じゃぁ、先輩!次は”鼻濁音”を教えてください!
「鼻濁音は、無声化と同様に西日本の人は使わない傾向が強いわ。東日本では、鼻濁音や無声化を自然とできている人が多かったのだけども、それは標準語のルールも発音も、東京の方言がベースになってることが原因ね。東日本とはアクセントもイントネーションも大きく異なる西日本が使わないのも無理ないかもしれないわ。そもそも西日本では学校で標準語を話すことを強制しないわよね。だから、学校で発音を習うこともないの。だから、余計に使えないのでしょうね。もっとも、東京でも鼻濁音を使わなくても日常会話には支障がないから、最近はどんどん廃れていってるらしいけどね。」
へーぇ、そうなんだ・・・だから、私は鼻濁音を知らなかったのかぁ・・・。それにしても、先輩は物知りだなぁ・・・私ももっと勉強しなきゃ。
「“がぎぐげご”の発声の仕方には二つあるの。知ってる?」
「えっ!・・・えーと、知りません。」
「うん、当然よね。鼻濁音を知らなかったんだから。実は、“がぎぐげご”は、濁音としての“がぎぐげご”と、鼻濁音としての“がぎぐげご”があるの。濁音については説明はいらないわよね。私たちが普段使っているんだから。鼻濁音は、が行の前に小さな“ん”が聞こえるような音なの。実際にやってみるわね。まずは、濁音の方。が・ぎ・ぐ・げ・ご。」
うんっ。普通だ。普段私たちが発音している“がぎぐげご”だ。
「次は鼻濁音。“[ん]が”、“[ん]ぎ”、“[ん]ぐ”、“[ん]げ”、“[ん]ご”。」
えっ?!全然違う・・・。
「鼻濁音の発音は、“がぎぐげご”の音の前に、凄く短く“ん”を入れるようにイメージするといいわよ。さらに、“ん”の後の“が”、“ぎ”、“ぐ”、“げ”、“ご”は、全て鼻にかけるようにして発音するの。もう一度やってみるわね。“[ん]が”、“[ん]ぎ”、“[ん]ぐ”、“[ん]げ”、“[ん]ご”。さぁ、ドルフィンちゃんもやってみて。」
えっ!?・・・で、できるかなぁ・・・。
「最初から上手にできる訳ないのだから、気にせずにやってごらんなさい。」
「あっ、はいっ・・・“が”、“ぎ”、“ぐ”、“げ”、“ご”。」
「うーん・・・やっぱり濁音のままね・・・。じゃぁ、鼻濁音を出すコツを教えるわね。まず、“ンー”と長く音を出してみて。音楽で習った“ハミング”の要領で。」
「はいっ!・・・ンーーーー。」
「そうそう。ハミングをしている時、鼻が振動しているのを感じた?」
「えっ?・・・えーと、“ンーーー”。・・・あっ!振動してます!」
「そう、振動を感じたら、鼻にかかったまま“が”って発音してみて。」
「はいっ!“ンーーーーが”。」
「そうそう!鼻にかかった“が”は、濁音の“が”と比べると柔らかい音が出たでしょ?徐々にハミングと“が”の間隔を短くしていきなさい。最終的に、ほぼ同時に“ん”と“が”が出たらOK、鼻濁音の完成よ。」
「“ンーーーが”・・・“ンーーが”・・・“ンーが”・・・“ンが”・・・“[ん]が”・・・あっ!できました!」
「うんっ!いい感じね。鼻濁音を意識していても、最初のうちはどうしても濁音になってしまうことがよくあるから、できるようになるまでは、練習を続けなさい。段々とできるようになってくるから。」
「判りました。」
