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ピザート家の厨房に、中力粉や薄力粉の類は存在しなかった。

だから、粉もんは、無い物と諦めていたのにっ!

粉もん好きの血が騒ぐっ。

いや、異世界転生してるから血が騒ぐはないか・・・、

魂が叫んでるっ!


「リリアーヌ、買ってきて。全員分ねっ!」


私はリリアーヌにお願いした。



買ってきた、たこ焼きを全員に配るリリアーヌ。


「申し訳ありません。少々お待ちください。」


たこ焼きを受け取ったヒャッハーなボスは、そう言うとその辺りに居た子供に話しかけた。


「皆で仲良く分けなさい。」


そう言って、たこ焼きを渡すヒャッハーなボス。


ギャップっ!!!


「お待たせしました。私が周囲を警戒しますので、どうぞ。」


兵士な人にそう告げるヒャッハーなボス。

中身イケメンやんけっ!


もういい、気にしたら負けだ。

私は、精神統一しなおし、たこ焼きを覆っていた竹の薄っぺらい奴を開けた。


開けた・・・。


タコがぶつ切りにされた物に、何やらソースをかけて焼いただけの物。


うん、そうね。

たこ焼きっていうよね、これも・・・。


なんでやねんっ!!!


粉もん期待してた私のワクワクを返してっ!


「お嬢様、どうかしましたか?」


「いえ、別に、それよりも美味しい?」


「普通です。」


普通かよ・・・。

こういう買い食いを貴族は、普通しない。

それでも、先に食べるのは側仕えだ。

リリアーヌの食レポにがっかりは、したが、まあそれでも焼いたタコにソースが掛かってりゃあ、間違いはないはず。


私はパクリと一つを食べた。


マヨネエエエエエエエエエエエエエーーーーーーズっ!!!


私の魂がマヨネーズを求めた。

何言ってるかわからないかもしれないが、異世界転生した場合、体が前世のモノとは異なる。当然だけど。

だから、味の記憶ってのは残らない。

そりゃあそうだ。

舌も脳も別もんなんだから。


ただね、魂に刻まれたモノが叫んでるんですよ。


魂がマヨネーズって叫びたがってるんだ!


どこのパクリB級映画かよっと自分で自分に突っ込みたくはなったが。


しかし、どんなに望んでも、この世界でマヨネーズは無理だ。

諦めるしかない。

うん・・・食べるんじゃなかった。



たこ焼き(偽)を食べ終え、メイン通りを歩く。


「お嬢様、甘いものは、いかがでしょうか?」


そう言ったのは、ヒャッハーなボスだった。


なんだこの気遣いは・・・。

よく見た目で損をするなんて耳にするが、その言葉は、ヒャッハーなボスの為にあると言っても過言ではないだろう。


「そうねえ。」


私は、そう言って、周囲の屋台を見回した。

私の目に一つの屋台が目に入った。

客一人いない、端っこにポツンと佇む屋台。


あれだ、負のオーラが出てるっ!


飴屋らしい。

不揃いの格好をした飴が竹串に無造作に巻き付き、並んでる。

様々な色の飴が並んではいるが、あんなの買わんだろ。


私は、その屋台に近づいて声を掛けた。


「これ幾ら?」


「50ゴールドです。」


返事もよそよそしい。


この人、接客向いてねえ。


「ねえ、花の飴は作れないの?」


「花ですか?」


「そう、お花よ。」


「多分、作れますが・・・。」


「じゃあ、作ってくれない?」


「は、はあ・・・。」


男は、そう言って、コネコネと飴細工を始めた。


暫く待った。

いや、私としては、さくっと作って欲しかったんだが、何か拘りがあるのか、結構待った。

そして、出来上がった飴を見て驚愕した。


違うんだよ。

私が言ったのは、竹串に花がちょこっとある感じ。

それを、この男、葉と茎を緑の飴で作成し、見事、バラの一輪を作りおった。


引いた。

あまりの出来栄えに引いた・・・。


「こ、これいくら?」


「え、えっとぉ、3つ分使ったから150ゴールドかなあ?」


や、やっすううう。

駄目だ、この男。

商売に向いてない。

材料費しか考えず、手間賃無しか。


「リリアーヌ、何かこれを容れる物を探してきてくれる?」


「どうするのですか?」


「お母様へのお土産にするわ。」


「なるほど。」


そうして、リリアーヌが買ってきた容れ物は、透明の薄いガラスで作られた物だった。

中に、飴の薔薇を容れると、もう、全てがガラス細工にしか見えなかった。


「ねえ、どうして、こんな腕があるのに、こんな不格好な飴を売っているの?」


「え?だって口の中に入ったら一緒だし・・・。」


駄目だ、全く駄目だ。


「こんなんで、商売になるの?」


「今日は2つ売れました。」


2つって・・・、食っていけるのか、それ?


