急襲
「ご馳走様。」
「…意外と現地調達も悪くないな。」
イノシシの香草焼きやキノコの塩焼き、デザートには新鮮なベリー。
テーブルの上には空っぽの皿が並んでいた。
全て現地で調達したとは思えない程美味しいものだった。
味はもちろん、雰囲気も含めて全て完璧だった。
旅の途中と言うよりもキャンプをしているかの様な気分。
昔冒険者になる為の修行と称して、小さい頃リオと2人でキャンプをした時の事を思い出す。
「ご馳走様でした。」
彼女は丁寧に手を合わせる。
何処と無く満足そうだ。
「もう少ししたら出発しましょうか。」
「それで…一応確認ですが今日はどうしますか?」
シオンは口元を拭いながら問いかける。
「あぁ…この後の平原まで最短距離で突っ切っていいと思う。」
「東には森の主、西にはオークの群れは避けたい…」
「もちろんいつらを避けるなら、森を出るまで雑魚の戦闘続きになる事は必然だけどな。」
夜の森が危険、と言うのは誰もが知る一般常識だ。
比較的、街に近いここも例外では無い。
森を抜け平原に出れば最初の関門は突破と言える。
逆を言えばここが正念場・・・
「そうですね。」
「私もそれがいいと思います。」
「食料も十分ですし、最初よりはまだ魔物の気配もかなり少ない。」
そうは言っても空は夕焼けに染まっている。
「…出発するか。」
レイはおもむろに立ち上がり、足元のバッグを背負う。
「えぇ…行きましょう!」
彼女はそう言いながらゆっくり立ち上がり伸びをする。
「ん…ふぅ…」
可愛らしい吐息が漏れる。
そしてテーブルに立てかけた杖を手に取りフードを深く被った。
「先行は頼んだ。」
「任せて…」
彼女はそう言うと魔力を杖に込める。
フッと風が巻き上がりシオンの体が宙に浮き目が青く輝く。
「遅れないでくださいね?」
不敵に笑いながらその言葉を告げた。
次の瞬間・・・
「…!?」
肌に刺すような感覚が走り、たまらず顔を腕で覆う。
どうやら突風が吹き荒れ、小石何かの小さな物が吹き飛ばされたらしい。
「おいおい…やり過ぎだろ……」
目を開けると、そこにはえぐれた地面、ズタボロの木々が残っていた。
まるで何かが爆ぜたような跡だ。
思わず自分の腕に手を伸ばす。
返ってきたのは水っぽい感触…
鉄っぽい匂いもする。
「これだけでも十分凶器だな…」
「…強化!」
俺は身体強化をしてその後を追う。
――――――――――――――――――――
「邪魔…」
目の前の相手に向かって腕を横に振る。
パシュ
それは微動だにせず次の瞬間には肉片…魔石すら残さずに消え去った。
障害物が迫る度に塵が増えるか、落雷のような音が響き渡る。
それの繰り返し。
私は出口まで、文字通り一直線に向かっていく。
この調子で行けば、夜までには街までいける程の速さ。
普通の人間はおろか、そこら辺の魔族ですらこのスピードに付いてくるのは難しいだろう。
でも……
「やっぱりこれで最弱は…ハァ……」
思わずため息が出てくる。
付かず離れず…いや私が障害物刻む度に少しずつ、本の僅かに近付いて来る1つの気配があった。
勇者パーティーを最弱と言う理由で追放された人間の気配・・・
思わず鳥肌が立ってしまう。
(しかもあの時よりも速い…)
(手を抜かれていた?)
一瞬怒りが込み上げる。
その感情を頭を振って追い出す。
いや違う…あれが手抜きでない事は私が一番よく知っている。
そうなれば、この短時間で彼自身が成長した事になる。
元々の強さに加えてこの成長速度…
どう考えても追放される程、将来性が無いとは思えない。
確かに勇者パーティーは化け物ぞろいだ。
未来視持ち勇者のリオ
10歳にして天才魔法使いのミラ
世界でも5本の指に入ると言われる僧侶のアリス
斧神と無傷の盾と言う2つ名を持つガウス
それぞれが単独で魔族討伐を軽く成し得てしまう実力者だ。
それでも彼ならあと2年もすれば勇者達に追いつき、下手すると追い越してしまうのでは無いか、と思ってしまう。
そんな考え事の最中だった・・・
「…?!」
いきなり視界が揺れて暗転する。
「ゲホゲホッ…」
息が吸えない…
頭が痛い…
身体中の骨がきしむ。
「?!」
わけも分からないままふわりと体が浮く。
遅れて…
バキッと言う音と共に鈍痛が体に響く。
反射で風魔法を展開し体に纏う…
が腹部に鋭い痛みが走る。
どうやら何かに貫かれたらしい。
「カヒュ…ゴフッ…」
口の中に懐かしい味が広がる。
それと同時に体から力が抜け、ダラリと手足が落ちる。
(まずい…これは思ったより……)
意識を繋ぐ事に全力を注ぐ。
油断した…
不意打ちなんて…
「ケヒッ…ヒャヒャヒャ……!」
気色の悪い不快な…耳に残る様な笑い声が聞こえる。
同時に嫌な魔力周囲に広がり空気が重くなる。
そして顔の近くに悪意に満ちた魔力がゆっくりと近づく気配。
(魔法を…ダメだ…今使えば意識が……)
本来なら致命傷の一撃。
膨大な魔力のおかげで死んではいないが意識を繋ぐので精一杯だった。
万事休すか…
あぁダメだなぁ…
攻撃されるまで気付かないなんて…
仕事が始まったばかりなのに…
後悔と恐怖が頭に駆け巡る。
(でも…)
私は諦めないと…誓った。
小さな少女の可愛らしい笑顔が脳裏をチラつく。
あの子が居なくなった日から…!
「舐めやがって…殺す…」
私は一縷の望みを賭け、意識を繋いでいる魔力を攻撃に回す。
バチッ
眼前に迫っていたそれを弾き飛ばす。
「『古きっ…祈りが伝えられ……儚き祈りは放たれた…風の精霊よ…其の力で…我が祈りを支えたまえ……』」
意識も絶え絶えになりながら詠唱の度に風が集まり槍の形を作る。
「ヒギィ?!」
私を刺したそいつから焦ったような叫びが聞こえる。
バチィッ
何かが弾かれたような音が聞こえる。
一度や二度ならず魔法が完成に近付く度に、音がなる頻度が高くなる。
「ヒッヒィッ…!」
その声は次第に恐怖に染まる。
目は見えない。
でも魔力を読む事で、攻撃したい場所、そいつの弱点の場所くらいわかる。
そして私を貫いている物がそいつの一部だと言う事に気がつく。
多分尻尾か何かだろう。
私は尻尾以外の、そいつからの攻撃を全て風で切り刻む。
「『終焉の風槍』」
唱え終わった瞬間世界から音が消える。
どうやらそろそろ限界らしい。
それと同時に体を貫いていた尻尾が引き抜かれようとする。
でもさせない
「逃がす訳ないじゃん……
お前も…一発くらい貰っとけよ…ゲホゲホッ…」
私はその尻尾にしがみつく。
(やっぱりこいつ生まれたてか…)
そいつは焦って尻尾をブンブンと振り回す。
ズルッ
ベチャ……
水たまりに重いものを落とした様な音が響く。
それと最後に私の意識はプツリと途絶えた。




