さぁ、市民文化祭開幕だぁ!・・・うひぃ!お客さんがいっぱい来たよぉ。頑張らねば!
開場とともに、早速お客さん達がやってきた。
「あのう・・・サシェの体験はこちらでしょうか?」
「はいっ!いらっしゃいませ!本日は、文化祭のワークショップなので、お一人様500円で体験できますよ!」
「子供も同じ値段でしょうか?」
「はいっ!同じです。ほぼ材料費なので、大人と子供の区別はありません。」
「わかりました。3人お願いします。」
「はいっ、判りました。こちらへどうぞ。」
うん、こう言うお店みたいな活動も面白いなぁ。
「皆、お鍋やボウルは熱いから、火傷しないように気をつけてね!」
「そうそう、冷めて固まらないうちに手早くかき混ぜてください。」
響子ちゃんも紙織ちゃんも張り切ってるようだし、私も負けてらんないっ!
「・・・あのう、体験よろしいですか?」
「はいっ!どうぞ!何名様ですか?体験は、お一人様500円です。」
☆
「あーーー、終わったぁ!」
「ひー、さすがに疲れたぁー。」
「背中や腰が痛ーい!」
結局、夕方までお客さんが途切れることは無く、大忙しだった。気が張っていたせいか、やってる間は特に疲れを感じなかったんだけど、終わった途端、体中に痛みを感じるようになった。お昼ご飯も食べる暇が無かったから、お腹もペコペコだ・・・。
「皆さん、お疲れ様でした。お陰で今日はすごく助かりました。ささ、お菓子をいただいたので、お茶にしましょう。」
仏崎先生がお茶とお菓子を用意してくれた。流石先生だ。疲れてないのかなぁ?
「先生こそ、お疲れではないのですか?」
「まぁ、私は慣れてますから。私たちの仕事は毎日がこんな感じですよ。」
「ほへぇ、やっぱりお仕事って大変なんだなぁ。」
「そりゃ、そうでしょ。私たち学生は気楽なもんよ。」
そんなおしゃべりをしながら、お腹がへっていた私は遠慮なくお菓子を手に取った。途端、固まってしまった。こ、このお菓子は・・・ま、まさかっ!
「あぁ!このお菓子、いつも売り切れてて滅多に食べられない、シェフ山本の洋風どら焼きでは?!」
「まぁ、よく知ってますね?間違いなく、これは市内で有名な洋菓子店シェフ山本のどら焼きです。」
そう、このどら焼きは餡子の代わりに、フルーツと生クリームを挟んだ洋風のもので、シェフ山本の看板商品の一つなのだ。
「えぇ?!よく手に入りましたね?私なんか、ここ数年、いつも売り切れてて食べられなかったんですよぉ?!」
「ふふっ、実は山本さんが、ボランティアの皆さんにって差し入れてくださったんですよ。」
「えぇ!?こんな人気商品をタダで?!」
「山本さんによると、自分はこの文化祭には特に協力することができなかったので、頑張ってくれたボランティアの皆さんにせめてものお礼をしたかったんだそうですよ。」
えぇっ!そんな、お礼だなんて・・・。私たちは大したことはしていないのに・・・。でも、その心遣いはとても、とても嬉しい。味だけでなく、こういう気遣いができるのも人気の秘密なのかも・・・。
「・・・いただきます。」
自然と合掌してしまった。食べ物に感謝するっていうのは、実はこういう人の心遣いに対して感謝しているのかもね。
「美味しい!これだけで、今日一日頑張った甲斐があったね!」
「こ、これがあの幻のどら焼きの味なんだ・・・おいし過ぎて涙が出るよ。」
「皆さんの反応を知ったら、山本さんもお喜びになられますよ。あとでお伝えしておきますね。」
「はいっ、よろしくお伝えください。」
こうして、私たちのボランティア活動は終了した。お土産に自分たちが作ったサシェももらった。疲れたけど、とっても楽しかったなぁ。
☆
