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第0話 プロローグ

 

  


──我々人間は誰しも秘密を抱えている。彼も決して例外ではなかった──




二◯三十五年・十一月二十日未明──東京。この日、日本で未確認生命体が確認された。その生命体は数年前、アメリカで初めて観測され、徐々に地球全土に侵食し始めた。それによる被害は凄まじく、人類の生存が脅かされるほどになっていた。その未確認生命体──通称:レギウス──を排除すべく、世界の国際研究機関が躍起になっていた。そして完成した一つのイヤホン型ウェアラブルデバイス『ミスクレア』の()()()使()()()()()仮想スキルを行使することによってレギウスを抹消できることが確認された。それが西暦二◯四十年のことだ。


そして今現在、そのデバイスに改良を重ね、日常生活と併用できるようになった。ミスクレアを使用することで、通常のスマートフォンの機能、所謂メール、電話、インターネットなど様々な機能が使用可能となる。そして、それにはAR技術が搭載されていて、かつてVR上でしか体験できなかったようなものを現実世界に持ち込むことができるようになった。しかもそれは従来のものとは異なり、実際に顕現させたオブジェクトに触れたりできるようになった。このデバイスを開発させた本人は、デバイス業界を二十年加速させたと言われている。これがミスクレアの表向きの仕様だ。裏向きの仕様は先程も述べた通り、仮想スキルにある。


仮想スキルの使用条件は、感覚的にスキルを操る力、いわば才能だ。その才能をさらに伸ばすため、高等学校では通常教科の授業に加え、仮想スキル演習にも重向きが置かれるようになった。都立『明律高等学校』も例外ではない。しかし、通常の高校と比べてそこでは仮想スキル演習にかなり力を入れている。仮想スキルの使用を公的に認められなかった人は入学時に普通科に振り分けられる。


そういうわけで、人類はレギウスを撃退する力、仮想スキルを手に入れた。



◆ ◆ ◆



西暦二○五一年・三月三十一日──東京都渋谷区のマンション


「これから一人でも頑張るのよ」


午前十一時三十分。全ての荷物を運び終わり、一休憩を入れていた時いきなり彼は母親にそう言われた。父親はいましがた用事を思い出したとかで先に帰ってしまった。彼は今年に中学校を卒業、そして都立明律高等学校に進学する。だがこれからは一人暮らしをしなければならない。


「別にそんなに心配しなくていいよ。隣の部屋は有沙がいるし」


有沙、というのは彼の幼馴染である西蓮寺有沙。彼女ははっきり言ってかなりの美少女である──時々ちょっかいをかけてくることを除いて全てが完璧な少女だ。正直、一人暮らしをいい渡された時は不安だった。だが、両親はそんな彼の気を使ってか、わざわざ彼女の隣に引っ越しをさせた。というのは表向きの話で、本当は彼女と()()()()()で仲良くしてほしいというのが本当の狙いなのかもしれない。


「それもそうだったわね、けど裕翔、あんまり有沙ちゃんに迷惑をかけてはダメよ」


「そんなことわかってる」


そんな会話を聞きつけてか、測ったかのようなタイミングで突然インターフォンが鳴った。


「はーい‥‥‥ってお前か、少し待ってろ。今開ける」


とりあえずインターフォン越しからロックを解除し、彼女を中に入れる。彼女は両手に料理が入ったタッパーを持っていた。


「あら、有沙ちゃん。久しぶりね」


「あ、久しぶりです、三春さん。それと‥‥‥これ、昼時なので作ってみたんですけど」


そう言って女の子らしくない足取りでズカズカとキッチンに入っていく。彼の母親は時に気にするそぶりも見せず、有沙をキッチンへと案内していった。残された裕翔は一人、廊下でため息をついた。


──当然のようにうちで食べていく気かよ。


背中に寒気を覚えながら、裕翔はリビングに移動した。彼女が料理の準備をしている間、彼の母親──三春が申し訳なさそうに有沙に話した。


「有沙ちゃん、本当に何から何までありがとね。これからうちのバカ息子──裕翔がお世話になるわね」


「人前でそんな呼び方をするな」


裕翔が鬱陶しく呼応するも、まるで聞いてくれる気配がない。


「え〜?別に有沙ちゃんの前なら別にいいと思うんだけどなぁ」


三春がふふっと笑う。このまま話を進めると変な方向に持っていかれそうだったので裕翔はひとまず話題転換を図った。


「そういえば、今日来るって知ってたのか?」


「当たり前じゃない。そうじゃなかったらわざわざ昼ご飯を作ってきたりしないわよ」


「なるほど───つまり、俺のために()()()()作ってくれたってことか」


彼は顎に手を当て、それっぽく意地悪を仕掛ける。しかもバカ真面目な顔までご丁寧に添える。しかし、裕翔がその冗談を言った直後、有沙からの所謂ジト目というやつを痛いほど浴びることになった。


