鯨山君達が助っ人に来てくれた。これで後顧の憂いは無くなった。よーし!昼からはいよいよ決勝戦だぁ!
「ドルフィンちゃん、来たよ。」
アナウンス部門の予選が終わって、大会議室を出てエントランスに出たところで、鯨山君達メカ班が待っていた。
「やっほー、ご苦労様。今日は来てくれて助かったよ。」
「どうってこと無いよ。会場に居ればいいんだろ?」
「うん。特にしゃべることなんか無いはずだし。私達の代わりに会場に居てさえしてくれればいいよ。この後、大会議室で一時開始って聞いてるから。」
「判った。」
「お昼は食べた?」
「うむ。マクドで済ませて来た。」
「では、お願いします。」
「おう!」
鯨山君との遣り取りを聞いていた真帆ちゃんが、怪訝な顔で聞いてきた。
「ドルフィンちゃん達制作スタッフに空いている人はいないの?」
「うん。皆、アナウンスか朗読を兼ねているんだ。」
「へー、凄いねぇ。高倉高校ですら全員兼ねてるってことはないよー。」
「真帆ちゃんとこは部員数が多いから。うちはカツカツなんだよ。」
「そっかー。」
その後、お昼を随分と回った頃にようやく朗読部門の予選が終わった。まぁ、人数がアナウンスよりも二十人近く多いもんなぁ・・・。
大ホールからぞろぞろと朗読部門参加者が出て来た。大ホールは飲食禁止だから、皆お弁当を使うため別の部屋に移動するのだ。
「あっ!ドルフィンちゃん!どうだった?」
ホールから出て来た紙織ちゃんが、私の顔を見るなり大きな声で聞いて来た。うーむ、何だか既視感を感じるぞ。去年も同じことを聞かれたような・・・。
「うん・・・神倉先輩の発表が凄かった・・・。」
「いきなりそれ?自分はどうだったの?」
「うーん・・・自信はあるけど・・・先輩の発表を聴くと自分の未熟さってもんが痛いほど判って、辛い・・・。」
「そ、そんなに?ドルフィンちゃんも高校生の中では頭一つ分抜けていると思うんだけどなぁ。後の決勝で先輩の発表を聴くのが楽しみになってきた。」
私達がそんな会話をしていると、響子ちゃんがひょっこりと私達の間に顔を突っ込んで来た。
「取り合えず、お弁当を食べようよぉ。お腹空いたぁ!」
思わず、お腹を抱えて笑ってしまった。さっきの紙織ちゃんといい、響子ちゃんといい、既視感だらけだ。
「あはははは・・・響子ちゃんも、去年と全く同じ台詞を言ってるよー。」
「えっ?そうだっけ?」
「そうそう。・・・あっ、そうだ!鯨山君達、ちゃんと来てくれたよ。さっき会った。」
「おっ!?来てくれたんだぁ。これで心置きなく決勝に出れるな!」
さっきから一年生達が目を白黒させている。そりゃそうか。結果発表も未だなのに、私達は決勝に出ることを当然だと考えているんだもんね。
「取り敢えず、腹が減っては戦はできぬ、だ。研修室に移動してお弁当を食べよう。」
「うむ!」
「そうしましょう。」
「真帆ちゃんはどうするの?高倉の子達と一緒に食べる?」
「うーん・・・私はドルフィンちゃんと食べたいから・・・ちょっと皆に断ってくる。」
「うん。じゃぁ先に研修室に行ってるね。」
「うん!」
☆
一仕事終えた後のお弁当はやはり美味い!夢中でご飯を頬張っていると、館内放送が流れてきた。
『Nコン参加者に連絡します。番組部門の発表は大会議室にてこの後13時から開始します。番組部門にエントリーしている学校の関係者は大会議室に集まってください。アナウンス部門、朗読部門は14時20分から決勝を行います。14時になりましたら、決勝進出者の発表を行いますので、参加者は全員大ホールに集まってください。繰り返します・・・。』
うーん。一時間も空くんだったら番組部門の方にも出れたかなぁ・・・。まぁ、鯨山君達に任したことだし、気にしないようにしよう。今はアナウンスに集中だ。
13時55分、私達は大ホールに移動した。少しして、審査員の先生方が登壇され、それまでざわついていたホール内が即座にシーンとなった。さぁて、いよいよ、決勝進出者の発表だ。全員が固唾を飲んでいるのが判る。
『お待たせしました。只今より、アナウンス部門、並びに朗読部門の決勝進出者の発表を行います。決勝進出者は、両部門とも九名です。では、発表します。まずはアナウンス部門です。』
『決勝進出者は、四番、御船高校、鷲頭浅茅さん、九番、猪垣高校、高森香菜さん、十二番、東和高校、神志山心愛さん、十八番、丹鶴高校、池田阿須賀さん、二十四番、東和高校、栗須入鹿さん、二十九番、高倉高校、渋川真帆さん、三十四番、東和高校、神倉千穂さん、四十五番、越路高校、西向亜衣さん、五十七番、猪垣高校、市野咲花さん。以上の九名です。』
