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VSシオン2

後ろは壁、横に逃げる動作も無い。

杖も拾えていない。


(いける…!)


治癒魔法をかけながらゆっくりと立ち上がるシオン目掛けて一閃。

確実に腕を落とす一撃を繰り出す。


バキッパキッ…


肉が切れる感触、骨が軋む音、腕が落ちる音…

手に伝わるはずの感触、聞こえてくるはずだった音の代わりに聞こえたのは木が軋み、砕ける音だった。


「はっ?」

無意識の内に驚きが言葉になり、シオンに目が奪われる。

手には、握っていたはずの木製のナイフの硬い感触とは似ても似つかない粉を吹いた感触が広がり体勢が崩れるのを感じる。


「戦闘中に考え事は御法度だよ?」


その透き通った声に我に返る。

気がつくと小さな拳が眼前に迫っていた。

「クソ…!」


紙一重で体を反らし躱す。

が何かに押されて地面に叩き付けられるように、横に吹っ飛ばされる。


「ガハッ……ゲホゲホッ!」


全身に衝撃が走り呼吸が一瞬止まる。

頭も打ったのか視界が揺れて耳鳴りがする。


(何が起こった?風か?)

(いや、だがあの至近距離だ魔法を使ったならあいつもタダじゃ済まない…)

(そうじゃない、今は追撃に備えないと…!)


ふらつく体を無理に起こす。


「正直驚いたよ」


透き通った声に混じって小さな風きり音が聞こえる。


切り札(これ)を使うつもりは無かったんだけど」


彼女の方を見ると文字通り薄い風を全身に纏った彼女が立っていた。


「おいおい…まじか」


風を纏う。

それは初めて見る光景だった。

彼女の特に人体の急所になる場所を避けるように、今にも暴れだしそうな風の刃が幾重にも重なり不気味な音を立てている。

彼女の姿をはっきりと捉えられる、それなのに視界が歪められた様な…

そんな奇妙な感覚に陥ってしまう。


「これ…ほんとは使うつもり無かったんだよね」

「ちょっと気を抜くと私が切り刻まれちゃうし、魔力も結構使うし、疲れるしさ」

「だから…これを私に出せたんだから、もうちょっと楽しませてね?」


言い終わりと同時に彼女の姿が拡大される。

「んなッ…?!はやッ…!」

一瞬脳がフリーズする。

俺は決して彼女から目を離していない。

と言うか離せるわけが無い。


なのに、気がつけば彼女は目の前で拳を振りかぶっていた。

カンを頼りに体の軸を左にずらし、何とか彼女の攻撃を避ける。


おかげで拳は逸れた。

が頬に熱が走り血が流れる。


でも痛みに気を取られる暇は無い。

次の瞬間には左から蹴りが飛んでくる。


何とか避けようとするが間に合わない。


(ダメだ…ならせめてあの場所に…!)


紙一重で腕を挟み込むが思い切り吹き飛ばされ壁に激突する。


ドゴッッと言う鈍い音と軽い木材が幾つか落ちる音が聞こえる。


「あっ…がぁ…」

「ゲホゲホッ…はぁはぁ…」

(大丈夫…どこも折れていない…衝撃で息が止まりかけただけだ)

(落ち着け)


―――――――――――――――――

「嘘でしょ…」

私はその一撃で勝負が着いたと思っていた。

だってそれは確実に回避も防御も間に合わない状況だったから。


私は目が弱い代わりに魔力がよく見える。

魔力の流れは命…意識の流れだ。

だから魔力の流れと集まっている場所を完璧に読めば相手の行動すら先読みできる。


そして私はそれを視覚に頼らずに感覚だけで判断できる。

文字通り血の滲む様な努力の果てに習得した技術だ。


だから私は予想外、油断の無い状況で魔力の流れを見失う事はない。


なのに彼が防御する寸前、ほんの一瞬魔力の流れを見失った。

そして本来なら間に合わない防御を許してしまった。


しかも彼は震える体に拳を叩きつけ起き上がる。


「確実に捉えたと思ったんだけどね…」

「君ほんとに追放されたの?と言うか人間?」


(魔力の流れを操った?)

