ついに発表の時が来た!先輩は?真帆ちゃんは?響子ちゃんは?紙織ちゃんは?・・・このメンバーの中で果たして決勝に行けたのは!?
案の定、昨夜はあんまり寝れなかった。そりゃそうだろう。結果が待ち遠しくて夜が更けても目が冴えてしまったのだ。早めに飛び起きて、顔を洗って、ラジオ体操なんぞをやってみた。うん!寝不足の割には頭がはっきりしてきたぞ。
「おはよう、栗須さん。早いわね。」
体操をしていると、神倉先輩も起きて来た。
「おはようございます。先輩。」
「他の人達は?」
「あぁ、まだ寝てると思います。私は寝てられなくなっちゃって・・・。」
「ふふ・・・気持ちは良く判るわ。去年、私もそうだったもの・・・いえ、去年だけじゃないわね。今年もよ。」
「えっ?先輩でも、ですか?」
「ええ・・・私もまだ高校生だから・・・。」
あぁ、先輩が完璧超人過ぎて忘れてた・・・先輩もまだ高校生だった。
「決勝・・・行きたいですね・・・。」
「勿論!」
先輩にしては珍しく語気が強かった。ふふ・・・先輩にもまだこんな高校生らしいところがあったなんて・・・。
「うん?栗須さん、何か可笑しいことでも?」
「いえ・・・何でもありません。」
そんな他愛のない会話を先輩としていると、皆が続々と顔を洗いに部屋から出て来た。
「おはようございます、先輩。・・・おはよう、ドルフィンちゃん。」
響子ちゃんが真っ先に挨拶してきた。
「おはようございます!」
紙織ちゃんや神志山さん、真帆ちゃんもそれに続いて朝の挨拶をしてきた。
「おはよう。皆、ちゃんと眠れた?」
「「「はいっ!」」」
「そう・・・では、今日の決勝戦に備えて朝ごはんを食べに行きましょうか。朝、しっかり食べないと声が出ないから。」
「「「はいっ!」」」
☆
今日の会場は昨日までとは違ってNHKホールだ。ここ国立オリンピック記念青少年総合センターからはおよそ2km離れているから、徒歩で30分ほどかかってしまう。そこで、早めに宿泊棟を出てNHKホールに向かうことにした。
NHKホールに向かうには、代々木公園を横切るのが近道だ。この公園はとても都心とは思えない規模の森が広がっている。まるで私達の学校がある弾正山のようだ。とは言っても、ここは平らでほとんど傾斜らしいところは無いけどね。弾正山は地塁山地の一部なので、その斜面は断層で形成されているため低いながらも結構険しいのだ。
公園内にはジョギングやウオーキングをしている人が結構沢山いる。犬の散歩をしている人もちらほら。長閑な朝の風景だ。心が落ち着いてくる。公園内を移動するのは正解だったな。
NHKホールの入口にはすでに長蛇の列が出来ていた。別に早い者勝ち、って訳では無いのだけどもなぁ・・・。予め出場者と顧問には指定席入場券が配られている。だから、時間までに来ていれば必ず会場に入れて席もあるのだ。それでも、皆我先にと並んでいる。日本人だなぁ・・・。
さて、ホール内に入って吃驚。こんな大きなホールは初めてだ。案内板を見ると、なんと三四〇〇名も入れるのだ!うちの県では一番大きなホールでも一五〇〇名も入れないはず。倍以上とは凄い・・・流石は天下のNHKホールだ。いや・・・ちょっと待てよ・・・決勝ではこの三四〇〇人の前で喋らないといけないのか!・・・うぅ、今からお腹が痛くなってきた・・・。
私達の席は二階席の右翼だった。各都道府県毎に固められているのは有難かった。真帆ちゃんと並んで座れたからね。
おっ!?物珍しくてきょろきょろしている内にもうすぐ9時だ。いよいよ決勝進出者の発表だ。緞帳の閉まった舞台上に司会テーブルが設けられている。そのテーブルの前に二人の人物がスタンバった。一人はどこかで見たことがあるような・・・もう一人は知らないなぁ・・・随分お若いようだけど・・・。
『皆さん、おはようございます。』
「「「「「おはようございます!!!」」」」」
『元気一杯のお返事、有り難うございます。私はNHKアナウンサーの磯崎春江です。』
おお!そうか!テレビで見たことがあるNHKのアナウンサーだ!しかし、こんなことでも興奮してしまう自分のミーハー気質が嫌になるなぁ・・・。
『私の隣にいるのは、本日の司会を務めて頂く、昨年の第70回大会、アナウンス部門優勝者、高原向日葵さんです!』
おぉー、と言う声と共に轟くような拍手が沸き起こった。こ、この人が神倉先輩を降した昨年度優勝者か。うーむ、凄く綺麗な人だ。先輩に負けていないな。まぁ、私にとっては神倉先輩が至高の御方なんだけど。
『では、高原さん。昨日の準決勝の結果発表をお願いします。』
おぉ!いよいよ発表かぁ。果たして私は決勝に進出できたのかな?神倉先輩や真帆ちゃんはどうだったんだろう?響子ちゃんや紙織ちゃんは?あぁ、心が、心が乱れる・・・。こんなに苦しいと思ったのは初めてだ。脂汗が滲んできた。あぁ、決勝に進出できてなくても良いから、早く結果を発表してくれ!と切実に思った。
『まずは、アナウンス部門から。決勝に進出した方を準決勝のエントリーナンバー順に発表いたします。』
この瞬間、三千人以上の人がいるNHKホールがしーんと静まり返った。
『エントリーナンバー4番、N県、県立牧島高校、加賀美紀さん。』
会場の一部から、わーっと言う歓声が上がった。歓声を上げたのはN県の人達だろうな・・・おめでとうございます!
