17
夕食が終わり、私は義父と二人で話し合いをする事にした。
「お父様、実は、宝石拾いに行きたいと思いますので、許可を貰えませんか?」
「いし拾いに、アウエリアが?」
「ええ、レントン商会の職人の方が出向かれるというので、一緒に行こうかと。」
「ふむ・・・。」
「反対ですか?」
「いや、場所は王都内だから、危険は少ないので、反対ではない。ただ、まあ、あまり貴族令嬢が出向くような場所では無いからねえ。」
「貴族令嬢?貴族は出向いたりするのですか?」
「まあ、意中の女性にプレゼントする為に、出向いたりする若者は居るよ。」
「へえ。」
「どうしても行きたいのかい?」
「はい。」
「護衛がいれば許可しよう。それも女性の護衛をね。」
「女性の護衛?」
「いし拾いが出来る鉱山は、馬車で半日以上は掛るからね。日帰りという訳にはいかないだろ?」
「なるほど。レントン商会に聞いてみます。」
「ああ。」
「それでは、お父様。お母様への説明は、お願いしますね。」
「えっ?ちょっ、話しはしてないのか?お、おいアウエリアっ。」
何やら呼ばれている気がしたが、私は聞こえないふりをして、その場を後にした。
「お嬢様、宝石拾いの件、どうなりました?」
私の部屋で、リリアーヌが聞いてきた。
「女性の護衛を雇えば、いいと言われたわ。」
「奥様が?」
「いえ、お父様よ。」
「・・・。」
「何?」
「別に何でもありません。」
「明日、街に行くのよね?ついでにレントン商会へ行ってくれると助かるわ。」
「自分で行くと言われない所が成長されましたね。」
「明日は、屋敷で大人しくしてるわ。」
「是非、そうしてください。」
という事で、私は屋敷で大人しくしている事にした。
翌日。
リリアーヌが居ないので、私は一人でクロヒメの所へ向かった。
ダリアは、お茶会に向けて忙しそうだった為、私は一人なのだ。
なんという解放感だろう。
クロヒメの所に行くと、馬具屋の姉ちゃんが居た。
なに、この人・・・もう、うち専属?的な・・・。
「お嬢様、お一人ですか?」
「ええ。」
「そうですか、クロヒメが、お嬢様が騎乗すると力いっぱい走りすぎると聞いていたのですが。」
「ああ、そうね。ただ私は補助がないと乗り降りできないから。」
「それでしたら私が。」
という事で、私はクロヒメに乗る事になった。
で、結果はというといつも通り。
振り落とされないよう必死にしがみついてるだけだ。
馬具屋の姉ちゃんにクロヒメから降ろしてもらい、アドバイスを貰った。
「お嬢様、クロヒメはお嬢様に乗って貰って嬉しいのです。」
「ほぉ。」
「だから後ろから首をさすって、安心させて下さい。落ち着いて、大丈夫よと。」
「ふむふむ。」
「全力を出さずとも、あなたが早いのは判っているわとね。」
「言葉で伝えるの?」
「はい、クロヒメは賢い馬です。それで通じます。」
という事で、もう一度チャレンジ。
勢いよく飛び出そうとするクロヒメを宥める。
馬具屋の姉ちゃんに言われた通り。
最初は、落ち着きがなかったが、次第に慣れてきたのか、スピードも落ち着いた。
あとは、馬具屋の姉ちゃんが騎乗する感じで、私は背筋を真っすぐと伸ばした。
乗馬を終えると馬具屋の姉ちゃんが褒めてくれた。
「いい感じに乗れるようになりましたね。」
「そうね。自分でも判るわ。」
今日の乗馬は、満足のいくものとなった。
乗馬を終え、午後の家庭教師の授業が終わるとリリアーヌが戻ってきた。
「女性の護衛の件ですが、何とかなるそうです。」
「そう、ありがとう。宝石拾いとなると服が必要かしら?」
「服ですか?」
「ええ、まさかスカートを履く訳にはいかないでしょ?」
「鉱山ですからね。」
「メルディを呼んで頂戴。」
「畏まりました。」
翌日、メルディに来てもらう事になった。
私は口で説明するより、目で見て貰った方が解りやすいと思い、デッサンをする事にした。
宝石拾いなら、探検隊だろと勝手に思い込み探検隊の服をデッサンした。
探検隊と言えば、何故か半袖半ズボンだが、そこはあえて長袖長ズボンに変えた。
帽子は、もちろん探検帽だ。
これ大事!