(いや違う…それなら最初のトラップに気が付く…)

(じゃあ無意識?それとも本人すら知らない何かがある?)


魔力の流れを完璧に操れる奴はいる。

ただそのほとんどが人外…魔族や魔物だ。

人間でこれができるのは、ほんの数人…

その全員が化け物と言って差し支えない様なヤツらだ。


「はぁはぁ…」

「まぁな…これでもあのパーティーじゃ最弱だ」

「それにもちろん人間だ、と言うかお前の方が余っ程人間離れしてるだろ…」


「そう…そうかもね…」

「それで?化け物相手にまだ続けるつもり?」


「当然…!」


そう言いながら彼は加速する。


「無駄な足掻きね…!」


私は魔力の流れを注意深く感知しつつ反撃の準備を整える。


―――――――――――――――――


俺は覚悟を決めて、思い切り踏み込み距離無くす。


「はぁ…!」


固めた拳を突き出す。

が当たらない。

代わりに拳を繰り出す度に腕の肉が削られ赤い飛沫(しぶき)が視界に入る。


「皮肉だね…攻撃を仕掛けても私には届かない…」

「なのに攻めてるはずの君だけが傷を追う。」


シオンは淡々とその事実を告げながら軽々と避ける。


「悪いな、まだコインは残ってるんだ…」


「まぁ…せいぜい楽しませてよ?」


「チッ…!?」


気がつけば本来ならありえない体制、ありえない角度から蹴りが飛んでくる。


予想内の予想外。

俺はその蹴りを完全に外してみせる。


「へぇ…!」

それを見た彼女は少し目を見開く。

そして僅かに、確実に体制を崩す。


「やっと見つけた…」

俺はその隙を見逃さない。


左の拳を思い切り固める。

その拳を…逆転の可能性を秘めた一撃をシオンの顔面目掛けて繰り出す。


が…


「甘いよ…」


その一撃はシオンの手によって、簡単に防がれる。


「だろうな…お前なら当たらない。」


シオンは多分1つ嘘をついている。

風を纏う、これを最初から出さない理由…

確かに魔力消費、自傷の可能性があるのも事実だろう。


でも彼女の技術なら、多分人の急所も風を纏える。

そしてさっきの反応速度…

恐らくわざと急所を晒す事で攻撃箇所の誘導もしているのだろう。

その上、近接戦の技術も優れている。


こうなると予想外の攻撃しか当たらないだろう。

でも…だからこそ「予想外(この)」攻撃は当たる。


俺は右の拳を風を纏った胴体目掛けて殴りつける。


「君…正気?」

彼女は諦めたのか防御しない。

代わりに楽しそうに笑う。


「あ"ぁ"ぁ"!」


切り刻まれる痛みと、引き換えにその拳は届く。


「ガハァッ…!」


その一撃にシオンが嘔吐く。

同時に風の勢いが一気に弱まる。


「取った…!」


その流れのまま足払い。

シオンは地面との繋がりを完全に無くし宙に浮く。


ダメ押しにみぞおち目掛けて肘打ちを繰り出す。

がしかし…


するりとシオンの細い指が…腕が、俺の腕に絡みつく

と同時に卍蹴りが飛んでくる。


「チッ…!」


何とかそれを交わす。

そして一瞬腕に痛みが走ると同時に、シオンに距離を取られる。


「やっぱり君普通じゃないね…!」


「はは…どの口で言ってんだよ…」


普通じゃないのはシオンの方だ。

明らかな体勢不利から一転、流れる様に反撃まで食らってしまった。


そして何よりその卍蹴りが当たらないと判断するや否や、手首を捻られてしまった。


「で…?まだやる?」


「冗談言え…これは模擬戦だ、もう勝ち目ねぇだろ。」

「降参だ。」


俺はその一言を告げる。

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