ついに文化祭のリハーサルが開始!私たち放送部の出番ですっ!
「鯨山君たち、何しているの?」
放課後、放送室を訪れてみると、2年の先輩方の指導の下、鯨山君たち1年が何やら熱心に何かを作っていた。
「やぁ、ドルフィンちゃん。今、先輩達に“進行表”の書き方を習っているところなんだ。」
「進行表?」
「うん、“タイムスケジュール”って言った方が判り易いかな?文化祭当日の舞台の進行に沿って、マイクを何本、何処に設置するか、音源は必要なのか、照明はどうするのか、マイクを撤収するのか、それとも場所を置き換えるだけなのか、そんなことを整理して表にするんだよ。」
「むむっ!!聞いているだけで難しそう。」
「だろう?だから、今のうちに先輩に指導してもらって、マスターできるよう勉強中って訳さ。」
「でも、今作っても、全部の団体からセッティング表が出てこないと、作り直しになったりしないの?」
「いや、全部出てるよ。」
「へっ?」
「今日最後の団体から提出があって、全部出揃ったんだよ。」
「はやっ!!まだ会議から三日しか経ってないよ?」
「俺たちも驚いたさ。でも、それだけ皆自分のことだと考えて、頑張ってくれたんだろう。だから俺たちも頑張って、しくじらないようにしないと。まぁ、そのための進行表なんだけどね。」
「責任重大だねぇ。」
「まぁ、それだけ遣り甲斐があるけどね。」
「よしっ!頑張ろうじゃぁないか。」
「おぉー!!」
何だかワクワクするなぁ。
☆
いよいよ今日の午後から文化祭だ!我々放送部は体育館でフル操業だ。音響機器担当(彼らは自分たちのことをメカニック班って呼んでるけど)の1年と2年は、朝早くから来て色々な機材を運び込んで組み立てている。私にはどれが何の為に必要な機械なのか、いまいち判らない。
「球技大会で使ったものと違うねぇ。何に使う機械かよく判んないよ。」
「あぁ、球技大会とか体育大会は、拡声できて音楽が流せればOKだからね。最低限の能力のメカで十分なんだ。でも、今回は違う。出来るだけいい音が出せるよう、高音域、中音域、低音域、全てのゲインの調節が出来るミキサーの出番だ。マイクもワイヤード5系統と、ワイヤレス4系統を使うので、体育館に備え付けられているミキサーじゃ役不足なんだよ。」
鯨山君は、メカの説明となると饒舌になるなぁ。他のことでもこれ位喋ることができるなら、アナウンスだって十分やれるのになぁ・・・勿体ない。
「これは?」
「お家には無いかい?CDデッキだよ。」
「CDの再生機・・・だよね?すっごく大きいけど、CDラジカセじゃダメなの?」
「さっきも言ったように、球技大会や体育大会では音質はどうでもいいからラジカセを使ってるけど、文化祭の舞台発表では音質は重要だからね。できるだけ良い音が出せるよう、CDデッキを使うんだよ。」
「そんなに違うの?」
「うん、全然。“銭はタダ取らない”って言うけど、本当だよ。」
「へぇー。ところで、どうして放送室じゃなくてフロアーで組み立てているの?放送室は使わないの?」
「文化祭では放送室は使わないよ。あそこの中じゃぁ舞台の様子が見えないし、音が適切に出ているかも判んないからね。ここなら両方判るから。」
「なるほど、そういう理由があるんだね。」
「ちゃんとしたホールだったら、一番後ろにミキサー室があるんだけどね。学校の舞台発表は体育館でやるから、毎回こうやって組み立てるしかない訳だ。」
ふと舞台の方を見ると、鰹島君と王子浜君が大きなスピーカーの設置を行っている。
「スピーカーもわざわざ違う奴を使うんだ・・・。」
「CDデッキと同じ理由だよ。体育館備え付けのスピーカーじゃぁ良い音は期待できないからね。それに“返し”も設置しなけりゃならないし。」
「“返し”って何?」
「PA用語で、舞台上の演奏者や踊り手の為のスピーカーの事だよ。踊り手にBGMを聞かせたり、演奏者が自分達の出している音が判るように設置するんだ。別名“モニター”。本来のスピーカーは観客に向いて設置されてるから、演奏者や踊り手さんはそこから出る音を聴くことができないだろう?これがあるのと無いのとでは、演技や演奏がまるっきり変ってくるんだよ。」
