あっ!先輩、いらっしゃいませ。・・・えっ?部長?えっ?新部長を決めて届け出しなければならないんですか?・・・どうしよう?
2学期が始まったばかりだけど、私達は大忙しだ。
なんたって、九月末には文化祭が行われる。文化祭を主宰し、その全体を統括するのは生徒会だけど、舞台発表に関しては私達放送部が仕切らないといけないからね。
「コホン!えー、一年生諸君!君達の中に、明日開かれる舞台発表参加団体代表者会議において内容説明をする係をやりたい、と言う勇者はいるかな?」
突然の私からの申し出に一年生達は何がなんやら判らないって顔をしている。
「先輩、私達が説明するんですか?生徒会じゃなくて?」
代表して、神志山さんが手を挙げて聞いてきた。
「注意事項の説明は生徒会がします。でも、舞台発表に直接関わる書類の説明は私達がやります。何故なら私達が舞台発表を仕切るからです。」
一年生達は顔を突き合わせて小声で何やら相談している。しばらくして再び神志山さんが手を挙げた。
「先輩はやらないんですか?私達の中では先輩が断トツで上手いじゃないですか。」
ふっふっふ・・・やはりそう来たか。当然の質問だな。
「去年は私がやったよ。積極的に人前でしゃべることはアナウンスの良い勉強になるんだ。だから1年生に是非やって貰いたい。」
再び彼女達は顔を突き合わせて相談を始めた。しばらくすると皆顔を上げてこちらを見た。どうやら結論が出たようだ。
「判りました。担当するのは一人でしょうか?」
「うん。一人でいいよ。この程度の長さの内容を複数で分割してしゃべるのは変だからね。」
三度彼女らは顔を突き合わせた。今度はちょっとばかし長く話し合いをしていた。やがて、話がまとまったようで、顔を上げた。
「了解しました。私がやります。」
おっ、神志山さんか。やる気だねぇ。彼女は私達と一緒に全国大会に行ったからなぁ。それが良い刺激になったんだろうなぁ。
「うん。それじゃぁ、これから放送室に行って、しゃべる内容を確認してくるね。」
鯨山君に去年の原稿のままでいいか確認しなきゃ。因みに私達アナウンス組と朗読組は物理室を本拠にしてるけど、彼らメカニック班は放送室を本拠にしているのだ。
「あっ、先輩!それなら私も一緒に行きます。」
「いいよ。ここで待っててくれれば。」
「いえ、担当する私も一緒に聞いておく方が齟齬が無くていいと思います。」
・・・そう言えばそうか。又聞きするよりもそっちの方が確実だよね。
「それじゃぁ一緒に行こう。残りの皆は発声練習でもしてて。」
☆
「鯨山君、いる?」
私は放送室の扉を遠慮無く開けて、鯨山君の在室確認をした。
「おう!居るぜ。その声はドルフィン君か。何だい?」
男子が6人も居ると放送室はキチキチだ。私と神志山さんは入ることを諦めて入口に留まった。
「明日の舞台発表参加団体代表者会議で行う説明内容の確認に来たの。去年しゃべった内容を残しておいたんだけど、何か変更点はある?」
「代表者会議、と言うことはセッティング表の書き方か。今年もドルフィン君がやってくれるのかい?」
「いいえ。今年は神志山さんがやってくれるって。」
「そうか。去年のメモを見せて。」
はい、と私は去年しゃべった内容を書き起こしたものを手渡した。
「おっ!これって俺が渡したやつじゃないね。」
「ええ。これは私が去年忘れない内に書き起こして残しておいたものよ。」
鯨山君は、ふんふんと言いながら目を通した。
「・・・うん、問題無い。今年もこのままでいいよ。」
鯨山君はそう言って用紙を私に返してくれた。
「了解。そうそう、書類配りはそちらにお任せして良いのかな?」
「うむ。そっちは当然俺たちがやらせて貰うよ。」
「有り難う。じゃぁ神志山さん、物理室に戻ろうか。」
☆
私達が物理室の前まで戻ると、誰かが響子ちゃんと話す声が漏れ聞こえて来た。
「うん?誰か来てるのかな。・・・只今。戻ったよぉ。」
扉を開けて中に入ると、そこに居たのは響子ちゃんらと談笑する神倉先輩だった。
「あっ!?せ、先輩、い、い、いらっしゃいませ。」
自分でも何だぁ、って思う反応だった。案の定先輩は噴き出して笑った。
「あはは、なぁにその反応。」
「ああ、いえ、先輩が来てるとは思わなくて。いえ、自分でも変な反応だなぁって思いましたから、そんなに笑わないでください。」
「あはは、はいはい。」
「それはそうと、何の御用ですか?忙しい先輩がわざわざ来られるなんて。」
「そうそう、用事があったから来たのよね。三年の長柄から何か連絡はあった?」
うん?長柄?誰だ、それ?知らない名前だなぁ。
「えーと、どなたですか?ナ・ガ・ラさん、って?」
すると、先輩は長く大きな溜息を吐いた。
「ひょっとして、会った覚えもない?」
「はい。初めて聞く名前です。」
私が振り返って響子ちゃんと紙織ちゃんの方を見ると、二人も、そうだ、知らない、って顔で答えた。
その様子を見て、先輩は再び大きな溜息を吐いた。
「まさか、二年生の三人ともが知らないなんてね・・・貴女達、部長が誰か知ってるの?」
うん?部長?何それ?
