ともかなり優秀だったな。姫崎のことは知っていたが…まさか燦咲も、とはな。これからうちのクラスはどうなることやら……」


琴音はミスクレアで起動していた鑑定スキルプログラムを終了すると、再び資料作りに戻ったのだった。


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