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こちら、県立東和高校放送局です!  作者: 田鶴瑞穂


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アナウンス部門決勝戦開始!先輩が最初、次が真帆ちゃん、私が最後だ。うぅっ、緊張が収まらない・・・。

 遂にこの時が来た。

『間も無く、決勝戦、午後の部を開始いたします。決勝に進出したアナウンス部門、朗読部門の皆様は指定された場所に集合してください。』

 うむ。行くか!私は先を歩く神倉先輩と真帆ちゃんの後を追った。

「決勝進出の皆さんは、集まってください。名前を呼ばれたら、準決勝のエントリーカードと課題原稿を2部提出してください。」

 順々に受付が行われていく。ただ並んで待っているだけなのに、ドキドキが止まらない。

「東和高校の神倉です。」

「エントリーカードをお願いします。」

「はい。これです。」

「確認しました。では、課題原稿の提出をお願いします。」

「はい。お願いします。」

「・・・はい。受領しました。これが決勝のエントリーカードです。では、あちらでお待ちください。」

「はい。有り難うございます。」

 まずは神倉先輩だ。続いて真帆ちゃんが受付の前に立った。

「高倉高校、渋川です。」

「エントリーカードを提出してください。」

「はい。これです。」

「では、課題原稿の提出をお願いします。」

「はい。これです。」

「・・・はい。受領しました。これが決勝のエントリーカードです。では、あちらでお待ちください。」

「はい。有り難うございます。」

 あぁ、いよいよ私の番だ。落ち着いて、落ち着いて・・・。

「と、と、東和高校、く、く、栗須です。」

「では、エントリーカードをお願いします。」

「は、は、はい。お、お願いします。」

「・・・では、課題原稿の提出をお願いします。」

「は、はい。」

「・・・はい。受領しました。これが決勝のエントリーカードです。では、あちらでお待ちください。」

「は、はい。あ、有り難うございます。」

 緊張のあまり息をするのを忘れていた。受付を離れて、私はプファー、と息を吐いた。

「お待たせしましたぁ。」

「ドルフィンちゃん、今から緊張し過ぎ!そんなんじゃ、本番はどうするの?」

 真帆ちゃんが喝を入れてくれる。

「ご、ごめん。でも、どうしようもなくて・・・。」

 そんな私と真帆ちゃんのやり取りを見て、神倉先輩がぷっと噴き出した。

「栗須さんを見ていると、去年の自分を思い出すわぁ。確かに緊張するわよね。でも、去年の私には、周りに先輩も仲の良い友達もいなかったわよ。」

 あぁ、そうか・・・去年の決勝では、先輩はたった一人で戦ったんだ・・・私には先輩と真帆ちゃんが傍にいる。これって、とても贅沢なことなんだ・・・。そう、思うと緊張よりももっと強い何かが心の底から湧いてきた。

「はい!そうですね。・・・私は恵まれてる。緊張なんかしている場合じゃないんだ。」

 私の顔を見ていた先輩がふっと優しい笑みを浮かべた。

「良い顔つきになったわね。その調子で決勝に臨みましょう!」

「はい!」

 真帆ちゃんも安心したような微笑みを浮かべている。うん!私はもう大丈夫だよ。二人を失望させないように頑張るからね!

「決勝に出場する皆さんはエントリー順に並んで、私の後についてきてください。」

 スタッフの人が声を上げた。舞台裏に私達を誘導してくれるようだ。彼の後について行くと、“関係者以外立ち入り禁止”の看板が貼られた鉄扉に行き当たった。別の係の人が扉を開けてくれた。私達は列を維持したまま、その中に入った。廊下は舞台の袖に続いていた。

「しばらく待ってください。司会が呼んだら、列をキープしたまま舞台に上がって、上手の席に順に座ってください。」

 スタッフが小声で指示を出した。私達は銘々が首を縦に振り、無言で了承したことを伝えた。

 突然、司会の声が聞こえてきた。

『お待たせしました。只今より、アナウンス部門の発表を行います。決勝に進出した10名の皆さん!ご登場ください!』

 観客席の方からどっと歓声が沸き、拍手が鳴り響いた。

「さ、舞台に出て。」

 スタッフの指示が出た。さぁ、いざNHKホールの舞台の上へ!

