異物
森の中心
緑溢れる地であったそこに深い谷ができた。
まるで大地が裂けたような跡。
シオンの魔法
終焉の風槍・・・
たった一つの魔法によって出来た跡。
地形すら変える程の凄まじい威力。
全ての命を刈り取るような一撃だった・・・
にも関わらず2つの命がそこにはあった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ……!」
1つの命の絶叫が・・・
後悔が谷底にこだまする。
(どうして?)
(想像する限り最高の流れだった。)
(勝てるはずだったのに…!)
本来なら負けるはずは無い状況だった。
それなのに結果は・・・
満身創痍
下半身は消し飛び、残った上半身も腕一本を残すのみだった。
明らかに死の1歩手前。
それでも少しずつ…確実に体を再生する。
そしてもう1人…
無傷どころか塵一つ無い純白のワンピースに身を包んだ1人の少女がいた。
四天王の1人イアだった。
「まさか…人間にも『魔法』を使える子が居るなんてねぇ…」
面白い
出てくるのはシンプルな感想。
同じレベルの魔法にもその精度によってレベル差が生まれる。
人間社会で常識とされている魔法は魔族からすれば魔法と呼べる代物じゃない。
詠唱、魔力操作あらゆる点でお粗末な物だ…
(しかもあの青い瞳…)
「多分…神の血筋か……」
思わず笑みが漏れる。
完全に予想外の出来事だった。
「それで…?」
「こっちはこっちで馬鹿げた耐久性してるね…」
「はぁ…めんどくさぁ」
私は音もなく一瞬でそいつの前に移動する。
「ギャ…ヒィ……!?」
私に気が付いた瞬間。
それは素っ頓狂な声を上げながら後退る。
ウジ虫の様で気持ち悪い。
そいつの顔をのぞき込み
全てを見透かすように見つめる。
「ふーん…そう言う事か……」
「お前…話せるだろう?」
「ッ………?!」
その一言を聞いた瞬間。
表情が固まり呼吸が止まる。
「あはっ…図星か?」
明らかな動揺。
これで逃がす理由が無くなった。
私はそいつの体を踏みつけ、殺気を放ちながら・・・
「魔物って言うのはさ…無意識に魔力に込められた週間や形が魔石を核として集まった生物なんだよね…」
「だからね?」
「お前みたいに人と竜を掛け合わせた様な過去の生物……」
「ドラゴニュートは普通なら生まれないの。」
ドラゴニュート
数千年前確実に存在した生物。
成長が早く、群れで生活し知能もある。
そして人とは比べ物にならない程の身体能力…
あらゆる面で万能の生物。
オマケに生身でも人より遥かに頑丈であらゆる物理的攻撃に対して耐性を持っていたらしい。
もちろん今では絶滅していて、その存在を知る者すらほとんど居ない。
なのにこいつは魔物としてここに居る。
(……忌々しい。)
奥歯がギリギリとなる音が響く。
あぁいけない…
頭に血が上っている。
冷静にならないと。
(深呼吸……)
「ふぅ…それで……?」
「お前…誰にその記憶を与えられた?」
心の底から凍りつくような酷く冷たい声。
それでいて怒気を孕んだ声で問いかける。
「……」
それは懇願するように必死に首を振る。
どうやら脅しすぎたらしい。
声すら出ていない。
「まぁ良い…持ち帰れば済む話だ。」
色々知りたい事がある。
そうでなくても、こいつは簡単には殺さない。
「さぁ…お前はどこまで耐えるかな?」
言い終わった途端イアは力を込める。
メキメキという音を立て始めた次の瞬間にはパキャと言う呆気ない音が響き渡った。
それは断末魔をあげる暇も無く体が砂のように崩れ霧散する。
残ったのはキラキラと紫色に輝く魔石だけだった。
そして魔石を拾い上げ懐に入れた。
「後は…彼女の治療か……」
あのシオンとか言う少女死なせるには惜しい。
けど明らかに致命傷、彼一人には少し荷が重いだろう。
私は急いでその場所に向かう。
――――――――――――――――――――――
「何でそうなるかな……」
私が2人を見つけた時既に2人とも意識を失っていた。
それどころか1人は呼吸も止まっている。
「はぁ…ほんっと手が掛かる……」
意外な事に少女の方はある程度回復していた。
腹の傷もほとんど塞がり呼吸も魔力も安定している。
(これは回復ポーションを使ったのか…?)
(おかしい…)
あれ程の傷に回復ポーション…
どう考えても放置すれば死ぬ組み合わせだ。
それなのに彼女は回復していた。
「まさか…無意識で魔力を操作したの?」
無意識での魔力操作…
人間からすればとんでもない芸当。
言ってしまえば自分の首を抱えて走る様なものだ。
魔族であれば本能的、生物の法則的な部分で可能かもしれない。
そのレベルまで人間が、努力だけでできるようになるのだろうか?
様々な憶測が頭の中を巡る。
私の他にもこの子達を援護する奴が居た?
心当たりはある。
でも今回は違う、気配も魔力も何もかも感じなかった。
じゃあこの子の魔法?
それともそう言うアイテムが?
どれもしっくり来ない。
(まさか本当に無意識に魔力を安定させたの?)
無意識に…そして誰の手も借りずに
そんな無茶が有り得るのだろうか?
「いや…理由は後だそれよりも」
何故かボロボロのレイに視線を飛ばす。
顔の穴と言う穴から血が出た痕が見える。
それだけじゃない、体が所々紫色に染っていた。
右手でそっと彼の胸に触れる。
体温はある。
心臓もまだ微かに動いている。
でも・・・
「魔力は…酷いな……」
生命の源である魔力・・・
それが有り得ない程乱れていた。
ほとんどの僧侶が手遅れだと判断するレベル。
「ふぅ…仕方ない……」
「少し乱暴しようか…!」
イメージする。
身体中の血管、細胞に至るまで本来魔力が通っている場所に私の魔力で満たし魔力を通す道を作る。
だんだん損傷箇所が鮮明になる。
「何これ…何したらこんなになる訳?」
骨折に筋肉断裂、肺に穴、内臓破裂、挙句の果てには神経までズタボロ・・・
無事なのは両腕くらいか?
生きているのが不思議なくらいだ。
しかも一番酷いのは脳・・・
「クソッ脳は…ダメだ知らない……」
魔法で再現出来るのは想像できる範囲まで。
そして私の知らない事は想像できない。
ならどうする?
答えは単純。
人間本来の自己再生能力に任せてしまえばいい。
「この魔法は嫌いなんだけどなぁ…はぁ……」
「『その身は深淵に落ち蝕まれ
緋に落ちた鳥は影の中輝く…
闇に染まったかの者に
死を拒絶する力を与えたまえ』」
「『創生回復』!」
刹那
大きな振動が手に伝わる。
一定のリズムを刻みどんどん振動が大きくなる。
それと同時に魔力が落ち着き静かな流れを作っていた。
「こんなもんかな?」
おもむろに立ち上がり女の方を見つめる。
「彼女も…大丈夫そうかな。」
レイを治療している間にも確実に魔力が安定し元の大きさを取り戻していた。
私は空中に手を伸ばす。
パリッ
薄い膜が裂ける様な音と共に空間が割れる。
そして私はその裂け目に身を落とすのだった。




