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こちら、県立東和高校放送局です!  作者: 田鶴瑞穂


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いよいよ書道パフォーマンスの試し撮りをするぞぉ!これでアングルやカットを検討するのだ!

 一年生達と共にクラブハウスを訪れると、すでに書道部の皆は準備を終えていた。

 書道パフォーマンスに使う紙の大きさは4m×6m。ホームルーム教室の大きさが6m×6mだから、教室では練習できない。クラブハウスの多目的室の大きさは12m×10m、天井高も5m近くあるから、丁度いい大きさだと言える。書道部員は、この会議室の床一面に新聞紙を二重に敷き、ガムテープで貼り合わせて床が汚れないようにしていた。

「実際に見てみると、大きいですねぇ。」

 響子ちゃんが壁に立てかけてある4m×6mの紙を見て感心している。私は書道部の部長、大曾根さんと撮影に関して打ち合わせをすることになっていた。なお、紙織ちゃんには打ち合わせの様子を撮影してもらうように頼んでおいた。

「宜しくお願いします。」

 そう挨拶すると、初めてしゃべる大曾根さんはやや緊張した面持ちで挨拶を返してくれた。

「いえ、こちらこそ、お世話になります。」

「さて、部長さん、撮影に先立って聞いておきたいのですが、パフォーマンスの練習は一日に何回されるのですか?」

「練習は毎日五、六回はやってますが・・・。」

「それは、実際に墨汁を使って、ですか?」

「あ、いえ、練習では、墨汁や紙が勿体ないので、墨汁を付けない状態の筆を使って動きの練習をしてます。各担当が自信を持ってやれるようになったら、墨汁を使っていきたいと考えてます。」

「うん?文字を書く練習は墨汁と半紙を使わなくてもできるんですか?」

「あ、はい。古新聞を半紙に見立てて、水を使って練習してます。」

「なるほど・・・ところで、今回のビデオ撮影ですが、きちんと墨汁と白い紙を使った通しのパフォーマンスを最低でも三回やって頂きたいんです。」

「えっ?一回じゃ駄目なんですか?」

「はい、理由を説明しますね。まず、一回目に通しのベタ撮りをします。

 二回目は、字を書いている人のアップを撮っていきます。

 三回目は、筆が文字を記しているところのアップを撮ります。

 私達も撮り直しをしないですむよう頑張りますので。」

「さ、撮影って大変なんですね。」

「すみません。カメラが沢山あったら良かったんですが、学校中のカメラを借りても三台が限度だったんです。ですから、複数回に分けて撮らざるを得ないんです。」

 実はカメラマンが二年生の三人しかいないから、と言うのは秘密だよぉ。

「一日で三回やらなきゃ駄目ですか?」

「そんなことはないです。一日一回、三日間に分けても大丈夫です。」

「判りました。何とか三回できるように紙を準備します。」

「???・・・お願いします。・・・えーと、質問、よろしいですか?」

「はい、なんでしょうか?」

「今、“準備する”っておっしゃいましたが、そもそも4m×6mなんて言う巨大な紙は売ってるんですか?」

「いいえ、4m×6mのサイズでは売ってません。半紙は最大のもので1550mm×50000mmが販売されてるので、これを切り張りして4m×6mの紙を作るんです。」

「えっ?!手作りなんですか?」

「そうなんですよ。これが結構大変で・・・それもあって、普段の練習は新聞紙をガムテープで繋ぎ合わせたものを使ってやってるんです。」

「そうなんですね・・・思った以上に大変なんだ・・・いえ、有り難うございます。いつからやれそうですか?」

「既に二週間練習を続けていますから、パフォーマンス自体はそろそろ、ですかね。今日、これから通しでやってみます。先ほど言いましたように、紙を準備するのに時間が掛かります。半紙を使うのは、明日でもいいですか?」

「はい。構いません。今日は、こちらもカメラの設置位置の確認と試し撮りをしてみますね。」

 私は一年生が運んでくれた脚立を部屋の角付近に立てて登り、カメラを構えてみた。2m近い高さだと何とか俯瞰アングルで全体を撮影できそうだった。もう一つの脚立は対角線上の角に置き、響子ちゃんに登って貰った。

「どう?全体が収まりそう?」

 響子ちゃんも私と同じようにカメラのモニターをしばらく覗いた後、OKのサインを出した。

「うん。大丈夫そうだ。」

「それじゃぁ、書道部の皆さん!持ち場についてみてください!」

「了解です!皆!開始時の位置について!」

 大曾根さんの号令一下、十一名の書道部員が配置についた。

「では、書道部の皆さん!通しで撮影したいので、例え失敗したとしても、そのままパフォーマンスを続けてください!私がキュー出しをします!“3、2、1、ハイ”と言いますので、“ハイ”の後開始してください!BGMもお願いします!」

 再び私と響子ちゃんは脚立の上に登ってカメラを構えた。書道部の皆さんは緊張の面持ちで待機している。

「では、いきまーーーす!3・・・2・・・1・・・ハイ!」

「県立ぅー東和高等学校ぉー書道部ぅー只今よりー演技を始めまーす。」

「礼っ!!」

 一礼した後、一旦全員が半膝をついてしゃがんだ。すかさずBGMが再生され、まず、両端に居た部員二人が立ち上がり、墨汁の入った容器を小脇に抱えながら、紙の縁に沿うように前進した。紙の上部に到達すると、互いに向き合う形で中央に向かって移動し、位置に着くと体全体でリズムを取りながら文字を書き始めた。

