交易の街
「んッ…」
ゆっくりと目が開き視界がだんだん鮮明になっていく。
気が付けば茶色い天井が目に入る。
起き上がる時だった。
柔らかくも弾力のある感触が手に伝わってくる。
私は眩しい光によって目を覚ましていた。
そうだ私は森で…
記憶が鮮明になると同時に周囲を警戒する。
「ここは…?」
視界に飛び込んでくるのは木造の壁にドア、日が差し込む窓にクローゼット・・・
どう見ても平凡な宿の一室だった。
「……?」
思わずお腹に手を当てる。
けれども・・・
痛みも傷痕さえも無かった。
「生きてる…」
あの時私は死を覚悟していた。
もちろん助けて貰うための準備はしていたけど・・・
事実、致命傷を負った上戦闘中に意識は無くなった訳で生きてる事の方が奇跡だ。
「はぁ…レイさんのおかげ…ですね。」
コンコンッ
「レイだ入っても大丈夫か?」
ノックの音と共に彼の声が聞こえる。
「えぇどうぞ。」
私が答えた瞬間だった。
バンッ!
「…ッ?!」
思わず体に力が入ってしまう。
音のした方に視線を飛ばすとドアが勢い良く開かれていた。
ビックリした…
「…良かった。」
開かれた扉の先には、白髪の男が目を見開いて立っていた。
「なんて顔してるんですか…」
後悔、驚きそして安堵・・・
色んな感情が混ざった酷い顔だった。
「いや…すまない。」
彼は息を着きながら謝る。
「…謝らないで下さい。」
「謝るのは私の方です。」
私は目をそらし答える。
あの謎の魔物…
私の魔力探知を掻い潜り、不意打ちから流れる様な攻撃。
そして刻むつもりで纏った風でさえ弾くにとどまった。
とてつもない耐久力・・・
恐らく森の主だろう。
確かに強かった…
それこそ勇者パーティーに任される様なレベル。
(違う…油断した……)
最初魔力で脅した時・・・
あの時大した事ないとたかを括った。
何より自分の能力を過大評価して不意打ちの可能性を完全に除外していた。
もしあの時最大限まで警戒していたら…
頭の中で言い訳がこだまする。
(いや、それに意味は無いか…私は負けたんだ)
(悪い癖だ……)
沈黙が流れ、それを破るようにレイが口を開く。
「まぁ何だ…」
「お互い生きてんだし?」
「悲観することもないだろう…?」
「そうですね…お陰様で何とか……」
「ありがとうございます。」
気まずそうな彼に優しく微笑みかけるのだった。
―――――――――――――――――――――――――
「そうですか…2日も……」
彼女は申し訳なさそうに目を伏せる。
俺たちは冒険者ギルドに向かいながら、例の魔物の事や彼女がしばらく眠っていた事なんかを話していた。
「なぁに心配するな俺も昨日目を覚ましたばかりだ。」
「そのお陰で人との縁もできた。」
ここは、交易の街マークリー。
食べ物や日用品の様な一般的な物から、冒険者の武具や貴族、王族向けの貴重品…ありとあらゆる物が手に入ると言われている。
もちろん人も例外無く、人脈さえも手に入れる事ができるのだ。
そのせいで買い物客に始まり、王族や貴族とのパイプ目的の人に、依頼目的の冒険者何かもここに集まり人が居ない場所を見つけるのが難しい程。
実際しばらく歩いたものの、何処も彼処も商人たちが商売をしていて売り場を目に入れないのが難しいほどだった。
そんな場所なのだ。
ここに来ると決めた時点で人との縁が繋がったのは必然とも言えるかもしれない。
「縁…ですか?」
彼女は少し気まずそうに答える。
(そういえば監視役だったな…)
恐らくあまり顔を知られたく無いのだろう。
「あぁ…そういえばまだ話していなかったな。」
「実は森を抜けた後2人とも気絶してな…」
「そんな俺達を運んでくれた人がいるんだ。」
「シオンの事をよく知っているようだったぞ?」
「私の事をですか…?」
「そうそう!」
「しかも合うのにわざわざ合言葉をしていされたんだ。」
「確か…」
「『幻想は夢、死者は幻想を、生者は夢を見る』」
「って言う…」
そこまで言って違和感に気がつく。
(一瞬表情が固くなった?)
