昨日の自由行動は楽しかったなぁ・・・さぁ、いよいよ全総文本番だ!と、張り切ってみたものの、今日は朗読とAMだ。よーし、頑張れ、響子ちゃん!
昨日の名古屋城見学はなんやかんやで楽しかった。他の学校の人達とも仲良くなれたし。大人しく響子ちゃんの意見に従っといて良かったな。
さて、今日は会場の受付時間に間に合うように、午前七時にロビーに集合した。
「生徒諸君!名古屋駅は複雑だから逸れて迷子になったりするんじゃないぞ!」
「「「はい!!!」」」
ほんと、初めて来る大都市の主要駅ってダンジョンだ。名古屋駅にはJRは勿論のこと、東山線と桜通線と言う二本の地下鉄、それと名鉄線と近鉄線、さらにあおなみ線って言う第三セクターの鉄道も乗り入れている。
JR自体も新幹線と在来線が分かれていて、在来線は東海道線、中央線、関西線と言う三路線があって、新幹線も含めると十七番ホームまであるのだ。皆について行くだけじゃ不安なので、スマホで名古屋駅の構内図を立ち上げて、それを見ながら歩いた。漸くJRの改札を入ったかと思えば、目的の中央線は三つもホームがあるようだ。行き先表示板を確認しつつ進んだ。
“停車駅の案内”を見ると、多治見には普通列車も快速も止まるみたいだ。来る列車のどれに乗っても目的地に着くと言うのは有り難い。乗り間違えが起こらないからね。
ホームに着くと再度点呼が行われた。誰か一人でも居なかったら大変だもんね。・・・どうやら迷子になった人は居ないようだ。まぁ、私でもちゃんとついてこれたんだから大丈夫だよね。
名古屋から多治見までは四十分ほど。その間、在来線特有の揺れとレールのつなぎ目を車輪が越える時のガタコンガタコンと言う音を聞きつつ知らない風景を楽しんだ。それにしても名古屋はやはり大都会だな。三十分乗り続けても住宅地が途切れることが無かった。高蔵寺と言う駅を過ぎると、ようやく田んぼが見えて来た。大きな川も線路の横に見られるようになった。
「結構大きな川だねぇ。」
「庄内川って言うらしいよ。」
「ふーん・・・初めて聞く名前だねぇ。」
などと言い合っていると、列車はトンネルに入った。なんだ?全然トンネルが途切れないぞ。随分と長いトンネルだなぁ・・・。そう思っていると突然外が明るくなった。トンネルを抜けたようだ。トンネルを出るとすぐに駅に到着。“古虎渓駅”と言うらしい。
「さぁ、皆!次が多治見だ。降りる準備をしなさい!」
遂に目的地に到着か。長い道のりだったなぁ・・・って!古虎渓駅を出たら、またすぐにトンネルに入ってしまった。今度のトンネルも長いなぁ・・・。
突然明るくなったかと思うと、窓の外には住宅街が広がっていた。
『まもなくぅ、多治見ぃ、多治見です。』
車内アナウンスが流れた。うーんと背中を伸ばして荷物を手に取った。来たぞ!全総文!なんか現地に着くと俄然やる気が起きてきたぞ!
☆
多治見駅では、同じ列車に乗っていた人達の多くが降車した。学生っぽい年齢の人達は皆制服を着ているので、全総文に参加する集団と見て間違いなさそうだ。
『全総文、放送部門に参加するみなさん!会場は、あちらです!』
改札を出ると、正面に案内看板を持った三人の高校生が立っていて、会場への道案内をしてくれた。
「お早うございます!」
私が彼女らに大きな声で挨拶すると、他のメンバーもすぐに倣って、
「「「お早うございます!」」」
と元気いっぱいの挨拶をした。
「お早うございます!ようこそ、多治見へ!」
彼女らも挨拶を返すと共に、歓迎の意を述べてくれた。何気無い只の挨拶なんだけど、何とも言えず嬉しい。私達の様子を見て、他県の人達も慌てて挨拶をしていた。
その後も、辻々に係の人達が立って道案内をしてくれたので、迷うことなく目的地に到着した。駅から歩いて10分程だった。思っていたよりも近かったな。ここが全総文放送部門の開催地である多治見市文化会館“バロー文化ホール”だ。
会館の前はすでに人でごったがえしていた。皆さん、いったい何時に到着されたんだろう?
