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「昨日は、伯母さまに姫騎士のお話をしてもらったの。」
朝食時、アリスが嬉しそうに叔母さまに、報告する。
「義姉さん、わざわざ話をしに?」
「お姉さまと伯母さまと3人で寝たの。」
「ちょっ、義姉さん、何してるのっ!」
叔母様が強く責める。
「あら?当家では、母娘が一緒に寝るのは、日常茶飯事よ。ねえ、アウエリア。」
「ええ、まあ。」
「伯母さまに、お花摘みにも付き添ってもらったの。」
なんと、私が寝てる間に。
「義姉さん、アリスは渡さないわ。」
叔母様が、お母様を最大限、警戒する。
無理もない。
「アリスは慣れない環境に居るんだし、それくらいいいでしょ?」
「夜番をつけていればいいでしょ?」
「つけてるわよ?昨晩は、私が気が付いたから、付き添っただけよ。そんなに目くじらを立てないで。」
「アウエリアは、何処で寝ていたの?」
うおっ、こっちに飛び火してきた。
「私は真ん中で。」
「あんたは、気が付かなかったの?」
「はい、まったく。」
「お姉さまは、私が起きても、全然気が付かないの。」
「・・・。」
叔母様が絶句する。
仕方ない、私の眠りは深いのだ。
「でもね、紅茶の香りがすると、すくっと起きるのよ。」
パブロフの犬のように、癖づいてしまったから、仕方がない。うん。
「近日中にレントン商会へ赴こうと思うんだけど、アリスはどうする?」
「レントン商会?何処にあるんですか?」
「王都の平民街よ。」
「うわあ、王都を見てみたいです。」
さて、どうしたものか。
私だけなら、あれだが、アリスまで一緒となると。
普通なら叔父様が反対しそうだが、言える立場じゃないらしいので、何も言わない。
仕方がない私が提案するか。
「お父様、護衛に兵をお借りしても?」
「今までも護衛はついていたと思うけど?」
「足りませんよ。」
「護衛対象が、増えるから、まあそうだね。倍に増やすかい?」
「100名ほど、お願いします。」
「は?」
「アリスは可愛いのです。100名は、必要です。」
「せ、戦争するわけでもないだろうに。」
「お父様、戦争なら100名は少なすぎます。」
「・・・。」
「いいでしょう。」
お母様から許可を頂いた。
「その代わり、今後、街へ行く場合は、必ず100名の護衛をつけるように。」
「アリスがいる場合ですよね?」
「いえ、アウエリア一人でもです。」
いやいやいや、大名行列じゃないんだから、100名の兵士なんて連れたくはない。
「アウエリア、無難に10名の護衛でどうだい?」
「し、仕方ありません。」
お父様の妥協案に、私は頷いた。
午前の授業は算術で、私には不要だが、アリスに付き添うことにした。
「お姉さま、私、算術が苦手なんです。」
シュンっとなるアリス。
なんだと、ぬぬぬ。
この世界から算術を無くしてやりたい。
しかし、私にそんな力なんてあろうはずもない。
一桁の足し算をアリスに優しく教え、授業を終える。
屋敷でうろついていたシェリルをとっ捕まえて、新たな図面を渡す。
「これは・・・。」
「お金にならない。アリスの為よ。」
シェリルが全部言い終わる前に私が言葉を遮った。
「1枚目のは、大至急ね。簡単に出来るから、直ぐ出来るでしょ。2枚目の方は、後でいいわ。」
「了解しました。」
午後のティータイムが終わった頃、シェリルが戻ってきた。
はやいなおい・・・。
「とりあえず、2つほど出来ました。何ですかこれ?おもちゃですか?」
シェリルが首を傾げながら、おもちゃの算盤を2つ渡してきた。
この世界に算盤なんて物はない。
私が作ることによって、世界にどんな影響があるか。
知ったこっちゃない、私をこの世界に転生させた方が悪い。うん。
自重はしようと思った。
がっ!