鼻歌交じりでデッサンを終えた。
翌日、メルディにデッサンを見せた。
「これを作るのですか?」
「ええ、申し訳ないけど10日で出来るかしら?」
「何に使われるのでしょう?」
「いし拾いよ。」
「えっ。」
顔を顰められた。
貴族令嬢が宝石拾いに行くのは、やはり好ましくないのだろうか。
「あのクズやニートが行く、いし拾いですか?」
うん、実はこの世界にもニートという言葉がある。もちろん英語でも日本語でもなく、この世界の言葉だ。
ちなみに日本のニートとは違い、この世界のニートには年齢による卒業がない。
晴れて、ただの無職になるなんて事は、永遠に訪れないのだ。
って、卒業したかったら就職しなさいっ!
「クズやニートだけじゃないでしょ?宝石職人も行ってるはずよ。」
「それはそうですが・・・。」
「10日以内に出来る?」
「はい、それは問題ありません。」
「私も同じものをお願いします。」
後方から何かブッこんできた。
「何故、リリアーヌの物が居るの?」
「私も行きますので。」
「え?何で?女性の護衛が居れば、リリアーヌは来なくても大丈夫よ?」
「でしたら、私は、奥様と力を合わせて全力で反対に回りますが、宜しいでしょうか?」
リリアーヌが、ストレートに脅してきた。
ぐぬぬぬ・・・。
「私とリリアーヌの分をお願い。」
不承不承ながら、私はメルディに注文した。
当家で行われるお茶会の準備等で、お母様は忙しいらしく顔を合わせるのは食事の時くらいだ。
お陰で、宝石拾いに関しては何も言われない。
しめしめ。
そんな中、屋敷で飴屋の男性に出くわした。
「ほ、本日は、お、お日柄もよく。」
誰か結婚すんのか・・・。
緊張しまくっていた。
「お茶会の打ち合わせかしら?」
「は、はい。お嬢様のお陰で、この様な大役を。身命を賭して頑張りたいと。」
お茶会ごときに身命を賭けないで・・・。
「無理はしないようにね。」
「は、はい。」
恐縮したまま男は去っていった。
「可哀そうに・・・。」
後ろでボソっとリリアーヌが呟いた。
「何かあるの?」
「今回の件、ダリアは非常に遺憾に思っているはず。」
「そうなの?」
「お茶会を取り仕切るのは、ダリアですから。それをあんな飴細工の男性を関わらせるなんて、シマを荒らされた気分かと。」
どこのヤクザの話?
「ちょっとダリアの様子でも見ようかしら?」
「辞めておいた方がいいと思いますが?」
リリアーヌにそう言われると・・・。
よし、辞めとこう。
触らぬ神に祟りなしって言うしね。
お茶会当日。
私は、お茶会には参加しない。
それは私の我がままではなく、貴族では12歳に満たないものは、そういう催し物には参加しないのが通例だ。
まあ、どっちにしても私は参加しないが。
とりあえず、開始時間には、まだまだ時間があるので、気になった会場を見に行く事に。
今回は、屋外で行われるガーデニングバーティー形式で。
会場に着くと、私は感嘆の息を漏らした。
凄い、花が綺麗に飾られて、その中に、違和感ない感じで飴細工の花も飾られていた。
これは本当の花なの?
食べれるの?
って感じでクロヒメが首を傾げていた。
「ちょっ!クロヒメ駄目よ。食べては駄目っ!」
私は、急いでクロヒメに近づいた。
「ダリアっ!」
私の呼び声にダリアは直ぐに反応した。
「クロヒメには、これを。飾るときに欠けたりした物をとってあります。」
そう言って、ダリアは、私に飴細工を渡した。
「はい、クロヒメ、食べるならこれよ。」
お花?
首を傾げながらモソモソと一口。
その途端、目が細められた。
甘いのだろう。
うん、飴だからな。
美味しそうに、全て食べ終えクロヒメは満足したようだ。
「ダリア、私がクロヒメを厩舎に連れて行くわ。」
「申し訳ありません。よろしくお願いします。」
そうして、私は、クロヒメを厩舎へと連れて行った。
お茶会は大成功だったようで、参加者には、飴細工のお土産もあったようだ。
どんだけ頑張ったんだ、あの兄ちゃん・・・。
合掌。