 袖から舞台上に出たとき、一瞬目が眩んだ。舞台袖は機器操作をするスタッフさんの手元を照らすスタンドライトしかなく薄暗い、と言うよりもむしろ暗い。しかし、舞台の上はスポットライトがガンガン当たっており、屋外のように明るかったからだ。

『それでは、エントリーナンバー1番、K県坊ケ崎女子高等学校、須原奈那子さん、お願いします!』

 よーし、始まった。神倉先輩が2番、真帆ちゃんが5番、私が9番だ。ちらりと客席の方を見ると、客電フロアライトは暗めで、舞台の方が遥かに明るい。これなら客席が良く見えない分緊張せずにやれそうだ。

 そんな風に考えごとをしていると、先輩が席を立った。何時の間にか1番の人の発表が終わっていたみたいだ。入れ替わりで舞台中央に設置されたアナウンス台に着いた先輩は落ち着いた様子で座り、マイク位置を修正している。・・・やっぱり私、緊張しているんだな。一人一人座高が異なるから、マイク位置を自分に合わせ直すのは基本中の基本だ。それを忘れていたなんて・・・エントリーナンバーが先輩の後で良かったぁ。

『二番、神倉千穂。

 “皆さんはボランティア活動に参加したことはありますか?

 そもそもボランティアとは、何でしょうか?一般的には自発的な意志に基づき他人や社会に貢献する行為だと言われています。強制されたり、義務としてではなく、自分の意志で行う活動です。

 何だか難しそう、そもそもやる時間が無い、なんだかやるのが恥ずかしい、そのように考える人も多いのではないでしょうか?

 大丈夫です。ボランティアはそんなに畏まったものではありません。

 道路の落ち葉を掃き集める。

 地域のお祭りの手伝いをする。

 横断歩道を渡ろうとしているお年寄りを助ける。

 こう言うことも立派なボランティアなのです。

 情けは人のためならず、と言うことわざがあります。人にした親切はめぐりめぐって自分に返ってくる、という意味です。

 このことわざこそ、ボランティアの本質ではないでしょうか。

 誰しも、はじめの一歩を踏み出すには勇気がいります。人のために何かをする、と思うと、つい力んでしまうかもしれません。

 しかし、そのはじめの一歩をあなたも踏み出してみませんか?”』

『M県立楠坂高等学校の作品は、近年その存在感を増しているAIを取り上げた斬新なアイデアに溢れたものです。果たして人間の顧問はAIに勝てるのか?それとも・・・結果は是非貴方の耳で確認してください。』

 先輩はすっと立ち上がると実に綺麗な所作で一礼し、此方に向かって歩き出した。3番の人が立ち上がり、先輩と入れ替わりでアナウンス台へと向かう。この人も随分と落ち着いているようだ。な、何で?緊張しているのは私だけ?どういうこと???取り敢えず落ち着かなきゃ・・・私は目を瞑ってゆっくりと深呼吸を繰り返した。・・・うん、徐々に落ち着いてきたぞ。

 こんな風に私が落ち着くことに専念していると、真帆ちゃんがすっと立ち上がった。えっ!?もう真帆ちゃんの番だっけ?い、いかん。落ち着くことも大事だけど、自分の番が来ていることに気が付かなかったら大変だ!そろそろ、発表に注意を向けなきゃ。

『5番、渋川真帆。

 “皆さんに残念なお知らせがあります。

 長年に渡り、我が校の入学式や卒業式の際に式場の生け花を活けてくれた高倉生花店が、今年度末で閉店されることになりました。

 高倉生花店さんは式典だけではなく、生徒会役員の引退式、先生方の離任式などでも、採算度外視でとても素敵な花束を作ってくれました。

 私達高倉生にとって掛け替えのない思い出と共にある花屋さんです。

 何故閉店されるのか、お店を訪れてその理由をお聞きしました。

 閉店の理由は、お年を召されて体力のいる生け花を活けることが辛くなったためでした。

 式典の生け花を活けるには、近くの水道から舞台上まで何度も重い水の入ったバケツを持って往復しなければなりません。また、多くの花を運び込むために、トラックと舞台上との間を何度も往復しなければなりません。最近膝と腰に痛みを感じるようになり、それらの作業が辛くなったとのことでした。

 次の卒業式が長年親しんだ生け花の見納めとなります。高倉生花店さん、これまで本当に有り難うございました。”』

『H県立北黒滝高校の作品は、非常にタイムリーで深刻な若者たちの問題、「オーバードーズ」に取り組んだ意欲作です。顔を曝すことが無いラジオの特性を活かして、生きづらさを抱える人の心のうちを届けています。』

 実に堂々とした発表だった。真帆ちゃんも凄いなぁ・・・。私だけ恥を晒すわけにはいかない。頑張るのだ、ドルフィン!


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