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第六話 トリコロールの捕虜警備 6

叫びすぎですみません…


少々短めです

「――で、九龍?」

 月牙は刀を収め、右手の甲で額の汗をぬぐいながら訊ねた。

「状況を説明してもらえるか?」

「すまん柘榴庭どの!」

「頭領!」

「……すまん頭領」

 長身の男はしかられた大型犬みたいにうなだれた。「見ての通り、桂花と小蓮がみごとに襲撃者を仕留めてな。一方が死んだから、左京兆府の牢医師を検分に呼んだんだ」



「儂が牢医師じゃ!」と、桂花に捕らわれた老人が果敢に主張した。「御身は当代の柘榴庭どのじゃな! この狼藉は高くつくぞ!? 左府の威を借るのも大概にせい! 当代の左京兆さまは李家のご一族ぞ!?」

「黙れ爺!」

「こら桂花、口に気をつけろ!」

「……すまん頭領、黙れ医者」

 桂花が不服そうに言い直す。

 月牙はため息をついた。

「分かったよ二人とも、大体事情は分かった。そちらの医師どのをお呼びしたら、護衛に左京衛士(あっち)の一火がついてきて、洛中左京での刃傷沙汰は自分たちの管轄だと言い出したんだろう?」

「実際その通りではないか!」と、九龍と対峙していたあちらの火長が怒鳴る。途端、九龍が怒鳴りかえす。

「ふざけるなゲレルトの盗人が! 赤心党に関わる事件は俺たちの頭領が指揮をとると定められているだろうが!」

「黙れアガールの若造! 印の四字の血文字もないのに、赤心党の仕業と断じるなんの証拠がある!?」

「それじゃあんたは何か? 柘榴隊(うち)の小姐たちが殺されて血文字で「蛮夷必殺」と書かれるのを待ってりゃよかったって言いたいのか、おい!?」

「なにがうちの小姐たちだ! 誉ある柘榴の妓官がたを自家の娘みたいに扱いおって!」

「娘? 桂花はせいぜい妹だろ?! 年齢的にさすがにまだ!」


 九龍と火長はどちらもかなりの長身だ。

 月牙の頭の上で怒声が交わされる。


「ええいうるさい! 二人とも落ち着け!」


 月牙は堪えかねて怒鳴った。「このままじゃらちがあかない! アガールとゲレルトの諍いの仲裁はサルヒに任せるぞ!」



「「なに、まさか竜騎兵に預けるのか!?」」

 九龍と火長が同時に叫び、頭半分低い月牙の顔を両側からのぞき込んだ。

「正気か頭領?!」

「それこそ何の関係があるのだ!?」


「やかましい二人も! 頭の上でわあわあ騒ぐな! 誰も竜騎兵とは言っていない。サルヒ氏族で最も高位の武官といったら後宮内宮妓官の(かみ)たる橘庭(きってい)さまだろう? この件はいったん後宮に訴えると言っているんだ」


「しかし、襲われたのは判官様ではないのだろう?」と、衛士の火長が血まみれの桂花を一瞥してから訊ねてくる。

「ああ。あれは洛東巡邏隊の隊正だ。しかし、共にいたもう一人、孫小蓮のほうは、内々に隊正見習いと呼んではいるが、正式にはまだ後宮の妓官の立場だ。後宮に属する女官が襲われたのだから、検断権は第一に橘庭にあるはずだ」


 月牙が落ち着いて説明すると、火長はしばらく黙り込んだが、ややあって諦めたように頷いた。

「相分かった」

「感謝する。桂花、医師どのを放してやれ!」

「――はい頭領」

 桂花があからさまに不本意そうな声で応じる。

 相手方より先に人質を放すのが口惜しいのだろう。

 

 ――さすがに桂花だ。見上げたきかんきだ

 

 月牙は声を立てて笑い、洛外側の橋のたもとを見やって呼ばわった。

「左京衛士がた、見ての通り、こちらの人質は解き放った! そちらも解き放ってくれるか?」


「はい当代さま、今すぐに!」

 あちら側から嬉しげな声が返った。

 有難いことにあちらにもアガール氏族がまぎれていたらしい。



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