さぁ!いよいよ私の出番だ!がんばるぞぉ!・・・しかし、発表が全て終わっても、Nコンはまだまだ終わりでは無かった!!
8番の人がアナウンス台から立ち上がった。いよいよ、私の番だ。
出番までの時間で開き直れたのか、不思議と緊張感は無い。ただ、まるで自分じゃないみたいに、体が勝手に舞台の中央を目指していく。なんか気持ちはフワフワしているなぁ・・・。
アナウンス台に到着してもそれは同じで、私の身体は何時もよりも優雅に着席し、マイク位置を自分の口元に合わせていく。まぁ、体が勝手にやってくれるのなら、その方が楽でいいよね。
さて、原稿も広げた。発表を開始しよう!
『9番、栗須入鹿。
“皆さんは、書道パフォーマンス、と言うものをご存じですか?
書道パフォーマンスとは、音楽などに合わせて、体全体を使って大きな半紙に大きな筆で文字を書く演技のことです。
元々は、愛媛県立三島高校書道部が、町おこしの一環として地元を盛り上げようと始めたもので、これが全国放送されたところ瞬く間に評判となり、今では全国大会が開かれています。
我が校の書道部も、昨年からこの大会に参加するようになりました。切っ掛けは、現在書道部の部長を務めている大曾根亜衣さんが、入部と同時に顧問の先生に対して大会への参加をお願いしたことでした。
大曾根さんは、中学生の時、テレビで書道パフォーマンスを見て、その虜となり、高校生になったら自分も参加したい、と思い続けていたのです。
昨年は残念ながら予選落ちでしたが、大曾根さんは諦めず、一年間思いを共有する部員達と共に研鑽を積んできました。
そして、今年の大会。大曾根さん達書道部は見事予選を突破しました。
本戦は七月二十八日に四国中央市で開催されます。”』
よし!アナウンス原稿は内容を全て覚えているし、既に何回読んだか忘れてしまったほど繰り返して来た。今の私には、もうこれ以上のアナウンスは出来ない、と自分では思えるパフォーマンスが出来た。さて、問題は読み込みが出来ていない課題原稿なんだけど・・・いや!ここまで来たら、やるしかない!
『K市立国分寺高等学校の作品は、恐らくすべての放送部にとって他人事では無い「喋れる男子部員がいない」と言う問題を取り上げています。内容は、データを用いることで説得力があり、何よりも落ちが秀逸です。』
うむ!泣いても笑っても、私の発表は終わった!あとは審査員がどう判断するかだ。
私は上手の自分の席に戻った。この後10番の人の発表が終わったらアナウンス部門は閉幕だ・・・。長かったような短かったような・・・何とも言えない気分だな。
『以上で、アナウンス部門決勝を終わります。決勝に出場した皆さんは降壇してください。続いて、朗読部門の決勝です。』
さて、アナウンス部門全員の発表が終わった。私達は司会者の指示に従って、一斉に立ち上がって下手の舞台袖に向かった。
「お疲れ様です。それでは、私について来てください。」
スタッフに従って、私達は舞台袖から通路を経てロビーに出た。
「それじゃぁ、席に戻って朗読部門の決勝を観戦しましょうか。」
神倉先輩は既にいつも通りだった。まぁ、すでに終わってしまったんだから、興奮冷めやらぬと言うのもどうかとは思うけど。でも、私の中ではやっぱり緊張と興奮が入り混じった状態がまだ続いている。
私達が観客席に戻ると、ちょうど朗読部門が始まるところだった。うん、ようやっと決勝を観ている、って感じだ。課題原稿を考えるのに必死で、テレビドキュメント部門を始め、折角の決勝戦なのにほとんど視ていた記憶が無い。とほほ・・・勿体ない。朗読部門の決勝が凄く聴き応えがあったから、なおさらそう思う。
決勝は僅か10人。あっと言う間に朗読部門も終わってしまった。
『以上で、全ての部門の決勝が終了しました。審査が終了するまでの間、Nコンならではの企画をお楽しみください。』
『前回の第70回コンテストに引き続いて、今回もまた校内放送研究発表会代表校による発表を、ここNHKホールで行いたいと思います。代表校は、発表校どうしの投票によって選ばれました。選ばれたのは、T県の国際経済大学付属高等学校と、H県の猪名川女子大学附属高等学校です。』
三千人を超える大観衆による万雷の拍手の元、発表が始まった。
まずは国際経済大学付属高等学校の発表だ。テーマは、“自然に聞こえるような話し声にするにはどうしたらいいのか?”。昨年、自分達の作ったラジオドラマに対する講評で“出演者の1人のセリフが棒読みだった”と指摘され、ではどうしたら自然に話しているように聞こえるかを研究してみることにしたそうだ。研究対象に選んだものは学校の授業。授業を録音し、それらを細かくデータ分析することで、“自然な話し声”とは何かを追求していた。私は今更演劇をやるつもりはないけど、ビジネスとかにも応用できそうな凄い研究だと思った。
次は猪名川女子大学附属高等学校の研究発表だ。テーマは“原稿の書き方”。研究の切っ掛けは、より良いアナウンス原稿を作りたいと思ったからだそうだ。研究対象は、Nコン全国大会の準決勝で発表された原稿過去5年間三百人分!部員全員でそれぞれの担当を決めて内容を細かく分析していた。アナウンス部門に参加する一人として、この研究は凄く為になった。今後の原稿作りに是非とも活用させてもらおう。