 しばし間をおいて新たに一人が立ち上がり、先の二人に続いて文字を書き始めた。その後、また一人、また一人と言う風に次々と立ち上がって文字をしたためていく。ある程度、紙が文字で埋まったところで、大曾根さんが箒かと思えるほどの大きな筆を持って紙の上に立ち、豪快に筆を振るい始めた。その間も皆は書き続けている。

 やがて、文字を書き終えた人から順番に元に位置に戻り、最初と同じように半膝をついて座っていく。最後にもう一度、大曾根さんが大きな筆を使って、大きく一文字を書き入れた。

 その後、二人一組で完成した書の表面に大きな巻紙を広げながら、その上を丁寧に踏んでいく。後で聞いたところ、これは完成した書を立てた時に垂れないように、余分な墨を吸い取らせるための作業だそうだ。

 最後に、皆で紙の四方と角を持ち、息を合わせてぐるりと回転し、両端に取り付けた棒とその先端部に付けた紐を上手に使って書を垂直に立ち上げた。そこには、豪快に描かれた“故郷”と言う字と、弾正山とその山麓の風景の美しさを詠んだ平安時代の和歌が二首、そして我が校の校名がしたためられていた。

「私達の故郷、そして麓に我が母校が立つ弾正山を詠んだ和歌をしたためました!」

「この二首の歌に詠まれている風景は、千年経った今でも変わりません!」

「私達は、これからも故郷ふるさとの美しい風景を守っていきたいと思います!」

 そう言い終わると全員で一礼し、パフォーマンスは終了した。

 パチパチパチパチ・・・。見学していた放送部の一年生達が思わず拍手している。カメラを持っているので、私と響子ちゃんは拍手できなかったけど、気持ちは同じだった。素直に素晴らしいと思った。

 書道部の皆さんは、始める前は随分と緊張しているみたいで、動きがぎこちなかったけど、いざ字を書き始めると、驚くほどスムーズに動いていた。これは練習をひたすら繰り返してきた証拠だ。練習を積み重ねていくと、体が自動的に動くようになる。私達が原稿を繰り返し読み込むのと同じだ。その努力に敬意を表さねば。

「お疲れ様です。素晴らしかったです!」

 私は大曾根さんに声を掛けた。

「有り難うございます!褒めていただけると嬉しいです!」

「ビデオの方も上手く撮れました。これからビデオを見直して、画面の大きさや角度、アップを撮る箇所の検討をしてきます。明日も同じ時刻で良いですか?」

「はい!お願いします。こちらも最低でも明日の分の紙は準備しておきます。」

「有り難うございます。・・・あっ!明日は本番です。大会に提出するものを撮りますので、服装も本番用のものを着用してください。それから、明日も使うので、脚立は置いといてください。それでは、今日は失礼します。」

「はい!判りました!失礼します!」

 私達は手を振りながら多目的室を退出した。

 その後、物理室に戻った私達は、見やすいようにパソコンに動画を移して、明日の撮影に備えた検討会を始めた。

「全体を撮るにしても、もう少しアングルは寄った方がいいかなぁ?」

 私の質問に対して、しばらく考えた後に響子ちゃんが答えてくれた。

「全員が入っていればいいんじゃない?・・・うーん、それよりも真正面から撮るのと斜め方向から撮るのと、どっちがいいんだろう?」

 うーん、と私達は考え込んでしまった。今日は真正面からは撮らなかったから比べようがない。しまったなぁ・・・。その時、紙織ちゃんがいい提案をしてくれた。

「明日は、真正面と斜め方向、両方に脚立を設置して撮ってみようよ。予め決めなくても、撮影後に見比べて、どっちを使うか決めればいいんじゃない?」

 うん、そうだ。見てみないと判らないことをあれやこれや考えても仕方が無い。紙織ちゃんの言う通り、実際にやってみて比較すればいいんだ!

「その通りだね。実際に撮ってみて比べてみようか。」

 と、その時、ふっと部長さんから聞いたことを思い出した。

「今日、大曾根さんから聞いて、半紙の準備が大変だと判ったから、そう何度も実演はしてもらえないよね。一回の撮影で、できるだけ沢山のアングルの動画を撮っておかなくっちゃ。」

 響子ちゃんも紙織ちゃんも、うんうんと頷いた。

「ただ、明日は手元を撮る接写なんかは駄目だね。ベタ撮りに私達が映っちゃう。」

 おおっ!紙織ちゃんはよく考えているな!確かにその通りだ!

「じゃぁ、明日は真正面からの鳥瞰アングル、正面斜めからの鳥瞰アングルは決まりだとして、あと一台はどう撮る?」

「真横からのアングルで、やや大写し気味に撮るのはどう?位置的にベタ撮りには映り込まないと思うけど?」

 うん。悪くない。

「一応、本番前にカメラチェックをしてみて、問題なければ真横からの大写しアングルも撮影するってことで、OK?」

「「異議なーし!」」

 ガンガン検討を進めていく私達を一年生たちは興味深げに見ていた。その様子に気付いた私は、検討に参加できない一年生が疎外感を持つんじゃぁ、って心配になった。

「一年生は私達の撮り方をよく見て勉強してね。撮影の経験もさせたげたいんだけど、聞いての通り今回は撮り直しが利かないから、我慢してね。」

 済まなさそうに私がそう言うと、一年生達は目を丸くして驚いた。

「い、いえ、当然です。先輩、そんなに気を遣わないでください。」

「そうです。そのうち教えてくだされば結構ですから。」

 うん。いい子達だ。うちは新入部員に恵まれたなぁ・・・。

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