みんなでお泊り。嬉しくて、ついはしゃいでしまった。寝不足で辛い・・・。いや!このままではいけない!みんな!声出しして目を覚ますぞ!!
寝不足で辛い・・・皆もあくびばかりしているなぁ。自分でも酷い顔をしているなぁって思う。
「なぁに?貴女達夜更かしでもしたの?」
あぁ、神倉先輩のお言葉が心に突き刺さる・・・すみません、してました。
対して、別室に泊まっていた神倉先輩はすっきりした顔をしている・・・流石だなぁ・・・私達も見習わなければ・・・。
「皆、しっかり顔を洗ってきなさい。朝食もしっかり食べるのよ。お腹が減ってたんじゃ声が出ないわよ。」
はい、一々ごもっともでございます。と、言う訳で、私達は何度も顔を洗ったのだった。
取り敢えず、頭をはっきりさせるには発声だ!お隣の明治神宮はこんもりとした森になっているから、そっちに向かってなら迷惑にはならないだろう・・・たぶん。
「じゃぁ、みんなぁ、まずは鼻から息を吸って口から出しまーす。
まずは短く、“ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっ”・・・はいっ!」
「「「“ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっ”。」」」
「はいっ、もう一度!」
「「「“ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっ”。」」」
「はいっ!では次、鼻から目いっぱい息を限界まで吸ってぇ・・・から、ゆっくりと息を吐いて・・・吐き切ってぇ。」
「「「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぅぅぅぅぅぅ・・・”。」」」
「はいっ、もう一度!息を吸ってぇ・・・はい、吐き出してぇー。」
「「「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぅぅぅぅぅぅ・・・”。」」」
「よーし!準備体操終わり!続いて、発声練習、いきますよぉ!はいっ!声を合わせてー!」
「「「あ・え・い・う・え・お・あ・お。
か・け・き・く・け・こ・か・こ。
さ・せ・し・す・せ・そ・さ・そ。
た・て・ち・つ・て・と・た・と。
・・・・・・・・・・・・。」」」
「はいっ!お口の体操はまだまだ続くよぉ!せーのー、はいっ!」
「「「合う、言う、馬、駅、オオカミ。
赤い色鉛筆で海の絵を大きく書いた。
青い家の上の屋根。
青い海へ行く。」」」
「「「カマキリ、菊、クヌギ、獣、駒。
紅葉の景色。
・・・・・・・・・・・・。」」」
「続いてぇ、滑舌の練習ぅ。“あめんぼの歌”。行ってみよう!せーのー、はいっ!
あめんぼ、赤いな、あいうえお。」
「「「あめんぼ、赤いな、あいうえお。」」」
「浮きもに、小えびも、泳いでる。」
「「「浮きもに、小えびも、泳いでる。
・・・・・・・・・・・・。」」」
「よーし!それじゃぁ“外郎売”!いくよー!せーのー、はいっ!」
「「「こごめのなま噛、小米のなまがみ、こん小米のこなまかみ」」」
「「「古栗の木のふる切口、雨がっぱがばん合羽か」」」
「「「京のなま鱈、奈良なま学鰹、ちよと四五〆目」」」
「「「武具馬ぐぶぐばく三ぶくばぐ、合せて武具馬具六ぶぐばぐ」」」
「「「菊栗きくくり三きく栗、合てむきごみむむきごみ」」」
「はいっ!次!“鼻濁音”!いくよ!せーのー、はいっ!」
「「「か[ん]ぐ、ま[ん]ぐろ、おに[ん]ぎり、りん[ん]ご、か[ん]がみ、がっこう、け[ん]がわ、がっき。」」」
「「「私[ん]が大[ん]が生です。」」」
「「「ごき[ん]げんいか[ん]がですか。」」」
「「「か[ん]ごの中から、うさ[ん]ぎと、ね[ん]ぎと、や[ん]ぎ[ん]がでてきた。」」」
「「「午[ん]ご4時から、午[ん]ご5時55分。」」」
「よしっ!休憩!・・・ふう・・・。」
うん!目が覚めたぞ。頭もすっきりだ。発声練習をしたお陰で“よーし!コンテストだ!”って気になってきたぞ。
「ドルフィンちゃん、そろそろ会場に行かないと。9時から開会行事だよ。」
紙織ちゃんがスマホの時計を見ながらせっついてきた。
「まだ、大丈夫じゃないの?」
響子ちゃんは慌てた様子は無い。しかし、ここオリンピック記念青少年総合センター、通称オリセンはやたらと広い。建物の構造も複雑だ。迷ってしまうと確かにヤバい気がする。
「迷うかもしれないし、早めに行こう。遅刻は駄目だよぉ。」
響子ちゃんもちょっと小首を傾げたが、すぐに納得してくれた。
よし、行くぞ!
