そろそろ県総文祭の準備をしなければ・・・うん?”東和市市民文化祭運営ボランティア募集”?
ようやく暑さもましになってきた。いよいよ秋だなぁ・・・って、おかしいだろ!もう十一月だぞ!暦の上では、もう冬でもおかしかないのにっ!・・・と、怒っている暇はないのだ。十月は、体育大会があったり、人権講演会があったり、進路講演会があったりと、毎週のように放送部の出番が続いた。基本、放送設備を使うイベントがあれば、我々放送部がその運営にあたるのだ。そうやってバタバタしているうちに、コンテストが近づいてきている。そう、県総文だ。夏の終わりに申し込んだ後、イベント続きでちっとも準備できていない。Nコンの時は準備に十分な時間をかけたのに、これでは駄目だ。早くアナウンス原稿を書き上げなければ・・・。さて、何について書こうか?総文祭の要項を改めて読んでみると、条件は、“郷土”の話題を高校生に伝える内容、とある。“郷土”の話題・・・かぁ。とりあえず、ネタを探して学校内をうろついてみた。すると、生徒会室の前を通りかかった時だ。生徒会の掲示板に、一枚のポスターが貼られていた。
“東和市市民文化祭 運営ボランティア募集”
ふむふむ、“十一月三日文化の日に市立文化会館で、市民が参加する文化祭を開催します。つきましては、運営ボランティアを募集します。地元の学校として東和高校生の積極的な参加を期待します。”か・・・。うむ、これはネタになるかも!・・・って動機が不純だろうか・・・。でも、一所懸命働けば、ご褒美として原稿のネタにしても罰は当たらないよね。たぶん・・・。
「失礼します。」
私は、ノックをして、生徒会室に入った。
「おや、ドルフィンちゃん。なんか用?」
部屋には、宇久井会長がいた。
「えーと、前に貼ってあるポスター、明日の市民文化祭のボランティアなんですが、まだ募集してますかぁ?」
「ああ、募集しているよ。何人いても困らないからね。」
「よかった。私も参加していいですか?」
「もちろん、歓迎するよ。よろしく。」
「ありがとうございます。では、具体的に私はどうしたらいいですか?」
「明日の朝七時に文化会館前の広場に集合だ。そのとき、仕事の割り振りを発表するよ。市から頼まれているのは、来場するお客さんの受付、ワークショップの手伝いなんかだね。」
「・・・んん?“ワークショップ”って何ですか?」
「“ワークショップ”とは、“参加者が主体的に参加する体験型の講座”のことだね。博物館や美術館なんかでよく開かれているよ。例えば、県立美術館では、小学生を対象に、ロクロを使った焼き物作り体験とか、絵付け体験とかをよく開催しているよ。県立博物館では、同じく小学生を対象に、埴輪作りや土笛作り、勾玉作りなんかが行われているね。最近、企業の新人研修でも行われることが増えてきていると聞くよ。企業では主に学習やトレーニング、問題解決などを目的として活用しているらしいよ。」
「あぁ、子供の時、博物館に行って参加したことがあります!あれをワークショップって言うんですね。」
「うん。えーと・・・今回の市民文化祭では、“創作折り紙”“レザークラフト”“アロマワックスサシェ”の三つのワークショップが行われるので、参加する市民への指導の補助をお願いしたい、とのことだよ。」
「えっ?!そんな・・・私、指導なんてできませんよ!」
「大丈夫だよ。七時に集合するのは、あらかじめ自分たちが講師の先生から指導を受けて、市民の皆さんに手ほどきができるように練習するためだからね。そもそも、当日に初めて体験する人に、熟練者にしかできないような高等なことをさせる訳ないじゃん。手順通りにやれば誰にでもできるレベルのことしかやらないよ。高校生なら、何度か練習すればすぐにできるようになると聞いてるよ。」
「ほっ・・・なら、やれそうですね。」
「ドルフィンちゃんなら大丈夫!では、明日七時に集合よろしく!」
「はいっ!よろしくお願いします!」
☆
「「おはよう!ドルフィンちゃん!」」
「あっ!おはよう!」
響子ちゃんと紙織ちゃんもやってきた。
実は、昨日部活に戻ってから今日のボランティアのことを二人に話したら、“そんな楽しそうなことをドルフィンちゃんだけやるのはずるい!私たちにもやらせろ!”って怒られたんだよねぇ。結局、もう一度生徒会室に行って“ボランティア二名追加”って申請してきたのだ。
「やぁ、三人ともご苦労さん。」
宇久井先輩の声がした方を振り向くと、生徒会役員の皆さんと美術部の人たちが集合していた。
「「「おはようございます!」」」
「うん。では、早速役割分担を発表しよう。」
そう言うと宇久井先輩は持ってきたプリントをみんなに配った。
「生徒会長と副会長は受付、書記と会計は創作折り紙、美術部の三人はレザークラフト、放送部の三人はアロマワックスサシェを担当してくれ。それぞれの作業場は、今配った会場配置図に記されている通りだ。講師の先生が間も無く到着されるだろうから、それぞれの先生の指示に従ってくれ給え。」
「「「わかりました!!」」」
えーと・・・私たちは“アロマワックスサシェ”だから・・・どこだ?・・・あっ、見つけた!会議室Aだ!
「私たちは会議室Aだね。」
紙織ちゃんも私とほぼ同時に見つけたみたいだ。
「うん、そうだね。じゃぁ、行こうか。」
☆
会議室で待つことしばし、七時半には講師の先生がやってきた。
「初めまして。私が、本日のアロマワックスサシェの講師を務める仏崎です。よろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします!私たちが本日お手伝いをさせていただきます、東和高校放送部部員です!」」」
「高校生は元気があっていいわね。・・・さて、今日、皆さんにしていただきたいのは、ワークショップに参加する人たちがうまく作れるように、要所要所で説明をしたり、質問に答えて手ほどきをしたりして欲しいの。そんなに難しい作業ではないけど、温度管理を怠ると事故につながるので、しっかりと見てあげて欲しいの。」
ちなみに、“アロマワックスサシェ”とは、キャンドルの素材である蝋とアロマオイル、ドライフラワーで作る雑貨のこと。火を付けなくても、置いておくだけで自然に香るキャンドルなので、好きな香りで作れば、自分の部屋が癒され空間に早変わりする(らしい)。
「まずは、事前準備をします。三人ともここにあるエプロンを着てください。ワックスは洗濯しても落ちないので、汚れてもいい服装で作業するのが望ましいのだけど、事前に連絡が行ってなかったみたいだから。エプロンを着たら手伝って。床にシートをひいて養生します。これもワックスが飛び散った時に部屋を汚さないための処置です。」
言われた通り、私たちはいそいそと床にシートをひき、養生テープで足を引っかけないように固定した。なるほど、これは一人でやるとなると大変だ。でも四人でやるとあっと言う間だった。
「続いて、長机を2つずつくっつけて作業台を作ります。やはり机を汚さないために、並べたら新聞紙を二重にひいて、養生テープで固定しましょう。」
作業台は、6つセッティングした。これも二人一組でやるとそれほど時間はかからなかった。
「これで会場準備は終了ね。はい、これが参加者に配る手引きよ。これを見ながら、まずは一度作ってみましょう。」
ふむふむ、なんだか理科の実験みたいだなぁ・・・。とりあえず、実際にやってみて、参加者に指導できるようにならなければ・・・。