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翌朝、紅茶の香りに目覚めると、テーブルには、ヘスティナさんが腰かけていた。
「おはよう、ヘスティナさん。」
「おはようございます。お嬢様。」
私がテーブルに座ると、私とヘスティナさんの紅茶が置かれた。
「お嬢様は、いつも自分で起きるのですか?」
「お嬢様は紅茶の香りで目覚めます。」
「素敵ですね。貴族とはそういうものなのでしょうか?」
「いえ、お嬢様だけです。お嬢様は、人に起こされるのが苦手ですので。」
ふみゃふみゃ。
私は、眠いので目をこすった後、紅茶を口にした。
うん、今日も美味しい。
「この紅茶、美味しいのですが、宿にあったのですか?」
「いえ、茶葉は持ってきました。」
「凄いですね。」
ふと、私は昨夜の事を思い出す。
ここに、ヘスティナさんが居るって事は、この部屋で寝たのだろうか?
「ヘスティナさんは、結局、何処で寝たの?」
「はい、お嬢様の隣のベッドで。」
はて・・・、するとリリアーヌは?
何となく、昨晩は、お母様と一緒に寝た時の感じ、所謂、誰かにギュッとされた気がするのだが・・・。
「リリアーヌは、何処で?」
「お嬢様はプニプニしておりました。」
こ、こいつ!私を抱き枕代わりにっ!
ていうか、側仕えが一緒に寝るってどうなの?えっ!?
まあいいか・・・。
「今日は、何するんだっけ?」
私は、リリアーヌに聞いた。
「町の中の散策です。」
「鉱山の町って、観光名所とかあるのかしら?」
「露店で未加工の宝石や、小さなアクセサリーなんかが、売っていますよ。」
ヘスティナさんが答えてくれた。
という事は、今日はショッピングか。
私は、平民っぽい服に着替えた。
昨日の探検家風で良かったのに、リリアーヌに却下された。
2日くらい同じの着たって大丈夫だろうに・・・。
朝食をとる為に宿屋の1階の食堂に行くと、既にドワーフ達が居た。
さすがに、朝っぱらから飲んではいなかったが。
「どうだい、よく眠れたか?」
ディグレットさんが私たちに聞いてきた。
「普通に。」
私はいつもと変わることなく睡眠がとれたので、素直に答えた。
「大した肝っ玉だ。」
「私はあんまり・・・。」
どうやら、エンリさんは寝不足の様だ。
ティグレットさん以外のドワーフは、いつも通り、鉱山に向かうようだ。
散策組の私たちが宿を出ると、宿の入り口には、ヒャッハーなボスが待機していた。
「おはようございます、お嬢様。」
相変わらず、中身イケメンだ。
「おはよう、パーシヴァルさん。」
私が名前を間違えずに言えたことに、驚いたのか、パーシヴァルさんは絶句した。
ふっ、横文字は確かに苦手だが、聖杯の騎士の名は、覚えているのだよ。
前にガウェインと間違えたのはご愛敬。
「仲間内では、パーシと呼ばれていますので、パーシとお呼びください。」
「わかったわ、パーシさん。」
短いにこしたことは無いので、素直に受け入れた。
「私は、一般市民ですので、さん付けは不要ですよ。お嬢様は、貴族ですから。」
ええー?そういうもん?
使用人なら、まだしもねえ・・・。
「じゃ、じゃあ、パーシで。」
「はい。」
「お嬢様、私にも、さん付けは不要です。」
何故か、ヘスティナさんまで、言ってきた。
「下賤な冒険者ですし。」
下賤って、A級は別格だと思うんだけど・・・。
「下賤なハーフエルフですし。」
まだ言うか・・・。
「はいはい、じゃあ、ヘスティナで。」
「お嬢様、私も呼び捨てで構いませんよ。出入りの業者ですし。」
エンリさんまで言ってきた。
「はいはい。」
もう面倒になってきたので、適当に返事をした。
「お嬢様、私も。」
「いや、あんたにさんを付けたことないわっ!」
何故か乗っかってきたリリアーヌに思いっきり突っ込んでしまった。
「あんたらは、寝てないんじゃろ?後はわしらに任せて休んでくれ。」
ディグレットさんが、寝ずの番をしていたパーシ達を労った。
大人だ・・・。
私、リリアーヌ、ディグレットさん、エンリ、ヘスティナの5名で、町を散策する。
リリアーヌが何やらよからぬものを取り出すのを私は見逃さなかった。
ガシっとリリアーヌの両手首を掴む。
「何をなさるのですか、お嬢様。」
「それは、こっちのセリフよ。」
こいつ、町中の散策なのに、迷子紐をつけようとしてやがった。許せんっ!
