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こちら、県立東和高校放送局です!  作者: 田鶴瑞穂


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ああっ!?忘れてたぁ!来週は研修旅行だったぁ!取り敢えず総文祭のことは一先ず置いといて、旅行に全振りしなきゃ!

「ねえねえ、ドルフィンちゃん、聞いてる?」

「えっ?・・・あっ!ごめんなさい、ちゃんと聞いてなかった。」

 花音ちゃんに話しかけられた時、私はこっそり番組の台本を書いていた。

「もう!・・・うん?・・・何してんの?」

「ああ、これ?今度の総文祭にエントリーする番組の台本を書いてたの。そろそろスケジュールがタイトになってきたからさぁ。」

 すると花音ちゃんは、やれやれと言わんばかりに頭を左右に振った。

「貴女も部活の事となると周りが見えなくなるもんねぇ・・・まぁ、私もハンドボールの事になるとそうだから、よく判るんだけどさ。でも、こっちも来週に迫ってるんだから、急ぎだよ!」

 今日のLHRロングホームルームは、たしか研修旅行における班別行動の決定・・・だったよねぇ・・・?・・・うん?来週?

「えっと・・・今日中に研修旅行の班別行動を一覧にして提出するんだったけ?」

「そうだよ。」

「来週だから、今日中?・・・何が?」

「あのね・・・研修旅行に決まってるじゃん!」

 私は花音ちゃんの顔を暫し見つめてから、自分の顔が青ざめていくのが判った。

「け、研修旅行って、来週だったけ!?」

「だ・か・ら、さっきからそう言ってるじゃん。何惚けてんのよ。・・・えっ?大丈夫?ドルフィンちゃん、顔が真っ青だよ。」

 し、しまった!研修旅行に行くってことは、来週は全く制作に時間を割けないってことじゃん!私は頭を抱えながら唸ってしまった。

「うーん・・・私は異議を唱えないから、皆の意見を優先して決めてくれていいよ・・・。」

 花音ちゃんは呆れたような顔をして、再びやれやれと頭を振った。

「貴女、何時もだったらそんな無責任なこと言わないじゃん。どうしちゃったのさ?」

 うーん、これは正直に言うしかないかぁ・・・。

「実は・・・総文祭の作品提出の締め切りが今月末なんだよ・・・来週一杯作業ができないとなると、詰んだかもしれない・・・。」

 私の言うことを聞いて、花音ちゃんは目を丸くした。

「ええっ!?なんでそんな事になったんだ?ドルフィンちゃん、部活に関しては、何時も余裕を持って取り組んでたじゃん。」

 あぁ、脂汗も出て来た・・・。

「先月はうちの文化祭の運営でそれどころじゃなかったんだよぉ・・・十月・・・そう、この一か月間があれば余裕で完成させられるって言う自信があったんだけど・・・研修旅行のことをすっかり忘れてたんだよぉ・・・。」

 あぁ、何たる不覚。やっぱり夏休み中に取り組んでおくべきだったなぁ・・・。もう後の祭りだけど・・・。

「“人智を尽くして天命を待つ”って言葉があるじゃない。残された時間を精一杯活用するしかないでしょ!研修旅行に行かない、って選択は無いんだから。」

 あぁ、花音ちゃんに叱られてしまった。でも、その通りだよねぇ。

「うん。残り時間でベストを尽くすよ。有り難う、花音ちゃん。」

 花音ちゃんはうんうんと頷いた。

「総文祭は総文祭。研修旅行は研修旅行。それぞれ別々の行事なんだから、どっちも楽しまないと損だよ!さぁさぁ、気を取り直して、班別行動決めにもちゃんと参加しなさい!」

 ははは・・・花音ちゃんはハンドボール部の新キャプテンに選ばれただけのことがあって、割り切り力とか決断力とかが凄いんだよなぁ・・・でも、私も新部長なんだからしっかりしなきゃぁ・・・花音ちゃんを見習おう。

「うん!そうする!有り難う、花音ちゃん。」

「あははは、それじゃぁ行き先を決めようか。皆、自分が行きたいと思っている場所を挙げてってよ。」

 ☆

 今日からいよいよ研修旅行だ。集合場所は学校ではない上に、集合時間もかなり早い。余裕を見て何時もより一時間早く家を出た。

 “研修旅行”。一昔前は“修学旅行”と呼ばれていたものだ。何故、名称が変わったのかって?それは文部科学省が決めた“教育のIT化”が原因だ。

 小学校や中学校では少し前から授業でタブレットを使うことが義務付けられていた。それが高校でも数年前に義務化されたんだ。ただし、小中学校では市町村がタブレットを用意して児童生徒に貸し出すシステムだったのに対して、義務教育ではない高校では自腹で購入しなければならなかった。

