今年も文化祭の季節がやってきた!去年のように何でも自分がやってしまうんじゃなくて、後輩を育てる為にどしどし仕事を任せよう!
「では、続いて、放送部から皆さんへ舞台発表に関わる書類について説明いたします。只今、皆さんの手元に配られた書類は、”セッティング表”と呼ばれるものです。この書類に必要事項を全て書いて、放送部まで提出していただきます。私たちは、この書類を見て皆さんの発表を支える環境を作っていきます。大事なものなので、手を抜かず、きっちりと作成してください。」
神志山さん、堂々と人前でしゃべれてる。凄いなぁ・・・去年の私はあんな風にしゃべれたっけか・・・って、つい感慨に耽ってしまった。
「では、“セッティング表”の書き方を説明します。まず最初の団体名、バンド名には必ず読みガナを書いてください。皆さんを紹介する際に、読み間違えないようにするためです。どのように読むのか判らない名前が多いので、書き漏れの無いようにしてください。」
今日は舞台発表参加団体代表者会議だ。ほんと、1年が経つのってすぐだよねぇ・・・。去年は私があのマイクの前に立ってたんだよなぁ・・・懐かしい。
「次に“SE”という項目です。SEとは、ステージへの登場の際に流す音楽の事です。ステージへの登場の際に使いたい音楽があれば、その音源をあらかじめCDに焼いて提出をお願いします。掛け間違いを防止するために、CDにはその1曲だけを入れてください。また、CDにはマジックで、団体やバンドの名前、流す曲のトラック、流す時間を書いておいてください。」
セッティング表が集まったら、鯨山君達メカ班は進行表の制作に取り掛かるんだよね・・・1年生の皆にはメカ班が作った演出台本について指導してあげなきゃ・・・。
「七つ目、パート欄です。ここには、担当楽器とそれぞれの担当者の名前を書いてください。
我々は、各欄に書いてある情報を合わせて、ステージの全体像をつかんでいきます。ですので、“これはいらない情報だろう”と自分で決めつけないで、書ける所は全て記入してください。」
おっと、考え事をしている内に説明がほとんど終わってる。いけない、いけない。でも、神志山さんがしっかりしてるからこそ、私が考え事をしている暇があるんだよね。ほんと、今年の1年生は凄いよね。
「締め切りは、9月20日、金曜日です。締め切りは必ず守ってください。では、何かご質問はありますか。・・・なければ、放送部からの説明を終わります。」
神志山さんはぺこりと頭を下げてからマイクの前を離れた。
「神志山さん、お疲れ様!上手だったよ。」
「えっ!?いえっ、は、恥ずかしいですから、そんなに褒めないでください、先輩。」
私達のやり取りを聞いていた鯨山君が、あははと笑った。
「去年のドルフィン君を思い出すなぁ・・・俺と君とで今のとそっくりな会話をしたことを覚えてる?。」
「うん、覚えてるよ。あの頃は私もまだまだだったなぁ・・・。」
「今や全国第3位の実力者だもんなぁ。凄いよねぇ。」
鯨山君が神志山さんに向かって同意を求めた。神志山さんもうんうんと頷いてそれを肯定している。
「え、いや、そ、そんなに褒めても何も出ませんよ。」
思わず吃ってしまった。顔が熱い。さぞかし顔が赤らんでるんだろうなぁ・・・恥ずかしい。
☆
舞台発表参加団体代表者会議終了後、私達放送部はミーティングを行った。
「こほん。それでは、文化祭における私達の役割を説明したいと思います。」
うん?つっこみが来ないなって思ったら、1年生達、凄く真剣な眼差しで聞いてる・・・い、いや、これが普通なのか?これまで、同学年の3人でやってきたからか、つい軽いノリで話を進める癖がついてしまってる・・・反省しなければ。
「こ、こほん。えー、文化祭では、体育館で行われる舞台発表は全て私達放送部が仕切ります。そのため、文化祭開催中は、ほぼ体育館に詰めて作業をすることになります。故に、クラスの出し物に関わる時間的余裕は無いので、予め重要な役割分担からは外してもらっておいてください。」
さっ、と神志山さんが手を挙げた。
「私達はどんな仕事をやればいいんでしょうか?」
「私達の仕事はMCとPAを担当することだよ。」
それを聞いた1年生達は一斉に首を傾げる動作をした。
「ぴーえー?って何ですか、先輩。」
やっぱりなぁ・・・今まで舞台に関わったことが無ければ知らなくても当然だろうなぁ。確か去年も同じように花音ちゃんに聞かれて説明したのを覚えているよ。
「“ぴーえー”はアルファベットで“PA”って書くの。“PA”は“Public Address”を略した言葉で、直訳すると“公衆に対して小さな音を拡大して明確に伝達する”ってことかな。現在は、舞台で使う電気音響システム・・・マイクやスピーカー、アンプやミキサーなんかの機器を指す言葉で、舞台関係ではこういった機器に関わる担当者のことをPAって呼ぶこともあるんだよ。
