門出の前日
「レイさん、結構無茶しますね…」
彼女はそう言いながら床に膝をつけながら淡い光で俺を包み込んでいた。
「俺にはそれしか無いからな。」
「それに無理するのはシオンもだろう。」
死闘戦…模擬戦が終わりシオンから治療を受けつつ、模擬戦の振り返りをしていた。
「ふふっ…流石に私でも自分から、風魔法に突っ込むようなことはしません。」
「それに…もしあの時もっと威力が高かったら細切れになってましたよ。」
俺は返答に困り苦笑する。
あの時、決して無策で突っ込んだ訳じゃない。
体に風を纏うのにはリスクがかなり高い、つまりある程度威力を落としていると予想したから突っ込んだ。
ただ風を纏った状態での近接戦をして俺の判断は間違いだったと確信した。
俺のスピードに合わせて、回避し体勢を整えたり、風の刃をいきなりただの暴風に変えたり…かなり細かい調整をしていた。
彼女は恐らく自分を切り刻む位なら簡単にできた。
「まぁそうだよな…」
だからこそ模擬戦じゃなければ…ただの殺し合いであればもっと早い段階で俺は死んでいただろう。
「あれは流石に無茶だったと思う。」
「にしても風魔法ってさ…結構応用の利く魔法だったんだな。」
「正直ああ言う使い方は初めて見たよ。」
「実は魔法って全部便利なんですよ…」
「誰も彼も取り憑かれた用に教科書通り、お手本通りの使い方しかしないだけで…」
悔しそうに…憐れむように呟く。
「そんな中あれを見た事が無いのは仕方ないですよ。」
「あれは私のオリジナルの技ですから。」
「だからこその切り札…まぁ使う事はほぼありませんけどね。」
そう言う彼女はどこか誇らしげで懐かしそうな表情を浮かべていた。
「レイさんこそ、しれっと弱体化魔法かけてたでしょ…」
「弱体化魔法の方は触れる事、もしくは詠唱が発動条件…と言ったところですか。」
「っとこれで回復は終わりです。」
言い終わると彼女は
スっと
立ち上がる。
「んっ…ふぅ…」
伸びをすると同時に、気の抜けた声が聞こえてくる。
「あぁ、ありがとう。」
俺はゆっくりと立ち上がりながら、腕の感覚を確認し、一息つく。
「発動条件は正解…まぁ一瞬で解除されたみたいだけどな…」
顔面に向かって殴りつけた時、弱体化魔法をかけていた。
その後すぐ彼女に致命的な隙ができたせいで、すっかり効いたと勘違いしていた。
なんせウィンドタイガー相手ですら、かなりの弱体化ができたやつで、それなりに強力で厄介な魔法だ。
だけど実際はそんなことは無く防御に対する絶対的な自信とその後のカウンター見越しての行動だった。
「今は…私はそこそこ強いので…」
一瞬少し寂しそうな表情が顔を出す。
「それで、この後どうします?」
「私的には出発は明日、この後は必要な物を揃えて体を休めたい所ですが…」
「だな…思ってた倍は疲れたし、どうせ明日から忙しくなるんだ今日はゆっくりしようか。」
正直ここまで消耗するとは思っていなかった。
いや、意地を張ったのが原因ではあるのだが…
(軽い手合せのつもりだったんだがな…)
「ではそのように…あぁ、それと今から私は旅に必要な手続きは私が済ませて来ます。」
「なので買い物には1人で行ってください。」
彼女は淡々と話を進める。
「それは助かるが…あれ代理手続きだとかなり面倒にならなかったか?」
長旅や何ヶ月にも渡る長期間の依頼を受ける時は冒険者ギルドに申請が必要になる。
しかも審査内容もかなり厳しい上、申請が通らなければもちろん依頼は失敗扱いとなり旅もできない。
内容としては、パーティーの健康状態はもちろん資金や非常時の対応、僧侶の同伴、パーティーメンバーの役割、人数、人柄、信頼関係、依頼成功率9割以上、特定の難易度の依頼クリアもしくは魔族の討伐経験etc…
正直これをクリアしているパーティーはほとんど無い。
もちろん厳しいのにも理由がある。
「まぁそこら辺は何とかしますよ。」
「これでも私はかなり信用あるので。」
「まぁそれもそうか……」
「なら俺は準備に徹するとしよう。」
「シオン個人で何か必要な物はあるか?」
彼女は少し悩んで懐から取り出した紙に何かを書き出す。
「これらをお願いします。」
「しかし少し値が張る物もあるのでもし心配なら……」
彼女の言葉を遮るように俺は答える。
「あ〜心配無い。」
