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「おやおや、今日は随分と大勢で。」
大勢って、3人だけどね。
神父さんが優しく出迎えてくれた。
「かぼちゃのお裾分けに来ました。」
「それは、それは。孤児院の方へ運んでくれるかの?」
「はい。サントンお願いね。」
「任せてください。」
「神父さん、下拵えはどうしましょう?」
「ふむ、近隣からも手伝いに来てくれてる者がおるでな。しかし、まあカボチャは固いからのう。」
「荷車を引いてるサントンは料理人なので、お手伝い出来ますよ。」
「なんともありがたい。今夜は美味しいカボチャが食べれそうだわい。」
「神父さんは、孤児院にお住まいなんですか?」
「そうじゃよ。」
こういうところまで田舎と同じか。
でもきっと、大聖堂の方は違うんだろうなあ。
「それじゃあ、私も孤児院の方を手伝って来ますね。」
私は、リリアーヌを引き連れて孤児院へと向かった。
そこで見たものはっ!!!
若い女性と仲良く下拵えをしているサントンの姿だった。
「お嬢様、早く下拵えを致しましょう。」
せかすリリアーヌ。
えっ?もしかして?
「もしかしてリリアーヌ、サントンの事が?」
「はい?私があの虫けらを?」
む、虫けらって・・・。
「邪魔しちゃ悪そうだし。」
「目の前でイチャつかれるのは、殺意が芽生えます。」
あっ、居たわ、こういう友人。
全然、好みの男性ではないのだが、目の前で仲良くされるのはムカつくという。
アレだわ。
リア充死ねって奴ね。
サントンを庇うわけではないのだが。
「仲良く下拵えしてるだけで、イチャついてはないんじゃない?」
「虫けらのデレっとした顔がイラつきます。」
・・・。
サントン・・・、虫けら確定なのね><
「もしかしたら、あの女性は人妻かもしれないでしょ?」
「それは、何とも香ばしいですね。」
ひとの不幸は蜜の味ってのは、よく言うものね。
でもこれって、ドラマのタイトル名なのよね。
いつのまに格言っぽくなったのかしら?
まあいいや。
「それじゃあ、お手伝いしましょうか?」
「もう少し、二人きりにさせてあげたら如何でしょう?」
リリアーヌ、あんたって奴は・・・。
帰り道のサントンは、意気揚々としており、ちょっとウザかった。
リリアーヌが聞こえないような舌打ちをしたのは言うまでもない。
「お嬢様、いつでも教会へ付き合いますので、気軽に声をかけてくださいね。」
ああ、はいはい。
翌朝、まだ薄暗く、起きるにはまだ早い時間に目が覚めた。
・・・。
目が合った。
何を言ってるかよくわからないかもしれないから、もう一度言おう。
目が合った。
男女の睦ごとで朝チュンを迎え、愛する人と目が合うならまだわかる。
だが、私は、まだ10歳だし、普段から一人で寝てる。
なのに、目を開けた途端、目が合うって、もはやホラー。
心臓が止まるかと思った。
こう思う時点で止まることはないんだけども。
「おはようございますお嬢様、まだ起床時間には早いと思いますので、今しばらくお休みください。」
休めるかーっ!
もう、ばっちり目覚めたわっ!
何なのこの人、マジで怖いんだけど。
えっ?
「な、何をしてるのリリアーヌ?」
「お嬢様が起きるのをお待ちしております。」
「心臓に悪いので止めて欲しいんだけど。」
「心臓に悪いですか?」
「ええ。」
「そうですか。だが断るっ!」
か、返されたっ!だが断るを返されたっ!
「明日から、リリアーヌが来るまで、ちゃんと寝てるから、頼むから止めてください。」
心底止めて欲しいので、最後は敬語になった。
「そうまで言われては仕方ありませんね。」
私は、ほっと一息ついた。
「まだお時間は早いようですが、如何致しますか?」
「紅茶をお願い。」
「畏まりました。」
バッチリ目が冴えきってるので、今更、寝れんっ!