『エントリーナンバー6番、T県、県立雄山高校、兜谷真唯さん。』
先ほどと同じように、わーっと言う歓声が上がった。うん、皆さんの気持ち、凄く判ります。
『エントリーナンバー11番、K県、県立高倉高校、渋川真帆さん。』
あ、あ、真帆ちゃんの・・・真帆ちゃんの名前が呼ばれた!凄いよ、真帆ちゃん!・・・でも、真帆ちゃんなら納得だ。真帆ちゃん、上手だもんなぁ・・・。おめでとう、真帆ちゃん。気が付いたら、無意識に拍手していた。素直に親友の快挙が嬉しかったんだ・・・。
「おめでとう!真帆ちゃん!う、嬉しいよぉ!」
あれ?私、泣いてる・・・。
「あ、有り難う!ドルフィンちゃん!・・・ホントに、有り難う・・・。」
真帆ちゃんも泣いてる。そりゃそうだ。嬉しく無いはずがない。おめでとう、真帆ちゃん!
『エントリーナンバー18番、F県、平尾台高校、宇藤鹿ノ子さん。』
『エントリーナンバー21番、K県立東和高校、神倉千穂さん。』
あっ!?先輩の名前が呼ばれた。当たり前だよね。先輩が、け、決勝に進めないなんてこと、あるはずがないもんね。
「おめでとうございます!先輩!」
あれっ?先輩が涙ぐんでる。あの神倉先輩が泣いている・・・。そうなんだ。去年の決勝進出者で、優秀賞受賞者なんだ・・・私達とは比べ物にならないほどのプレッシャーだったのに、先輩はその気丈さを崩すことはなかった。・・・どれほどしんどかっただろう・・・。
「うわーん・・・先輩、おめでとうございます!わ、私、これほど嬉しいことはありません!」
「有り難う、栗須さん。有り難う・・・。」
絞り出すように先輩は私にお礼を言ってくれた。こんな私にお礼なんか言わなくても良いです、先輩。
『エントリーナンバー25番、A県、竜牙埼高校、橘花綾香さん。』
『エントリーナンバー28番、K県、県立東和高校、栗須入鹿さん。』
えっ?今、私の名前、呼ばれた?
「ドルフィンちゃん!やったね!決勝進出だよぉ!」
響子ちゃんが我が事のように喜んでくれてる。
「おめでとう!ドルフィンちゃん!」
紙織ちゃんも満面の笑みでお祝いしてくれた。
「先輩!凄いです!決勝ですよ!決勝!」
神志山さんは目をキラキラさせて身を乗り出してきた。
「良かった・・・ホントに良かった・・・一緒に決勝、頑張ろうね!」
真帆ちゃんはホッとしたような表情をしている。自分だけ決勝進出だったらどうしようと思ってたんだろうなぁ。そんな気を遣わなくてもいいのに・・・。
「おめでとう、栗須さん・・・本当におめでとう。」
神倉先輩にお祝いされたのも嬉しいけど、何よりも先輩と同じ舞台に立てるのが、もっと嬉しい・・・。また涙が流れ出て来た。遂に目標の決勝進出が出来たんだ・・・しかも、先輩と真帆ちゃんと一緒に・・・夢みたいだ・・・。
『エントリーナンバー40番、N県、聖心女学院高校、福山若菜さん。』
『エントリーナンバー44番、Y県、不知火女子高校、坂本優佳さん。』
『エントリーナンバー52番、H県、蝦夷芸術高校、東村美優さん。』
『以上、10名の方です。』
『残念ながら決勝に進むことができなかった50名の方々は入選となります。』
『続いて、朗読部門を発表します・』
『エントリーナンバー3番、F県、筑前女学院高校、宮城桃花さん。
エントリーナンバー9番、東京都、都立台場高校、原口陽光さん。
エントリーナンバー15番、A県、県立田沼高校、菊市実夕さん。
エントリーナンバー30番、K県、聖奴女子高校、栄長愛理さん。
エントリーナンバー33番、O県、相思高校、本山悠里さん。
エントリーナンバー41番、F県、北東女学院高校、加賀藍子さん。
エントリーナンバー48番、N県、県立天草高校。銀沢文子さん。
エントリーナンバー51番、O県、県立鷺見丘高校、小沢友恵さん。
エントリーナンバー54番、H県、高嶺高校、吉川日菜子さん。
エントリーナンバー58番、H県、県立東印旛高校、咲方美緒さん。
以上、10名の方です。』
『残念ながら決勝に進むことができなかった50名の方々は入選となります。』
あ、あっ、駄目だったか・・・。さっきとは異なり悲しみで涙が出て来た。できれば全員で決勝に行きたかったなぁ・・・。
「ドルフィンちゃん、気にすることは無いよ。」
まず紙織ちゃんが私に声を掛けてくれた。
「そうそう。ドルフィンちゃんが気に病むことは無いよ。来年こそ私らは決勝に進出して見せるからさ。新たな目標ができたって訳さ。」
響子ちゃんは何時ものように明るかった。落ちこんでいるようには見えなかった。
「決勝、私達の分まで頑張ってね!」
「期待してるからね!」
響子ちゃんも紙織ちゃんも私を気遣ってくれた。
「・・・御免ね。」
「馬鹿だなぁ、何でそんな気を遣うのさ!決勝進出だよ!胸を張ってよね。」
「そうよ。私達も鼻が高いです。同じ県から3人も決勝進出なんて!凄いことなんだから。私達の分まで頑張ってくださいね!」
涙が累々と流れた。ほんとに私には勿体ない友達だよ、二人とも・・・。
「うん!私、頑張る!」