「じゃぁ、次はどの単語が鼻濁音になるのか、鼻濁音の基本的なルールを教えるわね。鼻濁音にはルールが沢山あるの。もちろん全部を把握するに越したことはないけど、いきなり全部は無理だから、まずは基本的なところを押さえていきましょうね。まず、一つ目。“語頭は鼻濁音にならない”。“銀行”とか“学校”みたいに、言葉に頭に“が行”が来てる場合は鼻濁音にはならないの。試しに、“学校”を鼻濁音で発声してみるわね。・・・“[ん]がっこう”・・・。どう?」
「なんだか変です。」
「でしょ?だから単語の頭についている“が行”は鼻濁音化しないの。他にも、“群衆”、“芸術”、“牛乳”、“行列”なんかも鼻濁音化しないわね。よく覚えておいて。」
「はいっ!」
「では、二つ目。“格助詞と接続助詞は必ず鼻濁音になる”。“格助詞”と言うのは、助詞の一種で、名詞などの体言のうしろについて、その体言が文中の他の言葉・・・えーと、述語ね・・・名詞と述語との意味関係を表すものよ。“が・を・に・へ・と・から・より・で・まで”の9つがあるわね。“接続助詞”は、活用する語に接続して、前後をつなぐ働きをする助詞よ。“ば・と・から・で・が・ても・けれど・のに・ながら・し・たり”なんかが代表ね。 これらのうち、格助詞なら・・・えーと、例えば“私が神倉千穂です。”と言う文章の“私”の後ろについている“が”が鼻濁音になるわ。接続助詞なら、例えば・・・“栗栖さんにお伝えしていましたが、ご存じありませんか?”と言う文と文とを繋いでいる“が”が鼻濁音になるの。」
「鼻濁音は“がぎぐげご”だから、全部の格助詞や接続助詞じゃなくて、“が”だけが鼻濁音になると考えればいいんでしょうか?」
「そう。その解釈で正解よ。では、次。三つ目。“複合語の場合は複雑だから注意”。えーと・・・ね、例えば、“高等学校”、“中学校”、“小学校”・・・全部“学校”という言葉が入っているわよね?でも、高等学校の“学校”の“が”は濁音になるのに対して、“中学校”、“小学校”の“が”は鼻濁音になるの。どうしてかって言うと、“高等学校”は、“高等”と“学校”がそれぞれ独立した言葉とみなしているから、“語頭は鼻濁音にならない”と言うルールに従って、学校の“が”が濁音になるのよ。それに対して、“中学校”と“小学校”は、“中”と“学校”、“小”と“学校”の結びつきが強いから、“中学校”、“小学校”でそれぞれ一つの語とみなされるため、鼻濁音化するのよ。複合語の場合は、鼻濁音化する、しないが複雑なので、個別に覚える必要があるわね。」
「よく使われる言葉で、これは鼻濁音化する、これはしない、って言う例は、どんなものがあるんですか?」
「そうね・・・。今あげた学校の例は有名だけど、他は・・・高等学校と同じように、濁音で発音するものとしては、例えば、“前外相”、“西洋画家”、“日本銀行”なんかがあるわね。」
「どれも意味が独立している言葉がつながっているものですね。」
「そうね。・・・あっ、そうだ、言い忘れてた。複合語でも元の音が“カ行”だったものが濁音になった言葉は、すべて鼻濁音になるのよ。例えば、“会社”が複合語になった時、“株式会社”とか、“大会社”とか、“かいしゃ”の“か”が、“が”に変わるでしょ。この時“がいしゃ”の“が”は鼻濁音化するのよ。他の例として、えーと、例えば・・・そうそう、“氷”が複合語になった“かき氷”とか、“貝”が複合語になった“二枚貝”とか、“雲”が複合語になった“入道雲”とか、こう言ったものはみんな鼻濁音化するのよ。」
「あ、そうか、確かに、言葉がくっつくと“か行”が、“が行”に変化しますよね。」