『国際経済大学付属高等学校と猪名川女子大学附属高等学校の皆さん、有り難うございました。会場の皆さん、発表を行ってくれた二校の皆さんにもう一度拍手をお願いします。』
うん、二校とも素晴らしい発表だった。同じ高校生がここまで立派な研究をしていたとは正直驚いた。説明の仕方、スライドの作り込み、話し方なんかもよく工夫されていて判り易かった。全国レベルと言うものがここまで凄いものとは思っていなかった。全国大会に来られて本当に良かった。
『続きまして、本日のゲスト審査員、声優の梶原裕希さんによる講評です。梶原さん、お願いいたします。』
再び会場中が万雷の拍手に包まれた。アニメ好きの響子ちゃんと紙織ちゃんも興奮して黄色い歓声を挙げていた。なんだか、まるでアイドルが登場するみたいだなぁ。知らんけど・・・。
「やれやれ、凄い歓声だねぇ・・・。」
私の思わず口をついて出た呟きに、響子ちゃんと紙織ちゃんが猛然と噛みついてきた。
「ドルフィン!あんたねぇ、梶原さんが登場したと言うのに、なに、その反応は!」
「そうよ!梶原さんよ、か・じ・は・ら・さん!」
「そ、そんなこと言われても・・・私はあんましアニメとか見ないから、この声優さんの事をよく知らないんだけど・・・。」
実際、私はよく知らない・・・。それを聞いた響子ちゃんと紙織ちゃんは溜息をつきながら、やれやれと言ったゼスチャーを二人そろってしている。
「大人気声優の梶原さんを知らないとは・・・。」
「ドルフィンさんには困ったものですねぇ・・・。」
いや、別に声優さんに詳しくなくても放送部の活動はできるんですけど!
『皆さん!最高にカッコよかったです!』
梶原さんはいきなりそう叫んだ。わぁーと言う歓声で皆がその言葉に答えた。
『出場校の皆さんの思いが集った最後の目的地、ここ全国大会決勝の場。そこに今日、審査員としてお邪魔させていただきました。僕が会場に入ったとき、会場の空気が皆さんの高校生らしいエネルギーで溢れていて感動しました。』
そう前置くと、梶原さんは講評を始めた。それを聞いていると、お世辞では無く、本当に作品作りや練習に励む放送部の皆に対するリスペクトの思いが感じられた。
『この中から、アナウンサーや声優、番組ディレクターなどが誕生すると思うとワクワクします。いつか一緒にお仕事をできる日が来たらすごく素敵だと思いますし、そうなれるように僕も頑張っていこうと改めて決意しました!』
再びわぁーと歓声があがった。うん、私にとってはよく知らない人だけど、その熱い想いは伝わって来た。私ですらそうなんだから、ファンにとっては嬉しい言葉だろうなぁ・・・実際、響子ちゃんと紙織ちゃんは涙ぐんでいるし。
『梶原さん、有り難うございました。』
梶原さんが舞台袖に引っ込むと、ここで進行役がNHKの松代正美アナにバトンタッチされた。
『さて、皆さん。毎年恒例の“Nコン企画”の時間がやってきました。今年のNコン企画は2本立てです。1つ目は、子どもや若者の幸せを考えるプロジェクト“君の声が聴きたい”とのコラボ企画“あなたの願いを聴かせてください!”です。会場に設置されていた“ひとことボックス”に寄せられた高校生の皆さんの“願い”を、ゲスト審査員の梶原裕希さんとともに紹介します。』
壇上に三名の大会参加者と共に再び梶原さんが登場し、万雷の拍手が沸き起こった。
高校生の三人は、何故その投稿を選んだのか、その理由と共にそれぞれが選んだ投稿を紹介していった。
最後に、三人の話を聞いた梶原さんが、他者の意見を噛み砕いた上で自分の考えをことばにすることのすばらしさや、正しいと思うことを行動に起こすことの大切さについて語って、このコーナーを締めくくった。
『二つ目は“NHKニュース7”とのコラボ企画“細川アナ!福田アナ!聞きたいことがあります!”です。このコーナーでは、Nコン決勝大会出場の経験者である細川アナウンサーと福田アナウンサーに、高校生の皆さんからの質問に答えて頂きましょう!』
松代アナの口上が終わると、壇上にニュースでお馴染みの細川アナと福田アナが登場した。予め募っていた質問に対して答えるのかと思いきや、なんと、客席からマイクを使って、直接二人に質問するのだった。これには正直驚いた。
質問内容は、“原稿を「読む」と「伝える」の違いとは何か”“アナウンスをする前に必ずしているルーティンは何か”“学生のうちにやるべきこと、やってよかったことは何か”“アナウンサーになってよかったと思った出来事や瞬間は何か”など、アナウンスをやってる者なら誰しもが知りたいと思う内容のものばかりだった。お二人はNコンへの出場経験や、実際にプロのアナウンサーとしての経験から的確な答えを語ってくれた。私にとっても、とても有意義なコーナーだった。
『これで“Nコン企画”を終了します。この後、閉会式を行います。いよいよ皆さんお待ちかねの結果が発表されますが、その前に審査員の皆様に今大会の講評を行って頂きます。』
審査員の皆さんがステージに登壇し、各分野のプロの視点から、作品についての講評や全体の傾向、今後の課題などが語られていく。しかし、さっきまでとは打って変わって、会場の皆にステージ上への関心がさほど感じられない。講評も大事なんだけど、やっぱり結果が気になって仕方ないんだろうなぁ・・・。