☆
Nコン全国大会の初日は準々決勝だ。参加者・参加校は、アナウンスと朗読がそれぞれ二百八十二名、ドキュメントがラジオとテレビがそれぞれ百八十八本、創作ドラマがラジオとテレビがそれぞれ九十四本と言うトンでもない数になる。
そこで、アナウンスと朗読は、まず午前と午後の二つのグループに分け、さらにそれぞれを三つのグループに分けて実施される。ドキュメントは、ラジオとテレビをそれぞれ4グループに、創作ドラマは、ラジオとテレビをそれぞれ2グループに分けて発表される。それでも夕方まで掛かるのだから、やはり規模がデカい!
さて、準々決勝では同じ都道府県の者が同じグループにならないようにエントリーされる。だから、残念ながら神倉先輩や真帆ちゃんの発表を準々決勝で聞くことはできない。何としても準決勝に進まねば。
昨日の受付の結果、私はC会場501号室だ。神倉先輩はA会場101号室、真帆ちゃんはB会場102号室だ。
午前は9時からアナウンスと朗読の合同開会式が行われ、その後朗読部門が行われる。アナウンス部門は朗読部門の終了後に行われる。なお、アナウンスも朗読もさらに十人ずつ五つのグループに分けられている。それぞれのグループは集合点呼時間がずらされていて、その時間まではリハーサル室での練習が認められている。因みに、真帆ちゃんは第2グループ、神倉先輩は第5グループ、私は第4グループだ。
「リハーサル室のあるカルチャー棟に行くわよ。」
そう言うと神倉先輩は歩き始めた。私と真帆ちゃんは慌ててその後を追った。
☆
カルチャー棟は大勢の高校生で賑わっていた。
「凄い人ですねぇ。皆、何してんだろ?」
「ねぇねぇ、ドルフィンちゃん、皆、何か書いてるよ。」
なるほど、並べられた長机の前で皆何かを書いている。その側にはパネルが六枚立てられていた。
「なんだろう?」
パネルに近付いてみると、右側から順に“北海道・東北”“関東”“中部・東海”“近畿”“中国・四国”“九州・沖縄”のディフォルメされた地図が貼られていた。各都道府県の場所にはポストイットが貼られている。何だ?
「えーと・・・あぁ、なるほど!寄せ書きコーナーなんだぁ!」
去年に引き続いて出場を果たした人が顔見知りの他県の出場者に当てて互いの健闘を祈念したもの、御国自慢を書いたもの、全国大会での意気込みを表明したもの・・・いろんなメッセージが貼られていた。
「ねぇねぇ、ドルフィンちゃん、私達も書こう!」
反射的に私は神倉先輩の方を見た。先輩は私の視線に気付くと、ニコッと笑ってくれた。どうやら書いても良いみたいだ。
「うん!書こう!すみません、ポストイットを戴いていいですか?」
長机の向こう側に係の人が座っていたので、私は声を掛けた。
「はい、どうぞ。ここにあるペンやマジックは自由にお使いください。“めで.co”のスタンプも二種類あります。此方も自由にお使いいただけます。」
“めで.co”とは、Nコンの公式マスコットキャラクターのことだ。ウサギの耳のような長いアンテナとヘッドホンを頭につけ、悪魔のようなスペード型のしっぽを生やしたキモ可愛いキャラだ。
真帆ちゃんと並んでポストイットにメッセージを書き込んだ。
「(えーと・・・親友たちと参加できて・・・夢みたい・・・です、っと。あと、先輩と・・・一緒に参加できて・・・本当に・・・よかった、っと。)」
早速、書いたポストイットを我が県の所に貼った。しかし、我ながら深みが無いなぁ。もっと気の利いたことが書けたらいいんだけど・・・真帆ちゃんは何て書いたんだろう?
「真帆ちゃんは、何て書いたの?」
突然の問い掛けに、思いっきりビビる真帆ちゃん。いや、そんなに驚かんでもいいやん・・・。
「あはは・・・じっくり見られると恥ずかしいなぁ。」
どれどれ、えーと・・・“親友と一緒に参加できて幸せです”・・・って、私と同じやん!
「真帆ちゃん、私と同じこと書いてる。」
「えっ!?そうなの?」
驚いた様子で、顔を赤らめながら真帆ちゃんは私のポストイットを覗き込んだ。
「あ、ほんとだ。・・・この“親友たち”の中には私も入ってるんだよね?」
「当たり前でしょ。真帆ちゃんは私の大事なお友達だよ!」
「うふふ・・・なんか、嬉しいなぁ。」
うん、真帆ちゃん、もの凄く嬉しそうだ。でも、私も嬉しい。放送部に入って親友が沢山できた。全国大会にも来られた。部活動をやって、本当に良かった・・・。
「そろそろ声出しをしない?」
神倉先輩に声を掛けられて我に返った。先輩は先にリハーサル室に入って行った。
「はいっ!真帆ちゃん、行こう!」
「うん!」