私の一日のスケジュールは意外と忙しい。週3で家庭教師が屋敷を訪れるので、週の3日は、自由がない。
元々、義弟の為の家庭教師だったのだが、義弟とは同じ年なので、一緒に習ってる。
他の4日についても、なんやかんやで一日が埋まってる。埋まってない時間は、フラフラと出歩いてしまうので、何かしらで埋められてしまう。
うーん、窮屈だ。
悪役令嬢の元祖とも言われるアレに習って謙虚堅実な塾に通うか?
って無いからっ!そんなものこの世界には・・・。
私が屋敷にいる時は、お母様とのお茶会が15時から、開催される。
単なる3時のおやつなのだが、お茶会と呼ぶらしい。
「アウエリア、何か困ったことはない?あなたはうちの子なのだから、遠慮せずに何でも言っていいのよ。」
「では、貴族学院に行きたくないです。」
「それは駄目よ。」
「・・・。」
何でもって言ったのに!
「貴族学院へ行くのは貴族の義務よ。」
「王族は行かれない方も居ますよね?」
「あら、王族は王族よ。貴族ではないわ。」
「公爵家の方も行かれない事があるとか。」
「ごめんなさい。うちは侯爵家なの。」
くっ、どうあっても貴族学院は回避できそうないらしい。
てか、前世の時から思ってたのだけど、公爵と侯爵って言い方同じなのに、なんで会話が成り立つの?
同じ呼び方でややこしいわっ!
「それ以外の事なら何でも言ってちょうだい。」
「特にありません。」
「あら、すねちゃったかしら?貴族の義務だけは、私にはどうしようもないの。ごめんなさいね。」
ノブレス・オブリージュ。
前世の時は、ちょっと憧れたりもしたもんだけど。
め、面倒くせえ。
嫌だよノブレス君、お前は強制力の回し者かっ!
「ちなみにアウエリアは社交界に出る気はないのよね?」
「全くありません。全力で拒否します。」
実父を告発したような私が、そんなものに出た日には、標的以外のなにものでもないだろう。
「社交は令嬢の嗜みなのだけど、さすがに義務ではないから。」
ノブレス君が出るなら、私は、孤児院へ家出する。
「12歳のお披露目はどうするの?」
困ったことに、貴族にはお披露目なんてものが存在する。
「いつの間にか終わったことにしましょう。」
うん、それが一番。
「駄目に決まってるでしょ?」
「私は晒し者にはなりたくありません。」
「・・・。」
「・・・。」
無言で見つめ合う私と義母。
「では、アーマード伯爵一家だけ、お呼びしましょう。」
アーマード伯爵は、義父の弟で、領地を引き継いだ方だ。
「家出しても?」
「あら?リリアーヌから逃げられるとでも?」
私は、後ろに控えているリリアーヌを見た。
何やら不気味な微笑みを浮かべている。
こんな感じで無事お茶会は終了した。
どこが無事なんだ・・・。
「リリアーヌ、こう毎日、日程が詰まっていたら息が詰まります。」
「確かに、いくら貴族の令嬢といえども、今のスケジュールは酷ですね。」
「わかってくれるのね。」
「はい。」
「家を出ようと思うの。」
「なるほど、家出ですね。」
「いえ、出家よ。」
「出家?」
「家を出て孤児院に入ることよ。」
本当は仏門に入ることなんだけど、この世界に仏門はないので、どりあえず孤児院に置き換えた。
「本気で?」
「ええ。」
「なら仕方ありません。とりあえずお嬢様を縛り上げてから奥様に報告します。」
「見逃してくれないの?」
「はい。」
ぐぬぬぬ。
「折衷案があります。」
「とりあえず聞こうかしら?」
「私が奥様に報告して、スケジュールをもっと緩やかにしてもらうというのは、如何でしょう?」
「リリアーヌがお母様を説得してくれるの?」
「はい、私がきょ・・・説得いたします。」
えっ?きょ、脅迫って言いそうだった?
まさかね・・・、私の勘違いよね?
「なので、出家はしないでください。」
「わかったわ。とりあえずリリアーヌに任せます。」
それから直ぐに、私のスケジュールが見直されることになった。
って、リリアーヌ、どんな脅迫したのっ!?