妹の為なら、何だってする。
当然だ。
ということで、5列のおもちゃの算盤がこの世界で作られてしまった訳だ。
木製の算盤なんで、作るのは簡単だ。
「どうやって遊ぶんですかこれ?」
シェリルが興味津々だ。
私は1つをアリスに渡した。
「お姉さま、どうやって遊ぶんですか?」
応接間の長椅子に座り、アリスがワクテカしている。
うん、かわえええ。
「いいアリス。まずこう立てて。」
私は算盤を立てて、珠が全て下に来るようにする。
「こうですか?」
「うん、そうよ。」
「で次は。」
シャーっ
私は5の珠をシャーって指でやって上にあげる。
このシャーってやるのが好きなんだけど、5列しかないので、物足りない。
「この状態が0ね。」
「0ですか?」
シェリルが覗き込むように見ている。
私の背後からは、リリアーヌが覗きこんでいる。
皆、興味津々だ。
「でね、これが1よ。」
私は右端の珠を一つ上に上げる。
「いちっ。」
一つ一つの動作が、かわええ。
これが妹マジックかっ!
「でね、これが2よ。」
「にっ。」
「じゃあ、3は?」
「えっとぉ~。こう?」
「正解。」
「お姉さま、お姉さま。じゃあ、これが4?」
「アリスは賢いわ。」
「えへへへへ。でもね、お姉さま。5がないの?」
「5は、こうよ。」
「こう?」
「そう。それが5よ。じゃあ6は?」
「うーん、うーん。」
「これが6ということですか?」
シェリルが勝手にアリスの算盤の1を上にあげた。
何やってんだこいつ・・・。
「うー、私がやろうと思ってたのにぃ。」
膨れたアリスもかわええ。
シェリル、グッジョブ。
その後、9までいった所で、再びアリスの手が止まる。
私は、シェリルに余計なことをしない様に睨む。
「さあ、アリス。10は、どうだと思う?」
「多分・・・、こう?」
首を傾げながら見事正解に辿りつく。
「正解よ。」
私はアリスの頭を撫でた。
「えへへへ。」
「これは数を数えるための道具ですね。」
シェリルが言う。
「違うわよ。」
「「えっ?」」
シェリルと後ろからの声が重なる。
どうやらリリアーヌも、シェリルと同じ考えだったらしい。
「アリス、5にしてもらっていい?」
「はい、お姉さま。」
「じゃあ、それに5を足してみて。」
「???」
アリスが首を傾げる。
「こうやって5の珠を上に戻して、10の位の1をあげるのよ。」
「ああぁ・・・という事は10ですね、お姉さま。」
「正解よ。じゃあ次は6足す7をやってみて。」
「はい。えっと、まず6を作ってぇ、7だから・・・。1の珠を2つ上げて、5の珠も上げてぇ~・・・13になった。」
「大正解よ、アリス。」
「やったぁ~。」
「お、お嬢様っ!売れるっ、これは売れます。」
そう言ってシェリルが私の肩を揺らす。
「ぐぉっ。」
頭がシェイキングされる。
「落ち着いてください。簡単な計算なんて、暗算できるじゃないですか?」
リリアーヌがそう言って、シェリルを止めてくれた。
「た、確かに・・・。」
「これはアリスの為に作ったのよ。どうしても売りたいなら、お父様に許可を求めなさい。」
まだ頭がグラグラするが、私はシェリルに強く言った。
「さ、宰相閣下の許可・・・。」
「お嬢様、そのように言わなくても、シェリルさんも作ったりはしないと思います。」
「じゃあ、リリアーヌ。数字を何個でもいいから、適当に続けて言って。」
「わかりました。一桁の数字ですか?」
「2桁でも3桁でも良いわ。」
「では、18、241、116、58。」
「433よ。」
「はい?」
「今言った数字を足した数よ。」
「お姉さま凄い、そろばんの使い方も早いっ!」
「う、うおおおっ!」
シェリルが興奮して、再び私の肩を掴もうとした。
「これ以上の無礼は、許しません。」
リリアーヌが、シェリルの両手首を掴み止めてくれた。
「どう?リリアーヌ。お父様の許可は必要でしょ?」
「はい。」
「べ、別段、宰相閣下の許可は必要ないと思いますが・・・。」
「そう思うんなら頑張ってプレゼンする事ね。」