「昨日は、私の視界から消えてしまいましたので。」
「昨日は昨日、今日は今日でしょ?」
「一度ある事は、二度あると言いますし。」
まったく引き下がる様子がないリリアーヌ。
「わしとヘスティナが居れば、大丈夫だろう。なあヘスティナ。」
「昨日は、私が先見に出ておりましたので、あのような失態は致しません。」
「お嬢ちゃんも嫌がってるようだし。」
そう言ってディグレットさんが、リリアーヌを諫めてくれた。
「わかりました。折衷案です。」
そう言って、リリアーヌは私の左手をとった。
くっ、仕方がない。
恥ずかしいが、手を繋ぐ事は妥協しよう。
すると私の右隣に来たヘスティナが、何故か私の右手をとった。
なんで?
なんかこれ、見た記憶がある。
あれだ、捕まった宇宙人ってやつ。
トレンチコート来たおっさんに連れられた、ローラースケーターだっけ?
「これで危険はありません。」
そう、ヘスティナがドヤ顔した。
A級冒険者の事をこう思うのは不遜かもしれないが、イラっとした。
仕方ない、うん。
しかし、あれだ。
歩きにくい。
父親と母親に両手を繋いだ子供たちに問いたい。
歩きにくくね?
先頭は、ディグレットさんとエンリが歩く。
私たちは、その後ろを付いていく感じだ。
町ゆく人が、チラホラとディグレットさんを見ているのは、噂が出回ってるせいだろう。
暫く、歩いていると、ディグレットさんとエンリが足を止めた。
「ここの石は、小さいけどいい感じですよ、お嬢様。」
エンリが私にそう告げてきた。
どれどれ。
覗き込んでみると、様々な色のメノウが並べてある。
ふむふむ。
「どれでも一つ200ゴールドだよ。」
やっす、メノウやっすぅ!
「今の流行は透明色ですから、透明色じゃない石は、安いんですよね。」
エンリが説明してくれた。
私は、売ってある中で、縞模様が殆ど無い物を選んだ。
「これだけ購入するのですか?」
「ええ。」
リリアーヌがお金を支払い、購入した石はリリアーヌがポケットにしまい込んだ。
小さいからメインにはならないけど、散りばめるなら調度いい感じだ。
あちこちの露店を回り、エンリもいくつか購入していた。
石拾いが中止になったとあって、私と違い、エンリは必死だった。
昼食は、その辺の店で食べたがイマイチだ。
普段、屋敷でいい物しか食べてないから仕方ない。
たまにチープな味が、恋しくなってしまうが、こっちの世界では、チープな味には中々出会えていない。
つっても、異世界転生している身としては、チープな味がどんなもんだったのかは、舌でも脳にも記憶されていなくて、わからないんだけどね。
マヨネーズのように魂に刻み込まれてたら別だけど。
って、私、どんだけ、マヨラーやねんっ!
午後も午前と変わらず散策に。
露店も、もう飽きたなという所で、何やら出し物をやってる店に目が留まった。
参加型の出し物で、店主が投げる3つのボールを木で叩き落せば成功。ボールが体に当たったらアウトだ。
参加料は300ゴールドと若干高めだが、成功報酬は、宝石の原石とあって、ちらほらと参加者はいる。
「あれって、どれ位の価値なの?」
私は、エンリに聞いてみた。
「そうですね、ざっと見た感じでは、2、3千ゴールドという所でしょうか。」
「なるほどね。」
店主のボール投げ技術は中々のもので、宝石の原石をとらせる気は皆無の様だ。
「もし、良かったら私が宝石を取りましょうか?」
ヘスティナが言ってきた。
「えっ、挑戦できるの?」
A級冒険者が、挑戦させてもらえるんだろうか?
「人族にハーフエルフの違いは、わかりませんので大丈夫です。」
本当に?
私は不安を胸に、参加に向かうヘスティナの背をただ見つめた。




