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貴族でないダリアが、賄賂というお菓子の袋を渡し、次々と関門を突破していく。
私的には見慣れた光景だ。
大丈夫なのか?王宮の警備は・・・。
「まずは、休憩スペースで一休み致しましょう。」
ダリアがそう言って、私たちを案内する。
当然、そこには、私の親族が待ち構えている訳で。
「はっ!アリス、しっかり挨拶するのよ。あのお方が王妃様よ。」
「あら、ユリアナさんも来たのね。」
「どうも、王妃様。」
叔母様は深々と礼をする。
アリスも、それに習い深い礼をする。
「こちらは、娘のアリスになります。」
「アリス・イデ・アーマードです。」
アリスが元気に挨拶する。
かわえええ。
その後、叔母様がこちらを見る。
目で何かを訴えようとしているが、なんだろ?
ダリアが王妃様の隣の椅子を引いてくれているので、そちらに腰掛ける。
「ちょっ、何してるの。挨拶しなさい。」
叔母様が慌てる。
まるで、おかんか親戚のおばさんのようだ。
一応、親戚の叔母さんではあるけど。
「いいのよ、ユリアナさん。アウエリアとは昨日も会っているのだし。毎日会えて嬉しいわ。」
そう言って、微笑みながら、私の頭を王妃様は撫でた。
「えっ、どういう・・・。」
「アリス、こっちに座って。」
私は、アリスを隣に座るように言う。
「はい、お姉さま。」
ダリアがアリスを抱えて、アリスを着席させる。
「待って、アウエリアの元々の家って・・・。」
「フォールド家ですよ、叔母様。」
「フォールド家・・・、何で忘れていたの私は・・・。」
「もう10年も経つのよ。仕方がないわ。」
王妃様が、そう叔母様に言う。
「ユリアナさんは、コンスタンスと貴族学院で同級生だったのよ。」
「えっ。」
初耳だ。
「更に言うなら、当時は、ユリアナさんは私の派閥だったわ。」
ああ・・・、嫁入りして派閥が変わるタイプか。家の事情があるから仕方がないが、よりにもよって、派閥トップの義弟の嫁か。
「ユリアナさんは、今日はどうしたのかしら?」
「えっ、えっと・・・娘の付き添いです。」
「あら、そうなのね。てっきりエカテリーナ様に何か言われているのかと思ったわ。」
「そんな、まさか・・・、ははは・・・。」
追い払うとか言ってなかったか?叔母様。
あっ、やば。
読まれてまう。
無心、無心・・・。
「何かあるの、アウエリア?」
「何もありません。」
無心よ、無心になれっ!
「そう、ならいいのだけど。無理に無心になる事はないのよ?」
「・・・。」
「あの、この事を義姉は?」
「当然、知ってるわよ?」
「ですよね・・・。」
ちょっかいをかける親族と言っていたのだ。
叔母様も、それに気が付いたようだ。
「や、ややこしい・・・。」
叔母様は私の事を見ながら、そう呟いた。
確かに私の立場は、ややこしいが、叔母様も負けてないのでは、ないだろうか?
「ユリアナさん、アウエリアがアーマード領へ行くなんて話が出ているそうね。」
「ええ、まあ。」
「何とかならないかしら?」
「何とかとは?」
「その間、私もアーマード領に滞在できるように・・・。」
「む、無理無理無理、無理です。」
「どうしても無理かしら?」
「滞在場所を用意しろと言われるなら、準備は出来ますが・・・。」
「どうしたものかしら?」
「うちでは、どうにもなりません。」
「今ですら週に一度しか会えないというのに、アーマード領へ行ったら、どうなるのかしら?」
「どうなるも何も、暫くは会えないかと・・・。」
「アウエリアは、ちゃんと王都へ戻ってくるのかしら?」
何のことだ?
「ほら、アーマード家に養女にって、話があったでしょう?」
「確かにありましたが・・・。」
何ですとっ?初耳なんですが?
アーマード家に養女?という事は、私が名実ともにアリスの姉にっ!何て素敵なお話なのっ!
「駄目よ。アウエリア。」
何が、駄目???