 しかし、タブレットは決して安い買い物ではない。保護者の負担増に対して当然反対の意見が出た。そこで文部科学省は、保護者の負担増にならないよう修学旅行の積立金の一部をタブレットの購入に充てるよう定めた。お蔭で修学旅行は以前と比べて七割程度の費用でしか実施できなくなったんだ。

 減少した積立金では思うような修学旅行は企画できなくなった。かつては四泊五日だった旅程が二泊三日にまで短縮され、さらにインバウンド需要でホテル代や食事代が高騰したことでそれも難しくなった・・・。なんとかして生徒に修学旅行を体験させてやりたい・・・そうした思いによって、一つの抜け穴が見出された。それは校外学習と修学旅行を合体させると言うアクロバティックなものだった。

 以前から高校では、企業見学や研修会、職業体験などのキャリア教育を実施してきた。これは修学旅行とは別の行事だから、費用は修学旅行積立金を使わずに学級費から出すのが一般的だ。そこで、このような校外学習を修学旅行の旅程の一部に組み込み、その分の費用を学級費から補填することで以前と同じ規模で修学旅行が実施できるようにしたんだ。うん、これを最初に思いついた人はほんと凄いよね。

 ただし、校外学習を組み込んでいることを明確にするために“修学旅行”と言う名称は使えなくなり、結果、“研修旅行”となったらしい。

 さて、今日の集合場所は秋篠駅の駅前ロータリーだ。以前は学校に集合して、そこから貸切バスに乗って、さぁ出発!ってパターンだったらしいけど、今は列車に乗って出発!になっている。これもまたインバウンド需要の影響だ。常にバスが不足していて、研修旅行の日程に合わせて抑えておくことが難しくなったらしい。

 さて、生徒の集合は予定時間の十分前には完了していた。学年主任の先生がこれから新幹線に乗り換えるまでの注意点を大声で説明している。まぁ、昨日の事前集会で聞いた内容と同じだったけどね。その後、一組から順番に列を乱さないよう気を遣いながら改札口を通ってホームに向かった。

 特急列車は時刻通りにホームに滑り込んで来た。停車時間は短いから私達は急いで乗り込んだ。

「特急を使うとは贅沢だねぇ。」

 列車が走り出すと、隣の席に座った花音ちゃんがぼそっと誰に聞かせるでもなく呟いた。

「乗車賃に特急代を足してもバス代の半分にもならないらしいよ。贅沢どころか、寧ろリーズナブルなんだよ。」

「へー、そうなんだ。私なんかの感覚だと“特急”って凄くブルジョワな感じだったんだけどなぁ。」

「インバウンド需要の所為で貸切バスの方こそブルジョワ御用達になっちゃったみたいだね。」

 そう言いながらふと窓の外を見ると、景色がどんどん後ろに向かって流れていく。そう、鉄道って凄く速いんだ。安くて速くて時刻通りに到着する。バスと比べるとあらゆる面で勝っている。大きな荷物がある場合だとバスの方が楽なんだけど、今回はキャリーケースなんかの大きな荷物は昨日の内に学校からトラックに積み込んで先に出発させているから、今日私達は手荷物しか持っていない。お蔭でスムーズに列車に乗り込むことが出来た。

 さて、特急の旅は三十分ほどで終了し、洛中駅に到着した。ここで新幹線に乗り換えだ。私達は粛々と列を成して私鉄の改札口から新幹線の改札口へと移動した。

 新幹線のコンコースは大混乱していた。

 聞き慣れない、英語とは違う何かの言語が飛び交い、巨大なキャリーケースを持った外国人の集団が右往左往している。制服を着ていることから明らかに研修旅行で来たであろう集団が、それも複数校が入り乱れて移動しようとしていた。それにプラスしてスーツを着た一般のビジネスマンが迷惑そうな顔をしながら人垣を掻き分けながらホームを目指していた。

「まさに混沌・・・だね。」

 私がぼそっと呟くと、花音ちゃんが反応した。

「“こんとん”?何それ?」

「“混沌”・・・“カオス”とも言われるよ。“個々の単位で見れば規則に従った秩序ある変化を見せるが、総体で見れば複雑で不規則な予測のできない変化を見せる現象”って意味。」

 花音ちゃんは眉間に皺を寄せて右手の人差し指と中指をおでこに当てた。

「何のことか、さっぱり判んない・・・“にほんごでOK”?」

 私は苦笑しながら言い換えた。

「簡潔に言うと、“物事が無秩序で、まとまっていない状態”って言う意味だよ。」

「いや、最初からそう言ってくれればいいじゃん。」

 花音ちゃんは少し頬を膨らませながら言った。

「あははは・・・御免御免。」

「さあ!お前達!迷わないように前の生徒との間に距離を作らないよう歩け!ホームに移動するぞ!」

 学年主任の声がびんびん響く。はは、この混沌の中でも聞こえる大声、流石は先生だ。私も見習わなければ。


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