「基準としては、一つの言葉として一般的に使うかどうかで決まってくるらしいけど、実はその基準も曖昧だし、時代によっても変わる可能性もあるから、その都度確かめるしかないわね。まぁ、読みの練習をする時に、新しい言葉に出会うたびに辞書で調べて確かめるしかないわ。私でも覚えきれていないもの。」
「先輩でも覚えきれていないなら、どうしようもないですね。地道に辞書をひくことにします。」
「ええ、そうしてちょうだい。・・・それじゃぁ、最後よ。外来語や擬声語、擬態語、数詞の五なんかは鼻濁音にならないわ。通常カタカナで表記する言葉は濁音のまま発音するの。ただし、外来語でも例外として“ング”という音が入っていると鼻濁音になるわ。例えば、“ボーリング”、“キング”、“タンゴ”、“リング”などね。あと、数詞の五の発音は基本的に濁音なんだけど、数としての本来の意義が薄れているものは鼻濁音になるの。例えば、“十五日”とか、“十五夜”、“七五三”、“七五調”などね。」
「ふえぇ・・・鼻濁音のルールって複雑ですね。」
「そうよね・・・とにかく経験を積んでいくしかないのよ。頑張ってね。」
「・・・はい。」
なんか、自信なくなったなぁ・・・私にできるかなぁ・・・。
「じゃぁ、鼻濁音のトレーニングをしてみましょうか。ゆっくりでいいから、大きな声で発声してみて。家具、まぐろ、おにぎり、りんご、鏡、がっこう、けがわ、がっき。はいっ!」
「か[ん]ぐ、ま[ん]ぐろ、おに[ん]ぎり、りん[ん]ご、か[ん]がみ、がっこう、け[ん]がわ、がっき。」
「私が大学生です。」
「私[ん]が大[ん]がく生です。」
「ごきげんいかがですか。」
「ごき[ん]げんいか[ん]がですか。」
「かごの中から、うさぎと、ねぎと、やぎがでてきた。」
「か[ん]ごの中から、うさ[ん]ぎと、ね[ん]ぎと、や[ん]ぎ[ん]がでてきた。」
「午後4時から、午後5時55分。」
「午[ん]ご4時から、午[ん]ご5時55分。」
「凄いわ!ちゃんとできてるじゃない。その調子で毎日練習しなさい。ドルフィンちゃんならできるようになるわ。」
「へへへ、そうでしょうか?」
「うん、保証するわ。じゃぁ、練習用に鼻濁音の言葉を教えておくわね。黒板に書くから、メモしてね。」
あぁ、メモしなきゃ。・・・えーと、“[ん]が”の例は、因果、沿岸、新顔、考え、案外、見学、金額、恩返し、山岳、損害・・・か。
“[ん]ぎ”の例は、難儀、演技、仁義、賃金、行脚、産業、巡業・・・か。
えーと、“[ん]ぐ”の例は、天狗、文具、玩具、神、番組・・・。
“[ん]げ”の例は、蓮華、演芸、歓迎、人間、電源、今月、震源地・・・。
“[ん]ご”の例は、看護、言語、林檎、伝言、信号、天国・・・。
次は、ナ行+鼻濁音・・・か。
“な”は、長ぐつ、なぎなた、なぐる、投げる、名古屋・・・か。
“に”は、苦虫、荷車、逃げる、濁り酒・・・。
“ぬ”は、脱ぎ捨てる、拭う、脱げる・・・。
“ね”は、願い、寝苦しい・・・。
“の”は、逃れる、野狐・・・。
最後がマ行+鼻濁音。
“ま”が、間貸し、間口、真心。
“み”が、身勝手、右側、 身ぐるみ、見事。
“む”が、無学、麦畑、無限大、無言。
“め”が、目頭、目薬。
“も”が、もがく、もぎる、モグラ・・・か。
「・・・以上よ。毎日の練習メニューに加えなさい。ちなみに、鼻濁音は早口ではなかなか美しい音は出ないから、慣れないうちは、鼻濁音を含むその文章全体をゆっくりと発声するようにしなさい。」
「判りました。」
うん!なんか、できるような気がしてきた。頑張るぞぅ!