『全総文に参加される皆さーん!受付はホール入口を入った所、エントランスで行っていまーす!受付がまだの都道府県は、順に並び、受付を行ってくださーい!』
あちらこちらで地元の高校生と思しき人達が拡声器を使って呼びかけを行っている。こう言った全国規模のイベントを運営するのは大変だなぁ。でも、ちょっとやってみたい気はする。残念ながら私が高校生の間に我が県で開催されることは無いんだけどね。
「次の方、お願いします。」
しばらくして、私達の番が回ってきた。お偉いさん先生が我が県を代表して全員分の受付をやってくれた。無事受付を終了した私達は、大ホールに入って開会式が始まるのを待った。
☆
午前9時きっかりに客電が落とされ、舞台上にスポットライトが点った。
『みなさん、お待たせいたしました。只今より、第四十八回、全国高等学校、総合文化祭、放送部門を開催いたします。』
わーーー!!!とホール全体が歓声に包まれた。うーん、Nコンとはちょっとノリが違うなぁ・・・。
「どうしたの?ドルフィンちゃん。」
私の様子を見て、そっと響子ちゃんが声を掛けて来た。
「えっ?あ、あぁ、Nコンの開会式とは違うなぁ、って思って。」
「うん?そんなに違う?」
「うん。同じように歓声が上がった・・・と言っても、Nコンの時は会場全体を覆う緊張感が半端無かったんだけど、今回はそんな緊張感を感じなくて・・・。」
すると、響子ちゃんはうんうんと軽く頷いた。
「そっかぁ・・・私も違和感を感じたんだけど・・・そっかぁ、緊張感かぁ・・・うん!納得した。ドルフィンちゃん、感性が鋭いね。」
「えっ?えぇ、そんな事は無いよ。」
「いやいや、謙遜しなくていいよ。そう言う場の雰囲気を感じ取れるってのは、良いことだと思うよ。」
そんな会話をしている内に、お偉いさん達の挨拶が終わってた。
『続いて、日程の説明に移ります。
本日八月二日は、開会式の後、十時から、大ホールにて朗読部門、小ホールにてオーディオメッセージ部門の発表を行います。
明日八月三日は、九時から、大ホールにてアナウンス部門、小ホールにてビデオメッセージ部門の発表を行う予定です。
なお、明日の十五時四十五分から十六時十分まで、生徒実行委員会による交流会を行います。その後、閉会式を行う予定です。』
『それでは、みなさん!二日間、精一杯頑張りましょう!』
再び会場中から万雷の拍手が沸き起こった。さて、私の出番は明日かぁ・・・今日は大人しく響子ちゃんの応援をしますか・・・。
☆
初日の発表が全て終わったのは十七時過ぎだった。
全国四十七都道府県から三人ずつ、計百四十一名の朗読を聞くのは思いの外大変だった。聞いている途中で頭がクラクラしてきたよぉ・・・。全総文の本番を経験してみると、Nコンが準々決勝を六つのブロックに分けている理由がよく判った。そうしないと、発表する生徒も審査員も大変だからなんだ。でもNコンとは違って、全総文は今日の審査イコール決勝だからブロック分けする訳にはいかないんだろうなぁ・・・。だってブロック毎に審査員が違っていたら正確な順位を決定できないもんねぇ・・・。
あぁ、それにしても、今日はなんもしてないのにお腹が空いたなぁ・・・。
「皆、お疲れさん。晩御飯は名古屋に帰ってからにしよう。」
お偉いさん先生からお達しがあった。そうか・・・晩御飯も名古屋かぁ・・・なんか、多治見に来ている感が全くないなぁ・・・。でも、多治見名物が何かって聞かれても答えられないし・・・。いや、ほんと、何だろう?
「ねえねえ、響子ちゃん、多治見の名物料理って、何か知ってる?」
突然の問い掛けに響子ちゃんは私の意図を汲みかねているみたいだ。
「どういう意味?」
私の顔をじっと見つめながら響子ちゃんが問い返して来た。まぁ、そりゃそうだよねぇ。突然そんなことを聞かれても、響子ちゃんからしたら意味判んないもんね。
「いやぁ、晩御飯は名古屋で、って言うお達しだったからさぁ。宿泊だけじゃなくて、ご飯も名古屋なんじゃぁ、なんか多治見に来たって言う実感が湧かないなぁ、って。だからと言って、じゃぁ多治見に来たからには、やっぱりこれを食べとかないと、って言う料理が思い浮かばなくて。それで、つい響子ちゃんに聞いてみた、って訳。」
私の回答を聞いた響子ちゃんは目を瞑ってしばらく考え込んでいた。やがて、目を開けて私の顔をじっと見つめながら、
「うーん、何も思い浮かばん!確かに多治見名物って何?」
って逆に問い返して来た。
「うーん・・・誰か知ってるかなぁ・・・。あっ!池田さん!池田さんは多治見名物って何か知ってますか?」
私は近くに居た丹鶴高校の池田さんに聞いてみた。
「えっ?名物、ってことはお料理ですよね・・・そう言えば知りませんねぇ・・・鏡野さんは知ってる?」
いきなり話を振られた鏡野さんは目を白黒させていた。
「えっ!なっ、何の話ですか?」
「多治見名物のお料理って何でしょう?って、栗須さん達と話してたの。鏡野さんは知ってる?」
「・・・いえ、私も知りません。」
鏡野さんは困った顔をしている。変なことを聞いてしまって済みません・・・。
「あっ!浜野宮さん!九鬼さん!お聞きしたいことがあるんですが!」
響子ちゃんはめげずに、今度は高倉高校のお二人に話を振っている。
「えー、知らないなぁ・・・九鬼さんは知ってる?」
「いえ、私も。」
その後、響子ちゃんは御船高校の鷲頭さんや猪垣高校の阿曽さんにも聞いてたけど、結局誰も知らなかった。うーん、多治見の名物って何なんだろう???