「えーと、先輩、部長って何ですか?」
響子ちゃんも紙織ちゃんもうんうんと頷いている。その様子を見て先輩は目を見張った。
「部長と言うのは、文化系部活動における各部の代表責任者よ。まさか、本当に知らないの?」
「いえ、その“部長”と言う存在は知っています。でも、それが私達と何の関係があるのかが判らなくて。」
響子ちゃんと紙織ちゃんもうんうんと頷いている。
「・・・あのね・・・放送部は部局とは言え、れっきとした部活動なのよ。当然部長も存在するわ。」
先輩は呆れ顔でそう言った。
「えっ!?でも、これまで生徒会主催のキャプテン・部長会議には私が出てましたし・・・部局には部長はいないんじゃぁ・・・違うんですか???」
すると、先輩の眼に燃え盛る炎が見えた気がした。
「御免なさい。皆。私の責任だわ。」
えっ!?先輩は何で自分を責めてるんですか???
「あのぉ・・・何を先輩、怒っておられるんですか・・・私達、何か仕出かしましたか?」
そう言うと、先輩は慌てて私達に謝った。
「いえ、そんなことは無いわ。・・・本当に御免なさい。私が至らないばかりに、皆に迷惑を掛けてしまったわね。実は放送部にも部長がいるのよ・・・。」
私達だけでなく、一年生達もえっ!?と息を呑むのが見えた。部長、居たんですか?
「・・・済みません。部長がいると言うことを初めて聞きました。どなたが部長なんですか?」
先輩は大きな・・・それは大きな溜息を吐いた。
「さっき言った長柄さんが部長だったのよ・・・。」
「済みません、先輩。どなたなのか、顔すら知りません。」
いや、ホントに知らないし・・・神倉先輩に謝らせるなんて、許すまじ!そのナガラとやら。
「・・・ここまで無責任だとは思いもしなかったわ。・・・後できつく叱っておくから。」
「いえ、先輩が悪者になる必要は無いです。どうせ顔も知らない人ですから、放っておきましょう。」
「そうですよ。別に私達は迷惑を掛けられたってことも無いですし。」
「はい。その通りです。」
私達3人の言葉を聞いて、先輩はじわっと涙ぐんだ。いや、ホントに先輩を泣かすなんて、ナガラと言う奴、地獄に落ちろ!
「先輩!泣かないでください!悪いのはナガラです。先輩は何も悪くありません!」
「そうです!ドルフィンの言う通りです!」
「泣かないでください!」
先輩は眼尻をそっと指で拭うと、微笑みながら言った。
「有り難う。貴女達、本当に優しいのね。・・・御免ね、貴女達に全て押し付けてしまって。」
「そのことはもういいですって!」
「もう忘れましょう!」
「そうです。どうでもいいじゃないですか。この一年、特に困ったことは無かったですから。」
先輩は私達の慰めで落ち着いたように見えた。
「それで、先輩。来られた用向きは何でしょうか?」
「ああ、御免なさい。肝心の話をしないとね。・・・実は、毎年八月を持って体育会系も文化系もキャプテン・部長の代替わりが行われるの。三年生にとって、インターハイが最後の公式戦になるから。文化系もそれに合わせているって感じかな。で、他の部活動からはキャプテン・部長の変更届が出てるけど、放送部はまだだったから、それを確認しに来たのよ。」
「新部長ですか?」
私達は思わず互いに顔を見合わせた。うーん・・・考えもしなかったなぁ。
「響子ちゃん、紙織ちゃん、どうしよう?」
「うーん・・・一年生にやらせる訳にはいかないよねぇ・・・やっぱり二年生から選ぶべき?」
響子ちゃんは腕を組みながら絞り出すように言った。
「そうよねぇ・・・鯨山君達メカ班の中から選んでもらうと言うのは、駄目かしら?」
紙織ちゃんの提案は残念ながら却下だな。
「駄目だよぅ、メカ班は裏方に徹してるし。やるなら表に出る私達だよね。」
「やっぱりそうなるかぁ・・・。」
うーん・・・ぐだぐだしてても仕方無い。どうせ、これまでも私が実質的に部長の仕事をしてたんだし、二人も嫌な顔をせずに手伝ってくれたもんね。
「二人が良いのなら、私が引き受けてもいいよ。どうせ、これまでも部長みたいなもんだったし。」
「ドルフィンちゃんさえ良ければ、私は反対意見は無いかなぁ」
「私も・・・御免ね、面倒ばかり押し付けて。」
判ってるよ。二人とも私にだけ押し付ける気は無いってことは。
「では、決まり!神倉先輩!新部長は私がなります!」
先輩の表情がぱぁっと明るくなった。
「有り難う、三人とも。そう・・・快く引き受けてくれて嬉しいわ。栗須さんなら安心だわ。苦労を掛けるけど、宜しくね。」
「はい!お任せください。不肖、この入鹿、部長職を引き継がせて頂きます!」