さて、3年生はクラスの模擬店に参加していいことになってるので、PAは2年生と1年生の担当となります。来年は君達が1年生に教える立場になるから、今年の内にしっかりとPAのやり方を覚えてください。
とにかく忙しいんだけど、見方を変えれば、私達放送部員だけができる参加形態とも言えるので、遣り甲斐があります!頑張りましょう!」
☆
「ドルフィン君、いる?」
一週間後、鯨山君達メカ班が物理室を訪ねて来た。
「はい、いますよぉ・・・鯨山君が来たと言うことは、進行表ができた、ってこと?」
鯨山君はにやりと笑った。
「正解!」
「進行表?」
1年生達が怪訝そうに私の顔を見て来た。
「うん、進行表。“タイムスケジュール”って言った方が判り易いかな?文化祭当日の舞台の進行に沿って、マイクを何本、何処に設置するか、音源は必要なのか、照明はどうするのか、マイクを撤収するのか、それとも場所を置き換えるだけなのか、そういうことを整理して表にしたものだよ。」
「聞いているだけで難しそうですが・・・。」
「心配いらないよ。進行表に関してはメカ班が作ってくれるから。私達はそれを見ながら滞りなく発表を進めて行けばいいだけだから。」
私の返答を聞いて、明らかに1年生達はほっとした様子を見せた。
「それにしても、今年も早く出来たね。」
「昨日、全部出揃ったからね。」
「そっか・・・去年よりは遅いかぁ・・・。」
「いや、でも締め切りの2週間前だから十分だよ。」
「まぁ、そうだよねぇ。去年が早過ぎたと言うべき、だよねぇ。」
私は1年生達に向き直って言った。
「さぁ、皆!舞台の出演者達はちゃんと舞台発表を自分達のことだと考えて、セッティング表を頑張って提出してくれました。だから私達も頑張って、いい舞台を演出しましょう!責任は重大ですが、それだけ遣り甲斐もあります!よーし・・・やるぞぉ!!!」
「おぉー!!」
私が拳を振り上げると、全員が呼応して拳を力一杯振り翳してくれた。・・・うん、いい返しだ。今年もワクワクするなぁ。
☆
午後からの本番に向けて我々放送部は体育館でフル操業だ。
メカ班の1、2年は、朝早くから来て色々な機材を運び込んで組み立てている。
「球技大会で使ったものと違いますねぇ。」
神志山さんと新鹿さんは呆然といった風にメカ班の作業を見つめていた。
「うん。球技大会とか体育大会は、拡声できて音楽が流せればいいから、最低限の能力の機器を使ってたんだ。でも、今回は違う。音こそ命!出来るだけいい音が出せるよう、高音域、中音域、低音域、全てのゲイン調節が出来るミキサーを使うんだよ。マイクもワイヤード5系統、ワイヤレス4系統も使うから、体育館に備え付けられているマスターは役に立たないんだ。」
「「へぇーーーー。」」
ふふふ・・・驚いたか!まぁ、言ってることは去年鯨山君から聞いたことの受け売りなんだけどね。
「先輩!このでっかい四角いものは何ですか?」
「これはCDデッキだよ。」
「えっ?球技大会の時はもっと小さなCDラジカセを使ってましたよね?」
「さっきも言ったように、球技大会では音質はどうでもいいからラジカセを使ったんだよ。でも、文化祭の舞台発表では音質は重要だからね。できるだけ良い音が出せるよう、CDデッキを使うんだよ。」
「そんなに違うんですか?」
「うん、全然。」
「先輩!どうして放送室じゃなくてフロアーで機器を組み立てているんですか?放送室は使わないんですか?」
「文化祭では放送室は使わないよ。あそこからじゃぁ舞台の様子が見えないし、音が適切に出ているかも判んないから。フロアーならその両方が判るからね。」
うーん・・・去年、私が鯨山君に聞いた質問ばかりだなぁ・・・疑問に思うことはやっぱり同じなんだなぁ。
舞台では、メカ班の1年生達が王子浜君の指示の基、大きなスピーカーの設置を行っている。
「スピーカーもわざわざ違うものを使うんですね・・・。」
「体育館備え付けのスピーカーじゃぁ良い音は期待できないからね。それに“返し”も必要だし。」
新鹿さんがきょとんとした顔で聞いてきた。
「“返し”って何ですか?」
「別名“モニター”って言うの。舞台上の演奏者や踊り手の為のスピーカーの事だよ。踊り手にBGMを聞かせたり、演奏者が自分達の出している音が判るように設置するんだ。本来のスピーカーは観客に向いて設置されてるから、舞台上に居る演奏者や踊り手さんにはそこから出ている音はほとんど聴こえないんだよね。」
「凄いですねぇ・・・高校の文化祭って、ここまで本格的なものなんですね。」
「だからこそメカ班の男子達は張り切ってるんだよ。腕の見せ所だからね。」




