ある居酒屋での会話 ~天然とは~
「俺の名前は酒井蓮司って言う。今日飲みに来た奴とは、小さいころからの付き合いで、仕事とかが被ったりもせず、気を使う必要がない、まあ何というか悪友みたいなやつだ。」
「あははは。そうかそうか。それよか、自己紹介なんて急に初めてどうしたんだよ。まぁいいか。でよー。」
「はいはい。」
「こんな感じで、さっきから酔っぱらいの友人に絡まれているのだ。あっ、ちなみにこいつの名前は三木剛って言う。酒を飲むとダルがらみがひどいし、それを覚えてないから、あんま一緒に飲みたくないけど、何も考えずにこいつとは飲めるから、こいつとはよく飲みに行く。まぁそんな風にひとりでに自己紹介なんてしてる時点で、俺ももう酔ってんだがな。わはははは。」
「そう言えばよー、最近俺は天然なんじゃないかって、思いだしてさー。」
「はっ?急に何言ってんの?」
「だからぁ、俺って天然?って思ってさ。」
「今更?」
「今更って、なんだよ。俺は天然じゃねぇーぞぉ。」
「あははは。面白いこと言うね。そもそも、そんな話を振ってくること時点で、天然だろ。あほくさ。普通の人は自分が天然かなんて、気にしやしないし。」
「なんも面白くねぇし。」
「は?」
「ひ?」
「ふ?」
「へ?っじゃ、ねーし。人の話を聞けーい。」
「ほ?」
「いや、それはもういいって。それよりさ、聞いてくれよ。」
「今、素に戻ったな。だが、こんなノリは酒が入ってる時しかやらんから、安心しろ。酒が入っていても、こののノリはつらいかもしれんがな。こんなくだらないこと。しかし、今になって面白くなってきた。あはははは。」
「蓮司って酔っぱらうとマジで意味わからんし、理不尽だよな。笑い上戸だし。あっ、最後のは関係ないか。」
「それで、何の話?」
「俺は天然なのかどうかって話。」
「深刻そうに言うことじゃないだろ。」
「俺は大真面目なんだよ。俺って天然なのか?」
「結論、天然。はい。解決しました。しゅーりょー。」
「だから、聞けって。」
「そうだな。話を聞こうじゃないか。どうしてそう思ったのか、早く話してくれないか。話が進まん。」
「お前が邪魔してんだよな?」
「あ?そんなこと言っていいの?」
「すみません。聞いてください。」
「うむ、よろしい。では、話したまえ、剛君よ。」
「こいつっ。」
「ん?ん?んんん?」
「こほん。俺って天然なんじゃない?って最近思いだしたのね。」
「おう、そこは聞いたぞ。」
「それでさぁ。よくこういう言葉を聞かないか?」
「なんだぁ?」
「私ってー、天然なんですぅ。って言うやつは天然じゃないって。」
「絶妙にきもい女声を出しやがる。気持ち悪。間延びしたというのか?こういう言動を可愛くもない男にやられると、気持ち悪すぎて、吐きそうだ。」
「おーい。口に出てるぞ。」
「あぁ、すまんすまん。わざとだ。」
「わざとなのかよっ。」
「おー。確かに、そんなことも聞くな。」
「しかも、スルー。まぁいいか。やっぱ聞くだろ?つまり、俺は天然じゃない。ってこと。どどん。」
「どゆこと?」
「だから、俺天然。つまり、天然じゃない。」
「いや、意味わからん。」
「天然って自分のことを言った時点で、そいつはもう天然じゃないのだ。どどどん。」
「その発言の時点で、天然だよな。」
「そう。この発言をしたら天然っぽくなるんだよ。だけど。」
「だけど?」
「それを理解して言っているということは、その言葉の裏を、その言葉で態と、表現していると言う他なく。つまり、天然です。と言ったら、その通りに天然って意味になるわけだ。つまり、俺って天然?」
「ごめん。言ってる意味がさっぱり分からん。酔っぱらいにはきついわ。」
「いや、酔っぱらっていなかったら、もっときついぞ?」
「また一瞬、素に戻ったぞ。こいつももう限界なんじゃねえか。こんな頭が痛くなる話を聞いてると、胃の中のものがやばいことになりそうだぜ。さっさと話終わらせるか、もしくは酒を流し込むか。大概酒を入れりゃ、気持ち悪さなんてなくなるんだ。」
「やっぱり、酒がないときついよな。」
「それ、自分で言うんか。」
「こほん。話を戻すぞ。」
「待て、酒を頼むぞ。頭がおかしくなりそうだ。」
「あっ、じゃ、俺も生ビール。」
「こいつっ。まだ飲む気かよっ。これ以上酒を入れると、やばくねえか?とも思うんだが、飲まないとこんな話聞いとれんし。とりあえず、飲むか!!酒こそ、正義なのだ。」
「そうさ。今日は記憶がなくなるまで飲むのだ。てーいんさーん。生二つ。それと、枝豆。」
「鶏の唐揚げもお願いしまーす。」
「はーい。」
「で、話していいか。」