「そう言えば、ドルフィンちゃん、どうして生徒会選挙に立候補しなかったの?神倉先輩に誘われたんでしょ?」
文化会館から駅に向かう道すがら、響子ちゃんが突然聞いてきた。そう、先月うちの学校でも生徒会役員選挙が行われた。響子ちゃんが言うように、神倉先輩から私も役員に立候補しないか・・・って誘われたんだけど・・・。
「神倉先輩に誘われたのは嬉しかったよ・・・。でも、断ったんだ。」
「どうして?ドルフィンちゃん、神倉先輩のことあんなに好きなのに?」
「・・・神倉先輩を好きだと言うことと、生徒会役員になることは全然違う、別のことだよ。私は神倉先輩みたいなスーパーガールじゃない・・・。先輩は勉強もできて、スポーツもできて、生徒会の仕事もバリバリこなして、さらに部活動では全国3位だよ・・・。私なんか、勉強はついていくのに必死だし、スポーツはできない・・・。でもね、部活動は本当に楽しいんだ。でも、もし役員になったら、たぶん生徒会の仕事をこなすのに必死になって部活動の方はよくて御座なりに、最悪は退部することになると思ったんだ。それは嫌・・・。私は部活動を最後までちゃんとやっていきたいんだ。そう言ったら、先輩はわかってくれたよ。」
“そう・・・ごめんね。無理を言って。生徒会役員に誘ったことは気にしないでね。これからも、同じ放送部員として仲良くしてね。”
先輩は、私なんかにそう言って謝ってくれた。こちらこそ御免なさい。不甲斐ない後輩ですみません・・・そう言いたかったけど、言葉が出なかった。無言で目を伏せる私を、先輩は優しく抱きしめてくれた。泣きそうになったけど、ここで泣くと余計に先輩に気を使わせてしまいそうだったので、必死に我慢した。ほんと、ごめんなさい・・・先輩・・・。
「そっかぁ・・・。でも、ドルフィンちゃんって凄いね。」
「えっ?!何が?」
「だって、敬愛する先輩に誘われたら、大概の人は断れずに誘いに乗るんじゃない?少なくとも私だったら断れなかったと思うよ。それだけ冷静に判断して、きちんと断ることができたドルフィンちゃんは凄いよ。だからこそ、先輩はドルフィンちゃんを誘ったんだろうね。」
「そんなことはないよぉ。私なんか生徒会役員の器じゃないよ。」
「いやいや、そういう判断ができる人こそ役員の器なんじゃないかなぁ・・・私もそう思うよ。」
「もう、紙織ちゃんまでぇ・・・揶揄わないでよ。」
「ふふっ・・・そこがドルフィンちゃんのいいところだよねぇ。」
「ねぇ。」
いつものように、二人に慰められてしまった・・・。でも、ありがとう。二人のお陰で私はいつも立ち直ることができるよ。二人が友達で本当に良かった。
「ところで、二人とも総文祭の準備はできた?」
「私は朗読だから、条件通りうちの県出身の作家の作品を選んだよ。」
「えっ?!誰の?」
「北山璧吾の“極夜行”。」
「北山さんって、うちの県出身だったんだ。」
「響子ちゃん、ミステリー好きだもんね。」
「紙織ちゃんは?」
「私は華丘大岳を選んだよ。」
「華丘大岳?」
「児童文学作家だよ。」
「うーん、いまいちピンとこないなぁ・・・。」
「ふふっ、作品を見たら知ってると思うよ。ドルフィンちゃんは?」
「私は、今日のボランティアのことを書こうと思ってる。アナウンスのお題は“郷土の話題”だから・・・。うちの地元ではこんなイベントをやってますよ、って伝えてみたい。・・・今日の文化祭もりっぱな“郷土の話題”・・・だよね?」
「そりゃそうでしょ。だって、地元自治体の公式イベントだし。なるほど、実際に経験してるし、リアルなものが書けそうだね。」
「ようし!二人とも!今回も頑張ろう!」
「「おー!!」」




