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神倉先輩、流石です・・・私もいつかはああ成れるのかなぁ・・・。

 発表者席について驚いた。観客数がとにかく多い。まぁ当たり前か・・・予選の時はアナウンス部門の参加者八十二名だけだったけど、決勝は朗読部門の出場者、番組部門の参加者、今回出場していない各校の部員さん達、大人の人は保護者かな?とにかくトータルで軽く二百人を超えている。自分でも青褪めているのが判る。こんな大勢の知らない人達の前でしゃべった経験は無いよ・・・。神倉先輩は普段と全く変わらなかった・・・。流石だよ・・・私もいつかああ成れるのかなぁ・・・。あれっ?紙織ちゃんと響子ちゃんが両拳を胸の前でしきりに上下させてる??ひょっとして、私に“頑張れ”ってエールを送ってくれてるのかな?・・・二人とも有り難う!私、ベストを尽くすからねっ!

「『56番、栗須入鹿、“中間考査が無くなった!私たちの高校生活はどう変わった?”

 私たちの県では、新学習指導要領に合わせて、昨年度から中間考査が廃止されました。私は、そのことが高校生の生活にどのような影響を与えるのか気になり、まずは身近な1年生を対象にアンケート調査を行いました。ところが、1年生はまだ入学したてで、そのことがどのように影響するのか判らない、と言う意見ばかりでした。

 そこで、すでに中間考査の無い生活を経験している2年生を対象に再度アンケート調査を行いました。結果、“中間考査が無いから、楽になると思っていたら、その代わりに小テストが頻繁にあって、却ってテスト勉強が忙しくなった”と言うものや、“教科毎に小テストが行われるので、毎日何かしらのテスト勉強をしなければならなくなった”と言った意見が多く見られました。一方で、“細目に勉強する癖が付いた”“範囲が狭いので、テスト勉強はしやすくなった”と言う肯定的な意見も多く見られました。

 確かに私たち高校生の生活は変わったようですが、必ずしも悪いように変わった訳では無いようです。』」

 よしっ。緊張したけど、上手く喋れたぞ。次は課題原稿だ!

「『“世界最大の花”として知られているラフレシアが県立植物園で開花しました。

 東和市にある県立植物園で開花したのは、ラフレシア、あ、あるの、るでぃ、い・・・です。この植物は東南アジア、トウショブ、とマレー半島に分布していて、その花は大きいもので直径およそ90センチほどに成長することから“世界最大の花”とされています。

 ラフレシアはミツバカズラなどの根に寄生した、ごく微細な糸状のさいぼうれつ、からなる植物で、ここから直接花を出すため、植物園で開花した例はほとんどありません。植物園では、10年前からミツバカズラを栽培してきましたが、先月初めにつぼみが付き、その後、徐々に大きくなって、16日に花を咲かせたということです。

 訪れた人たちは南国の珍しい花をスマートフォンで撮影するなどして楽しんでいました。』」

 あぁ、あ・・・駄目だ・・・何十回となく反復練習をした自分の原稿と違って、今日初めて見る原稿は、間の取り方もなってないし、慣れない言葉は上手く言えない・・・。私はしょげて、肩を落としつつ降壇した。

「良かったわよ。頑張ったわね。」

 席に着いた私の耳にそんな囁きが聞こえた。とてもやさしい声で・・・。こんな不甲斐ない後輩を、神倉先輩は労ってくれた・・・私はそれで充分だった・・・。でも、なんでだろう・・・涙が溢れてきた・・・。別に悲しくないのに・・・自分でも頑張ったって思ってるのに・・・。 私はひたすら涙を拭うのに忙しくて、それ以後の発表は耳に入ってこなかった。気がついたら全ての発表が終わっていた。

 ☆

 審査結果を待つ間も、滲んでくる涙を払うのに忙しかった。

「ど、ドルフィンちゃん、大丈夫?」

「あ、あのね、聴いてても特に変じゃなかったよ!」

 紙織ちゃんと響子ちゃんに凄く気を遣わしてる・・・申し訳ない・・・。

「ごめんね。大丈夫だから・・・自分が不甲斐なくて・・・哀しいとか、そんなんじゃないから!心配しないで・・・。」

 そう言ってる尻から涙が出てくる・・・。もうっ!!なんなんだよ!!自分の体なのに思うようにできないって、こんなに歯痒いものなの?!

