同窓会入会式!記念品贈呈式!とどめは予餞会だぁ!は、は、は・・・卒業式の前日って、こんなにイベントがあるんだぁ。
『只今より、同窓会入会式を行います。』
同窓会入会式が始まった。台本を見る限り、そう長い時間が掛かる式典ではなさそうだ。
「20分・・・て、とこかな?」
つい、独り言が声に出てしまった。
「うん?・・・ああ、この入会式だね。台本からして、そんなもんだろうな。」
鯨山君が、私の独り言に反応してくれた。
「卒業式に関連する行事っていっぱいあるんだね。驚いたよ。」
「まぁ、高校生にとって最後で、同時に一番大きな行事だもんな。」
『同窓会長挨拶。同窓会長、藤原様、よろしくお願いします。』
一人のおじいちゃんが登壇し、挨拶文を読み始めた。
「50年前の生徒会長らしいぜ。」
「えっ?」
突然、鯨山君がぼそっと言ったので、一瞬何のことか判らなくて、変なリアクションをとってしまった。
「あのおじいちゃんだよ。現役高校生の時、生徒会長を務めていたらしいよ。」
「ほえー、そうなんだ。大先輩なんだねぇ・・・。」
おじいちゃんの挨拶では、東和の輝かしい歴史について、新しい会員を歓迎することなどが語られていた。
『学年幹事、紹介。幹事に選ばれた人は、1組から順に舞台前に整列してください。』
各クラスから2名ずつ、計16人の先輩方が前に並び、1組から順に紹介されていく。
『なお、幹事長には8組の百済君、副幹事長には4組の葛城君が就任してくれます。・・・幹事代表、挨拶。』
何時の間にか、鰹島君が中央にマイクをセッティングしている。うーん、慣れたもんだなぁ。幹事長に就任した百済先輩が挨拶を述べている。挨拶が終わると、鰹島君が再びしずしずと中央まで歩いていき、マイクをスタンドごと音も無くフロアの袖にはけて行った。没存在感、お見事です。
『では、幹事の皆さんは自分の席に戻ってください。・・・閉式の辞。』
『以上を持ちまして、同窓会入会式を閉じます。』
『一同、起立、礼・・・着席。』
時計を見ると、17分が経過していた。やっぱりそれくらいだよねぇ。
『続いて、記念品贈呈式を行います。・・・一同、起立、礼、着席。』
うーん、今日だけで一体何回起立、礼をするんだろう・・・式典て大変だなぁ・・・。ところで・・・。
「記念品って、卒業記念品だよね?・・・なんでこんなに長い台本がいるんだろう?」
「よく読んでみなよ。卒業記念品って3種類あるんだ。だから、長くなるんだろう。」
「えっ?」
自分の出番がある訳じゃないから、台本をしっかり読み込んでいなかった・・・ああ!ほんとだ!
「えーと、卒業生から学校へ。これが一つ目。それから、在校生から卒業生へ。これが二つ目。それで、育友会から卒業生へ。これで三つ・・・か。へー、こんなに種類があったんだぁ。舞台の緞帳や袖幕に“〇〇年度卒業記念”とか、よく目にするから卒業記念品ってああ言うのだけだと思っていたよ。」
「卒業生から学校に贈る記念品は毎年違うけど、在校生から卒業生に贈る記念品は印鑑、育友会から卒業生に贈る記念品は卒業証書ホルダーで、だいたい毎年一緒みたいだよ。」
「へー、鯨山君、よく知ってるねぇ。」
「いや、台本に書いてあったから、疑問に思って昨日先生に聞いてみたんだよ。そしたら、そう教えてくれたって訳さ。」
「なるほど・・・台本はちゃんと読んどけってことかぁ。」
そんな会話をしている内に、舞台上では上手に贈る側が、下手に受け取る側が立って、熨斗を巻いた箱を渡している。
「あれって、中に記念品が入ってるのかなぁ?」
「入ってる訳ないじゃん。これはセレモニーなんだから、本物である必要は無いんだぜ。」
何となく思っていることを口に出すと、鯨山君が速攻で突っ込みを入れて来た。
「そもそも印鑑一本だと、小さ過ぎて受け渡しに花がないじゃん。」
言われて見ればその通りだ。
そうこうしている内に記念品贈呈式も終わった。次は予餞会だ。
「じゃぁ、行ってくるね。」
「おっ、司会宜しく!」
予餞会は式典じゃ無いから、MC(司会)は放送部が担当することになっている。今年は私が受け持つことになった。
放送室から出て、フロアの司会席に移動する。
『3年生の皆さん、お待たせしました。只今より予餞会を始めます。』
私がしゃべり始めると、鯨山君ら男子三人が暗転した舞台に出て来て演壇を片付ける。その間に響子ちゃんがスクリーンを降ろし、紙織ちゃんが液晶プロジェクターを載せた台をゴロゴロとマーキングした位置まで移動させる。みんな流れるような動きで無駄が無い。流石だ。