気のせいだろうか…?
いつもならスルーしてしまう程の些細な違和感。
けれど1度気づいたそれは確実に疑問として残ってしまう。
「…どうかしたか?」
気が付けばそう聞いてしまっていた。
「いえ…特に……」
煮え切らない、歯切れが悪い返事…
何か言いにくい事なのだろう。
(まぁ無理に聞かない方がいいか。)
「そうか?」
「ならいいが…」
「って着いたか。」
気が付けば目の前には人混みが小さく見える程立派な建物が鎮座していた。
冒険者ギルドと書かれた巨大な看板が青塗りの独特な形の屋根に貼り付けられている。
白塗りの壁と相まって目がチカチカする・・・
「そうみたいですね。」
「相変わらず目が痛くなります…」
手で影を作りながら呟く。
そんな彼女を横目で見る・・・
(…こうみるとほんとただの少女にしか見ないよな〜)
ただちっちゃい子がお天道様を眩しがってるようにしか見えない。
「レイさん…?」
「どうかしましたか?」
「…ん?」
「悪い…行こうか。」
シオンに促されながら人混みをかき分けながら建物に入るのだった。
―――――――――――――――――――
「は、初めまして〜!」
「受付を担当させていただきます!」
「カリンと申します!」
「よろしくお願いします!」
受付カウンターに行くなり早々に甲高い元気な挨拶が聞こえてきた。
淡いオレンジのボーイッシュな髪型、青と白を基調としたタイトな制服・・・
カリンと名乗った女性は見た目からも元気が伝わってくる様な女性だった。
「あ、あぁ…よろしく。」
「俺はレイだ。」
思わずその元気にたじろいでしまう。
「私はシオンです。」
(あれ…シオンさんいつもより声のトーンが低い…)
機嫌が悪い気がする。
「シオンさんとレイさんっすね〜」
「今回はどの様な依頼をお探しですか〜?」
「薬草採集?人探し?それとも魔物討伐!?」
なんと言うか…うるさ・・・
元気な子だうん。
横目で一瞬シオンを見る・・・
目が合う。
瞬間
俺の後ろに自然に隠れてしまった。
シオンさんこう言うタイプは苦手なのな・・・
(じゃなくて…とりあえず……)
「え、えっと…人探しになるのかな?」
「『幻想は夢、死者は幻想を、生者は夢を見る』…デイイノカナ」
その言葉を聞いたカリンから変人でも見るような目で見られる。
(おっとぉ?…覚え間違いしてたか?)
思わず目を逸らす。
(あれほんとに間違えた?)
(こんな思春期の男子みたいな合言葉が間違い?!)
沈黙と同時に顔が少しずつ熱くなていく…
真っ赤になってる気がする。
物凄く恥ずかしい。
思わずシオンの方をちらりと見る。
呆れ顔でため息をつきながら・・・
「はぁ…思い出してください」
「『幻想は夢、死者は幻想を、生者は夢を見る』ですよ」
面倒くさそうに言い放つ。
どうやら間違ってはいないようだが…
(あれ?)
(どうして間違ってないと分かるんだ…?)
シオンの方は相変わらず気だるげだ。
カリンにも視線を飛ばす。
そこには、?を浮かべながらも何やら難しい顔があった。
あぁこれはあれだ…
家の鍵をかけたかどうか忘れた時。
記憶は無いけど何となく鍵はかけた様な感覚がある時の顔だ。
それから少しして彼女は手をポンっとして・・・
「あぁぁ!」
「なるほど〜そういう事ですか!」
「レイさん少し待ってて下さい!」
ギルド全体に響くような声を上げながらドタバタとカウンターの奥へ消えていく。
「騒がしいです…」
「ハハ…ソウダネー」
彼女の姿が消えるとムスッとしたシオンがズイッと横に生えて来るのだった。