 すると、突然、軟らかくて、いい匂いがするものに包み込まれた・・・何だろう・・・凄く安心する・・・。んっ?こ、これは!先輩が優しく私を抱きしめているっ?!

「よく頑張ったわね・・・。今日不本意な発表だったとしても、次、同じ失敗をしなければいいのよ。貴方はまだ1年生なんだから。まだ次があるのだから・・・。」

 このままずっと先輩に抱きしめられていたいけど、そうもいかないよね。

「有り難うございます!先輩!私はもう大丈夫です!」

 すると、先輩はそっと私から離れた・・・う、う、ちょっと残念・・・。

「そう?でも、涙が出るくらい悔しかったのよね?私も去年、同じように悔しくて泣いたのよ。貴方はこれからも伸びるわ。そういう気持ちが大事ですもの。」

「有り難うございます!これからも頑張ります!」

 そっか・・・そりゃ、先輩も初めからこんなに上手だったわけないよね。私も頑張って、努力して、先輩のようになるんだ!

 どうやら先輩のお陰で涙は止まったようだ。そうこうしている内に、審査が終わったみたい。NHKのアナウンサーさんとプロデューサーさんが舞台に上がられ、MCの先生がマイクの前に立っていた。

『お待たせいたしました。審査が終わりました。まずは、アナウンサー部門の結果を発表します。優秀賞、高倉高校3年赤木繁美さん、東和高校2年神倉千穂さん、丹鶴高校3年要度仏蘭さん、・・・優良賞、御船高校2年鷲頭浅茅さん、高倉高校3年渋川美帆さん、丹鶴高校2年池田阿須賀さん、・・・奨励賞、東和高校1年栗須入鹿さん、越路高校3年堀内菜々さん、猪垣高校2年高森香菜さん 以上の皆さんです。続きまして、朗読部門の結果を発表します。・・・・・・・・・。』

 うむっ!神倉先輩は余裕で優秀賞だ。でも、神倉先輩以外の人達も本当に上手だった。

『・・・以上です。では、続いて表彰式を行います。今、名前を呼ばれた人、番組部門に関しては代表者1名が舞台に上がってください。』

 おっと、今度はボケてはいられない。早く舞台に登らねば・・・。

「さぁさぁ、早く行かなきゃ。」

「我が校から二人も表彰されるとは、いやぁ、誇らしいですなぁ。」

 紙織ちゃんと響子ちゃんは私の背中を、ぽんっと軽く叩いて送り出してくれた。ほんと、私は友達に恵まれたなぁ・・・。

 舞台に上がると、アナウンス部門が先頭列で、優秀賞、優良賞、奨励賞の順に並ばされた。私たちの後ろに朗読部門が同じ様に並び、その後ろにテレビ部門の代表者が、さらにその後ろにラジオ部門の代表者が並んだ。

『では、表彰式を始めます。本コンテスト主催の、県放送教育研究会会長、城山大輔先生に表彰していただきます。』

 おぉ、お偉いさんだ。一人ずつ先生の前に出て表彰されるんだ・・・。なんか、別の意味で緊張するなぁ・・・。おっと、先輩の番だ。

「アナウンス部門、優秀賞、東和高校、神倉千穂殿、以下同文です。・・・おめでとう。」

 おぉ、何時もはクールな先輩が、物凄く綺麗な笑顔で賞状を受け取ったぞ!あぁ・・・先輩の笑顔が見れて、それだけで今日来た甲斐があった・・・。眼福、眼福。

『・・・続いて奨励賞です。東和高校、栗須さん、先生の前へ。』

 おっと、私の番だ!うぅ、緊張するぅ。

「アナウンス部門、奨励賞、東和高校、栗須入鹿殿、以下同文です。・・・おめでとう。」

 ぺこりとお辞儀をし、両手で賞状を受け取る。途端、胸の奥から熱いものが込み上げてきた。ひょとしたら、今まで生きてきて、一番嬉しかったかも・・・。

『・・・以上で、表彰を終わります。表彰された皆さんは降壇して席に戻ってください。なお、各部門の優秀賞、優良賞を受賞者、並びに作品は、東京で開かれます全国大会に推薦されます。』

 全国大会かぁ・・・私もいつか行けるといいなぁ・・・。

『では、本日審査員を務めて頂きました、NHKのアナウンサー塩野道夫様とNHK番組プロデューサー柿葉壽司様から本日の御講評を頂きます。まずは、塩野様、アナウンス部門と朗読部門についての御講評をお願いいたします。』

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