「これでも冒険者…元勇者パーティーのメンバーだ旅の金くらいは貯めてあるさ。」
「そうですか……」
「ではお言葉に甘えさせてもらいます!」
「あぁ、そうしてくれ。」
「そうと決まれば俺は早速買い出しに行ってくるとするか。」
「えぇ私も手続きに取り掛かります。」
そうして会話も程々に俺達は別れ、それぞれのやるべき事をやりに行くのだった。
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「魔法瓶と…後、回復ポーションは…買ったか……」
「他は……マンドラゴラと調味料……うへぇ…」
俺は雑貨屋で、人参を二足歩行にして顔をつけた魔術用のスタンダード素材であるマンドラゴラと睨めっこをしていた。
ここに来たのはもちろん旅に必要な物を買うためだ。
シオンから渡された紙に書いていた物や個人的に欲しいもの、旅の必需品等必要と思われる物、中でもこの街特有のアイテムや目的地の道中にある街に行くまでの消耗品と言った物を買い込む。
「おぉ〜あんちゃん!マンドラゴラたぁ珍しいな!」
「どうした魔法の勉強でもするのかい?」
背後から野太いガラガラ声が聞こえる。
「いや、そういう訳では無いんだが急に必要になってな……」
振り向くとそこには大柄な体躯に髭を生やし、エプロンをつけた大男がニコニコして立っていた。
「ん?なら調合か……?」
この大男は店主のジェイド
元冒険者をやっていた事もある強面。
それに拍車をかける様に顔に大きな斜め傷がある。
他にも腕にも無数の切り傷があり右足はゴツイ義足……
ほとんどの初対面の人間からはよく、裏の人間と勘違いされている。
「いや実は旅をする事になってな……」
「その同行者の希望の品だ。」
まぁ見た目とは裏腹にフランクで話しやすく親切だ。
「ほぅ〜旅か……」
「色々あるんだろうな……」
彼は何かを懐かしむ様な表情を浮かべ髭を触る。
ジェイドはそこそこ名の知れた冒険者だった。
色々あって引退したらしいが義足に無数の切り傷を見れば何があったのかは想像に難く無い……
「まぁ…な……」
「だから……何だ……しばらくここに来れ無い。」
「でも安心してくれ、どれだけ長くても二、三ヶ月で戻ってくる予定だ。」
「あと会計も頼む」
俺は心配かけないようできるだけ明るく振る舞う。
それに対して彼は微笑を浮かべながら……
「うむ……」
「まぁ…お前なら心配無いと思っている。」
「この前だって1人でトラの最上種…ウィンドタイガーを倒したらしいじゃねぇか」
「それに魔法使いの同行者も居るんだ……」
「死ぬほうが難しいだろ」
思わず苦笑する。
まるで死ぬ事など想像してない口振り。
「だが分かっているとは思うが……」
ジェイドがそこまで言った所で俺はその続きを口にする。
「『油断はするな』、だろ?」
「わかってるよ…」
「ならいいんだが……」
「まぁ釈迦に説法か……」
彼は話しながらもテキパキと会計を進め気が付けば最後の商品を袋の中に入れる所まで進んでいた
「会計は銀貨4枚だ」
そう言って彼は困ったような笑みを浮かべながら袋を突き出す。
「あいよ…これで頼む」
俺は銀貨を丁度4枚出しながらそれを受け取りながら答える。
「心配するな。」
「そんな事より土産を楽しみにしててくれ。」
死ぬ可能性はある…
ただ可能性だ死ぬ気はサラサラ無い。
「ハハッ」
「わかったよ!お前さんがそう言うなら飛びっきりの土産を期待して待ってるよ!」
「あぁ任せとけ」
「それじゃ明日早いからな……」
「そろそろお暇させて貰う…ありがとうな……」
「あぁ…頑張ってこい…!」
俺はくるりと見を翻し店を後にするのだった。
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「はぁ…とうとう明日か……」
月明かりが指す仄暗い部屋の中物思いにふけっていた。
夜になると頭の中を思考が駆け巡る。
良くない癖だとは思いつつもなかなか寝られない。
「はぁ……」
俺は大きく息をつきながら全身から力を抜く……
弾力のあるベッド。
サラサラと肌触りの良いシーツ。
普段はとは違い爽やかなローズマリーの香りが鼻を通り抜ける。
心地よいシーツの冷たさが伝わる……
それと同時に一気に疲れが出る。
その感覚を最後に瞼がストンと落ちた。