「そんなわけないじゃない。裕翔のお母さん用よ……あっもしかして裕翔、作って欲しかったの?」


そんな会話を一人、微笑ましそうに見ている人物がいた。


「やっぱり昔から仲良しねぇ。ねえ裕翔、このまま有沙ちゃんと結婚しちゃいなよ。そうすれば私も晴れて有沙ちゃんの母親になれるもの」


そう裕翔に声をかけたが、目線は有沙を向いていた。しかし裕翔は有沙を見ることはできなかった。彼女の周囲からものすごい羞恥オーラが放たれているせいだ。しかし、その雰囲気を一掃したのも三春だった。


「まあまあ、そんなことより、昼食にしましょ」


母親の助けがあって、止まっていた時間が再び動き始める。そんな母親に悪態を心の中で突きながらも三人で食べ始めた。


「有沙ちゃんのご飯、本当に美味しいわね」


「色々と勉強しましたから」


そう言って胸を張る──割と身体の発展も落ち着いてきたのか、割と胸がある。大きさは可もなく不可もなくと言ったところだ──しぐさをした。おそらく大きさから察するにC以上はありそうだ。だが、そんなことに動揺する彼ではなかった。いや、何に動揺する必要があるのかはいささか疑問だったのだが。



◇ ◇ ◇



「それじゃあ、改めて裕翔のことお願いするわね」


外もすっかり暗くなり、春の冷たい風が肌に染みる時間帯となっていた。


「ええ、私にお任せください」


そう言うと三春は何故か楽しそうにマンションを去っていった。それから二人はそれぞれの家に戻った。裕翔は一人になった部屋で──部屋は1LDKだ──山のように積まれた段ボールを見てため息をついた。荷解きは後でやろうと決め、片耳イヤホン型ウェアラブルデバイスを手に取った。



彼──裕翔には秘密がある。彼は異世界の元勇者だ。魔王との激しい攻防の末、確かに魔王には勝つことができた。しかし、街に帰る途中で原因不明の激痛に襲われ、そのまま死んだ。そして気がつくとそこは全く見知らぬ世界で、彼の体は幼児化していた。幼児化していた、といってもそれは身体的なものだけで、異世界にいた時の記憶媒体は受け継いでいた。ちょうどその頃からだっただろうか。彼が転生した地球という惑星に正体不明の未確認生命体が降臨し、地球は大混乱に陥った。そして二◯四十年に『ミスクレア』が誕生した。それはレギウスを葬ることができる『仮想スキル』を兼ね備えているとのことだった。しかし、彼は異世界で扱ってきた正真正銘の『スキル』を有している状態で転生に成功している。そのため、彼にはミスクレアはあまり重要ではなかった。ちなみにそのことは彼の唯一の幼馴染、有沙しか知らない。しかし、高校を通うにあたって必修科目であるため、仕方なくつけることにしていた。このデバイスをつけることによって確かにメリットはある。元々剣を使って戦ってきた彼は手による直接的なスキル操作で戦うよりもやはり剣の方が戦いやすい。ミスクレアによって仮想的に剣を作り出すことで彼の戦闘スタイルは昔とさほど変わらない状態を維持していた。



裕翔はミスクレアを片耳にはめ、空間ディスプレイの端にあるメールのウィンドウを開いた。そこには先程まで家にいた、有沙からの新着メッセージが届いていた。


『ねえ、当日裕翔の家行ってもいい?』


いきなりのメールの内容がそれだった。裕翔はどちらでもいいという旨をメッセージに書き込んだ。その数秒後、有沙からかわいい絵文字が送られてきた。四月七日は明律高等学校の入学式だ。その迎えにきてくれるのだろうかと思いつつ、ウィンドウを閉じる。


──これから大変な三年間になりそうだ。できれば穏便に過ごしたいが。


裕翔は夜風に当たりながらそんなことを考えていた。だが、そんな彼の期待を裏切るかのように冷たい春風が彼の肌に突き刺さる。これから色々な出来事に巻き込まれ、賑やかな三年間になるとは彼はまだ知る由もなかった。ここから彼──燦崎裕翔の慌ただしい高校生活が幕を開けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。第0話いかがだったでしょうか。これからの展開に少しでも興味が湧いていただければ幸いです。これから不定期に投稿していきますので、少しでも面白いと感じましたら広告下の⭐︎マークをタップしてくれると執筆の励みになります。何卒よろしくお願いします。

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異世界の要素が巧みに取り入れられ現実とファンタジーのバランスが丁度よかったです 活動応援してます!
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