『まずは、3年担当の先生方が作られた思い出のスライドショーです。スクリーンに注目してください。』
演壇を片付けた後、小走りで放送室に戻った王子浜君が、マウスをクリックしてスライドショーを立ち上げた。このスライドショーは、先生方が集めた数百枚の静止画を使った大作だ。入学式から始まって、今日の卒業式の予行まで入っている。数百枚と言う枚数だから結構長かった。でも、先輩方は凄く喜んでいるから、これで良いんだろうなぁ。
『先輩方、思い出のスライドショーは如何でしたか?続いては、先生方からのメッセージをお送りします。再びスクリーンに注目してください。』
今度は、3年生へのメッセージを書いたスケッチブックを持った先生方が順々に映し出されていく。六十人近い先生を一人一人メッセージが読めるだけの秒数映すもんだから、これもかなり時間がかかるスライドショーだった。全く関係の無い人が見たら恐ろしく退屈なムービーなんだろうけど、先輩方はみんなそんな様子は無く、凄く嬉しそうだった。それにしても、先生方は凄いなぁ・・・メッセージの内容が一人として被っていない。打ち合わせなんかせずに、みんなその場で書いたらしいんだけどなぁ・・・。
『先生方のメッセージでした。・・・』
私がしゃべり始めると、三年担当の先生方がぞろぞろと舞台に上がっていった。鯨山君と鰹島君が立ちマイクを先生方の前に置いていく。
『続いて、三年の先生方による合唱です。それでは、どうぞ!』
ピアノの心得のある先生が伴奏を弾き、残りの先生方が合唱する。まずは、“3月9日”。古い曲なんだけど、私でも知ってる有名な曲だ。続いて、“旅立ちの日に”。これはさらに古い曲なんだけど、教科書にも載っている有名な曲だ。どちらの曲も長い間歌い継がれて来ただけのことはある超名曲だ。聞いている内に、卒業しない私でも涙が滲んできた。ましてや明日卒業を迎える先輩達は、多くの人が泣いていた。あぁ、こう言った経験をするから、いつまでも卒業式は人の心の中に遺っていくんだろうなぁ。
合唱が終わると、鰹島君が学年主任の先生にワイヤレスマイクを手渡した。
『最後に、学年主任の高梁先生から3年生の皆さんへのメッセージです。高梁先生、お願いいたします。』
高梁先生が舞台の中央に立った。
『3年生の諸君、卒業おめでとう。3年間、君たちを見守って来たが、とうとう明日でそれも最後になる。卒業後は、これまでの小、中、高とは大きく環境が変わることだろう。これまでに遭ったことも無い問題にぶつかることもあると思う。しかし、諸君らの持つ前向きさは、そんな困難を乗り越え、解決していけると、私は信じている。高校生活で培った経験、出会った仲間を大切にして、どうか素敵な人生を歩んでいって欲しい。私からは以上だ。』
誰からとも無く拍手が起きた。そんな中、突然宇久井先輩が立ち上がった。そして、張りのある大きな声で叫んだ。
「先生!先生のお言葉を胸に、明日、私達は旅立とうと思います。3年間、私達を見守ってくださり、有り難うございましたぁ!」
それに合わせるかのように、先輩方の中から“有り難うございました”の声が次々と沸き上がった。高梁先生はと見ると、涙ぐんでいるようだった。
その後、3年生は退場し、私達放送部員は予餞会の後片付けと明日の卒業式のためのセッティングに入った。
「いい予餞会だったね。」
誰に言うでも無く、私は独り言のつもりでそう言った。
「うん。2年後、私達もああ言う風に感動したいね。」
響子ちゃんが賛同するように返事をしてくれた。
「あぁ、そうか・・・もうあと2年しかないんだ・・・。」
紙織ちゃんがぽつりと言った。
「いやいや、あと2年もある、でしょ?まだ私達は高校生活を1年しか経験していないんだよ。今年は全総文もあるし、その前にNコンもある。秋には修学旅行にいくんだよぉ。この1年間で経験していないことがいっぱい待ってるんだから!あぁ、楽しみだなぁ!」
そんな私に対して、鯨山君が冷や水を浴びせるように言った。
「楽しいことばかりじゃないぞ。そろそろ進路を考えないと。3年になってからじゃぁ手遅れだからな!」
「うっ!・・・急に現実が攻めて来たぁ・・・。うん。判ってますよ。進路のことも考えないとね・・・。とほほ・・・。」
ともかく、まずは明日の卒業式の運営、頑張ろう!