「おう。」
「どこまで話したっけ。」
「天然って言ったら、天然ってところまで。」
「は?意味わからん。」
「いや、お前が言ったんやぞ?」
「よく、覚えとるな。というか、ちゃんと聞いてんのか。」
「あ?確かに。何でこんな馬鹿な話に付き合ってんだ?」
「生二つお持ちしました。」
「あ、はーい。」
「ありがとうございます。」
「ふー。危ない。もう少しで、素に戻りそうだった。飲んでねぇーと、やってらんねぇーぜ。」
「お、おう、蓮司ってそんな感じだったっけ。」
「んで、話は?酒飲め。酒を。」
「はぁ、酒はうまくていいね。」
「それで話は?」
「ああ。ひとまず、今のまとめをするぞ。」
「ああ。頼む。」
「俺は天然?自分のことを天然というやつは天然じゃない。つまり、天然じゃない。でも、そのことを理解して言っているということは、天然じゃないと言っているのに等しく、つまり、天然ってこと。で、俺は天然?」
「うん。まとめられてないし、わけわからん。」
「俺も何を言っているのか、分からん。」
「つまり、なんなんだ?何が言いたいんだ?」
「俺が天然でないことの証明をしたいのさ。」
「なるほど。」
「とりあえず、俺は天然である。と言ったとする。すると。」
「天然ではないとなる。」
「そう。私ってー、天然なんですぅ。って言うやつは天然じゃないからな。しかし。」
「自分が天然です。と言うことによって、天然じゃないという、理論?をその話した人が知っているわけだから。」
「つまり、先の発言で裏の意図として、天然ではないと言い表したことになる。」
「その結果、天然ではないと発言していることと同義であり、つまり天然である。ということになる。」
「そう言うことさ。」
「うん。意味わからん。今の話から行くと、お前は天然って言う結論になるんだが。」
「まぁ、待て。話はまだ終わっていない。」
「は?」
「ひ?」
「さっきやったから。」
「そうだったな。」
「ごほん。それでだな。言った本人は、この理論を知っているわけである。それなら、さっきの考えの最後の部分まで、その本人は知っているわけで。」
「確かにそうだな。また、裏の裏の意図で、天然です。と発言したことになる。」
「そうさ。つまり、その時点で、天然じゃなくなる。」
「だが、待てよ。そうなると、その結論を知っているから。」
「そう。この話は永遠に続くのさ。」
「なんだとっ。それじゃ、証明できないじゃないか。」
「まぁ、待て。そう早まるな。」
「なんだっ、と。」
「ふっ。まだまだ、甘いな。」
「さっきからなんなんだこのノリは。」
「なんなんだろうな。」
「まぁ、いいか。っで、続きは?」
「続きな。永遠に続くって話だったよな。」
「そうだな。天然である。と天然ではない。というのが、永遠とぐるぐる回り続ける。」
「要はその瞬間の一点において、天然である。と天然ではない。が同時に存在していることになる。」
「はぁ?ある。とない。が同時に存在するだって?」
「ああ。そう言うことだ。」
「そんなことあり得るわけないだろう。」
「そう。あり得ないのさ。つまり、最初から天然というものはこの世に存在していないのだ。だって、その概念が成り立ち得ないのだから。」
「じゃあ、天然がないというなら何があるんだ。」
「ふっ。それはな。」
「それは?」
「宇宙さ。思考という広大な宇宙が広がっているんだ。」
「それこそ意味わからんのだが。本格的に駄目だな。酔っぱらいが。」
「心外だな。この世の真理を探求しようじゃぁないか。」
「あー、はいはい。そうしましょうね。」
「むっ。何が不満だというのだね。」
「全部さ。そもそも、天然とは何か?それに該当する条件は何?逆にどうじゃなければ、天然ではないのか?天然であると言ったら、天然ではない根拠はどこにあるの?思考という広大な宇宙って何ですか?酔っぱらいの話に付き合ったこの時間は何なんですか?最終的にお前は天然なのか?どうなん?」
「……。うぇ?何を言っているのか、俺には分からないな。質問多すぎだわ。でも、一つ言えるのは天然なんてものはこの世になく、つまりは俺は天然でない。ということだ。」
「それで?」
「だから、俺は天然じゃねぇ。」
「だから?」
「うっ。なんだい?」
「天然じゃないから、何なんだい?」
「……。酒飲むか。」
「くっそ。こいつ、酒に逃げやがった。挙句の果てには寝てやがるし。」
「むにゃむにゃ。」
「寝落ちとか最低だ。はぁ、タクシー呼ぶか。それと、会計も。」
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