『続いて、朗読部門です。決勝進出者は、二番、高倉高校、浜野宮優華さん、七番、東和高校、三輪崎響子さん、十四番、丹鶴高校、鏡野月渚さん、二十八番、御船高校、二河玲佳さん、五十八番、東和高校、鵜殿紙織さん、六十六番、高倉高校、荒船絢さん、七十五番、越路高校、浦神耕太郎さん、七十六番、猪垣高校、橋杭海愛さん、八十番、丹鶴高校、珊瑚美那さん、以上の皆さんです。』
おおっとぉ!凄いぞ!神志山さんの名前も呼ばれたぞ!他の三人は残念ながら決勝には進めなかったけど、決勝進出者は去年の総文祭からの受賞組だから仕方ないな。皆安定した上手さだったもんね。
『それでは、今名前を呼ばれた方は、課題原稿を取りに舞台前に集まってください。』
「さぁ、栗須さん。行くわよ。」
壇上をキッと見つめながら神倉先輩が立ち上がった。おお!こんなに気合が入った先輩は初めて見たかも。
「はい!先輩!さぁ、神志山さんも行くよ!」
ぼーとしている神志山さんには私が声を掛けた。去年は私が先輩に声を掛けて貰って我に返ったんだっけ。
「えっ?え?わ、私ですか?」
「何寝ぼけているのよ。課題原稿を取りに来なさいって、今言われたでしょ?早く貰って目を通さないと、流石にぶっつけ本番じゃ、碌な発表にならないよ!」
ふふふ、去年先輩に言われたことを後輩に言う時が来ようとは。なんか嬉しい。
「さぁ、立って!」
私は神志山さんの手を掴んで、舞台前まで引き摺るように連れて行った。
「東和高校の神倉です。」
「東和高校の神倉さん・・・。はい、これが課題原稿です。」
「有り難うございます。」
神倉先輩が名乗ると、係の先生がチェックシートに印を付け、先輩にプリントを渡している。
「東和高校の栗須です。」
「東和の栗須さん・・・と。はい、これが課題原稿です。」
「有り難うございます。」
「と、と、東和の神志山です!」
「東和の神志山さん・・・。はい、これが課題原稿です。」
「あ、あ、あ、有り難うございます。」
うーん・・・神志山さん、思った以上にテンパってるなぁ・・・。
「神志山さん!」
「は、はい!」
「課題原稿を口に出して読み上げて!決勝本番までにできる限り繰り返すの!間を空けると思ったところには書き込みをするのよ!」
「は、はい!」
「はい!時間が無いから、すぐ始める!」
「はい!」
よし!私も練習しないと・・・。
三回ほど読み上げたところで、決勝開始の連絡がホール内に轟いた。
『只今より、アナウンス部門、朗読部門の決勝を行います。
出場者は、最前列の席にエントリー番号順に座り、待機してください。
決勝は、アナウンス部門、朗読部門の順に行います。大ホールでは舞台上に左右二つの発表席を設けています。まずは、二人同時に待機してください。その後、左右交代で発表を行っていきます。一人の発表が終わったら、発表者の降壇と同時に次の待機者は登壇してください。
アナウンス部門が終わってから朗読部門の発表者の登壇を合図します。合図があるまで朗読部門の人は登壇しないでください。
発表は、まず自原稿を読み、続けて課題原稿を読んでください。
なお、本日は決勝の審査員としてNHKのアナウンサー塩野道夫様、NHK番組プロデューサー柿葉壽司様にお越しいただいております。塩野様、柿葉様どうぞ宜しくお願いいたします。』
おおっ!昨年も審査員を務めてくれたアナウンサーさんと、プロデューサーさんではないか!二人は立ち上がって客席の方を振り返り、ぺこりと頭を下げて挨拶された。なんだか、懐かしさを感じるなぁ。もうあれから一年経ったんだぁ・・・。と、感心してる場合じゃないぞ。早く待機席に行かねば。
小走りで、前列に行くと、係の先生がエントリーナンバーを読み上げながら座る席を指示してくれていた。私は、五番目だ。隣は真帆ちゃんだからちょっと安心。真帆ちゃんもこっちを見てにこりと笑っている。
「全員揃いましたね。それでは、決勝を始めます。まずはアナウンス部門。四番、九番の人は登壇してください。」
さぁ、いよいよ決勝戦の開始だ。進出者は神志山さんを除いて全て私が予想していた人たちだった。この人達を凌駕できなければ、全国で上位に行くことなんてできない。オドオドせずに、堂々と発表しよう。去年の神倉先輩を見習うんだ!