「うーん、凄い。ここまで本格的だとは思わなかったよ。」
「ふふふ・・・だからこそ我らメカニック班の腕の見せ所なのだよ!備え付けの機材を使うだけなら、誰でもできるだろう?誰でもじゃぁできないことをするからこそ、我らの存在価値があるってもんよ!」
鯨山君が芝居がかってる・・・こんなひょうきんなところもあったんだぁ・・・意外だなぁ。
「ところで、私たちアナウンス班は何をやればいいの?」
「進行表に、我々放送部がしゃべる台詞を加えた演出台本を作っておいたから、このしゃべる部分をお願いしたい。」
「うん、判った。響子ちゃんと紙織ちゃんにも説明しとくよ。」
「よろしく!」
☆
響子ちゃんと紙織ちゃんにも体育館に来てもらって、誰がどこのパートを担当するか打ち合わせをしていると、今日の舞台発表のリハーサルが始まった。今日は開会式に続いて、吹奏楽部、合唱部、ダンス部、バトントワリング部の発表が行われる。これらの発表は生徒全員が観覧することになるのだ。ちなみに、明日は一日中舞台発表があるけど、文化部ではない有志やクラスの出し物だ。これらは生徒全員が見るのではなく、自由観覧になっている。
「じゃぁ、私は朝一番からのクラス発表の前半を担当するね。」
そう言いながら、紙織ちゃんは演出台本に自分の名前を記入した。
「紙織ちゃんの次は私がやるわ。」
続いて、響子ちゃんが台本に名前を記入した。
「ねぇねぇ、そう言えば今日の全体会のMCは誰がやるの?」
「全体会の仕切りは生徒会だから、多分神倉先輩だと思うけど・・・。」
「うん、ならば問題無いね。神倉先輩以上のアナウンスができる人はうちの学校にはいないもんね。」
「まぁ、そういうこと。開会式は文化祭の一部とは言え、セレモニーだからね。私たちペーペーより、生徒会副会長が相応しいに決まっているよ・・・あっと、じゃぁ昼からの有志バンドは私がやるね。」
「有志を全部やるのは大変だよ、ドルフィンちゃん。2時から最後までは私が交代するね。」
「有り難う、紙織ちゃん。じゃぁ、三日目の軽音楽部は私がやるね。」
うむ、役割分担もスムーズに決まった。気心が知れている仲間だと楽ちんだなぁ。
「あれっ?ダンス部のリハをやってるよ。順番では、吹奏楽、合唱、ダンス、バトンだよね。どうして順番通りじゃないのかな?」
「こういう時は、メカニック班に聞くのが一番!鯨山君、どうして?」
「おいおい、いきなり話を振るなよ、リハ中だぜ。・・・いや、簡単なことだよ。合唱部はピアノの出し入れが必要、吹奏楽部は椅子と譜面台、楽器の出し入れが必要、だから順番を入れ替えて、吹奏楽部の準備ができた状態で開会式をやれば、その分手間がかからないと言う訳さ。」
「あぁ、なるほど。段取りが理由でリハの順が入れ替わってるんだね。」
「吹奏楽と合唱はPAの出番はほぼ無いし、ダンスもバトンもオケを出すタイミングさえ確認できればいいからな。今日は気楽なもんだよ。・・・おっと、ダンス部が終わった。」
鯨山君はインカム用のマイクを頭にセットすると、舞台上のダンス部キャプテンと会話を始めた。向こうの声は私たちには聞こえないので、まるで鯨山君が独り言を呟いているようだ。
『ダンス部の皆さん、他に何か気をつける点はありますか?』
『・・・OKですか?ではバトン部と交代してください。』
ダンス部の皆さんがさっと舞台からひくと、代わってバトン部の皆さんが出てきた。
『・・・では、バトン部の皆さん。スタンバイOKですか?』
『・・・では、1曲目の出だしの確認をします。照明は全灯で、イントロが始まってから袖から出る、で間違いないですか?』
『・・・了解です。では、行きますよ。』
『照明OK、音楽オン。・・・タイミングOKですか?・・・OK!』
ふふっ、鯨山君達、いきいきしてるなぁ。よし、私たちも明日のMCを頑張るぞい!