「それって私が買ったのも入ってるの?」


「はい。」


大丈夫か、マジで?


「飴屋やって、どれくらい?」


「3日目です。」


「前は何をやってたの?」


「ガラス細工職人です。」


なるほど。

腕はある訳だ。


「なんで辞めたの?」


「ガラス工房が潰れました。」


「・・・。」


「仕事が無かったので、嫁の実家から屋台が渡されて。」


「なるほど、仕方なく飴を売ってる訳ね。」


「はい。」


「それで食べていけるの?」


「多分、無理かと。」


「はあ、しょうがないわね。この並べてる飴を全て花に変えなさい。」


「ぜ、全部ですか?」


「茎や葉は不要よ。花だけだからね。」


ちゃんと指定しないと、一輪を並べそうだ。


男は、渋々、花を作り出した。

色別に、いろんな花を。


うん、腕はあるな。


周囲に人だかりは出来ている。

そりゃあ、アレか。

周りから見たら屋台に金持ちがいちゃもんをつけてるように見えるのだろう。

まあ、何でもいい。

必要なのは人目だ。

多ければ多い方がいい。


「一つ頂戴。」

私が一つ受け取る。

お金はリリアーヌが渡した。


そうして、私が食べようとする前に、リリアーヌが花を一片取って口にした。


「どうぞ。」


問題はないようだ。

しかし、このシステム、面倒くさいっ。


では、気を取り直して。

パクリ。


「美味しいわっ。まるでお花を食べているみたい。」


大げさに、大きな声で私は言った。

そう、所謂、サクラという奴だ。


さあ、サクラを見る会の皆さん、食いつきなさいっ!


「私も貰おうかしら?」


「僕も。」


食いついた。

値段は100ゴールドにしろと伝えてあったので、100ゴールドで飛ぶように売れていった。


ある程度、見届けて、私たちはその場を後にした。


「お嬢様は素晴らしいです。」


ヒャッハーなボスが、私に言った。

いや、そんな悪役顔で言われても。

まあ、私も悪役顔だけど・・・。


「別に大したことはしてないわ。」


「いえ、あの飴屋も、これで食べていけるでしょう。」


「本人は、ガラス細工職人に戻りたいのかもしれないわ。」


「それでも、当座のお金は必要でしょう。」


「まあ、そうね。」


「実は、私こう見えて、孤児院出身なのです。」


「・・・。」


こう見えてって何?

突っ込むところ?

孤児院出身って言われて、違和感は微塵もないわ。


「お嬢様の事は、神父様やチビ達から聞いております。」


「そ、そう。」


「聞いていた通りの方でした。」


「どういう風に?」


「全く貴族らしくないと。」


「あっ、そう・・・。」


その後、他愛もない話を終え、ヒャッハーなボスとは貴族街の入場門で別れて、私たちは屋敷へと帰った。


「お母様、お土産です。」


そう言って、私は薔薇の飴を手渡した。


「まあ、なんて綺麗なの。エルミナ、さっそく部屋に飾っておいて。」


「お母様、それ飴なので、なるべく早く食べてください。」


「え?」


「失礼します。」


エルミナが、ガラスケースから飴を取り出し、葉っぱの部分を摘まんで、口に入れた。


「飴ですね。」


「これが、飴?」


なんだろう、お母様の目が爛々と輝きだした気が・・・。


「リリアーヌ、この飴を作った職人は判って?」


「恐らく同じ場所に店を出すと思われますので、明日なら連絡もつくかと。」


「そう、では、明日連絡をとって頂戴。」


「畏まりました。」


なんだ、何の話だろ?


私が首を傾げていると、エルミナが説明してくれた。


「今度、当家でお茶会が開催されます。その時の為に飴職人に飴細工を作って貰う、いわば仕事の依頼ですね。」


ほお、いきなり貴族からの仕事か。

うん、ガラス細工職人に戻るのは諦めてくれ・・・。


私は心の中で、そっと合掌をした。


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