「アーマード領は遠いでしょ?その話は、私が叩き潰したわ。」
「・・・。」
「ほら、ユリアナさん。アウエリアは、アーマード家の養女になりたいようよ。」
「はい?」
「というかアリスの姉になりたいんでしょうね。ふふふ・・・。」
無心だ、無心になれ私。
「もしかして、アウエリアの考えが判るんですか?」
「ええ。」
「あまり読まれない方がいいのでは?コンスタンス様の時の様に避けられますよ?」
「あら?あの子は私を避けてなんかないわ。私に会っても、顔を背けるだけよ?」
「反対や苦言ばかり申されるからです。」
「仕方がないじゃない?あの子、突拍子もない事ばかりしようとするんだから。そうそう、テセウスの涙を探し隊なんて、愉快な隊を組織していたわね。結局、宝石拾いにも行けなかったようだけど。」
「そうですね。私は行く羽目になりましたが・・・。」
「あら?そうなの?」
「寝込んだまま、「いし、いしが・・・」と魘される様だったので、私と数人が現地に行きました。」
なんて迷惑な・・・。
しかし、叔母様が、いし拾い仲間だったなんて。
「お母さま、お母さま。私も、いし拾い行ってみたいです。」
「あのね、アリス。貴族令嬢が行くような場所じゃないのよ。」
叔母様がアリスを窘める。
「アリス、いつか一緒に行きましょうね。」
「はいっ!」
にぱぁっと笑って、アリスが返事をした。
「ちょっと、勝手にアリスと約束しないで。」
「まあまあ、叔母様。私達、いし拾い仲間じゃないですか?」
「変な仲間にしないで。まったく、あんた達、親子は・・・。」
ちょっと待ってほしい。
頼むから生母と一緒くたにするのは辞めて欲しい。
叔母様に迷惑をかけたのは、生母であって、私じゃない。
「親子って似てしまうものなのね。」
そう言って、王妃様が微笑んだ。
「アウエリアは、特に病気とかないのよね?」
眉間に皺を寄せながら、叔母様が聞いてきた。
「頗る元気ですよ?」
私がそう返事をすると、眉間の皺が深くなった。
「げ、元気なコンスタンス様・・・。」
何か何処かで聞いたセリフだ。
何処だったろうか?
「ちなみにエカテリーナ様は、アウエリアのアーマード領行きは、納得されているのかしら?」
「いえ、まったく・・・。」
叔母様が困ったように返事をした。
「アウエリアのアーマード領行きは必要なのかしら?」
「はい。」
「そうなの?」
「王都に来て1週間、既に私に探りを入れに来た方もチラホラ居られます。」
「エカテリーナ様の派閥の方かしら?」
「いえ、義姉の派閥の方は、義姉がアウエリアを溺愛しているのは周知されていますので、その話題を出す方は居ません。」
「という事は、中立派かしら?まさか私の派閥の人間って事はないわよね?」
「申し訳ありません。誰かという事は、ご容赦ください。」
王妃様派閥の人も動いてるんだ。
ふむふむ。
「物は、ドワーフ国にあるというのに、今更、アウエリアがその場にいたという事が重要かしら?」
「物が物ですし、何とか関わりたいと思う方が居られるようです。何せドワーフ国と伝手がある方は、殆ど居られませんので。」
「藁をも掴むって事かしら?」
「恐らく。」
藁をも掴む思いで、私に寄ってきて欲しくはない。
「今は、社交シーズンなので、情報を集めるに留まると思いますが・・・。」
「社交シーズンが終われば何かしら動きがあると?」
「義兄や主人は、そう考えています。」
「困ったものね。私やエカテリーナ様が怖くはないのかしら?」
「私が忘れていた位です。殆どの方は、王妃様との関係はご存じないかと。」
「私との関係を知らなくても、エカテリーナ様の事は?」
「義姉が溺愛しているなんて、派閥の人間しか知らないと思います。」
「じゃあいっそ、不届き者には動いてもらって、私とエカテリーナ様が一掃するのはどうかしら?後顧の憂いも無くなるわ。」
「王妃様の派閥の方も居られますし・・・。」
「アウエリアの為なら、構わないわ。」
「「・・・。」」
私と叔母様は絶句した。
恐ろしい、恐ろしい話をしている・・・。




