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今日の朝。深山に翔達が襲われたと連絡があり、楓や佐々木に話しているところで忍が着替えて一緒に行くと言い出した。
深山は反対していたが娘の真剣な顔を見て裕子が許可した。
その条件として楓の判断を仰ぐ事としたが、裕子は『行くんだろうな』と思っていた。
本当に二人で出て行った後は心配で何も手に着かなかった。
今となっては、忍は修学旅行にでも行って、一回り成長して帰って来るのを楽しみに待っている気持ちでいた。その代わりに大きな子供が先に帰って来ただけだと思っている。
「史隆さんが、楓さんは人の生きる事と死ぬ事についてはあまり関心を持っていない。って言った事があるんだ。言われてすぐに反論したんだけど、史隆さんは続けて、楓さんは自分が生まれる前から今の姿のままでいる。自分の時だけが止まり、他の人の時計のみ進んでいたら。目の前を通過するだけの存在にどれほどの興味を持つのだろうか。と言っていた。確かに楓さんと初めて会ってから今日に至るまで何も変わっていない。他の人間はそれぞれ年老いて行き、新しい生命が誕生した。史隆さんが言いたかったのは、楓さんは人々の命を軽んじている訳ではなく、人間のみではなく、この世にいる生命そのものが生まれてから死ぬまでを流れる大きな川の傍らに立ち、濁りや氾濫を抑える事をしているのだと言いたかったのかもしれない。」
深山は天井を見続けていた。
「何それ。神様のやる事みたいね。でも納得できる解釈だわ。いっそうの事『楓さんは神様なんです。』って言ってくれた方が安心できる。同性から見ても憧れるような綺麗な顔とスタイルでいつまでも変わらないなんて、同じ人間・・・ではないのは分かっているけど、『人として』生きているかと思うと随分神様って不公平ね。って思うわ。青嵐大病院の現医院長の遠山先生が学生時代に楓さんに会ってから一生のアイドルとして今でも暇を見つけては東洋医心研究所に遊びに行っちゃうのよ。あそこの所長の皆川先生って戦争孤児だったお父さんとお母さんを楓さんが拾って育てて生まれた子供だって医院長が言っていたの。それを普通の事としてさらっと話す医院長も凄いと思ったけど、皆川先生にとって楓さんはおばあちゃんになっちゃうのよね。知らなければ楓さんが皆川先生のお孫さんって思っちゃうわ。その皆川先生もお子さんが独立して奥様が亡くなられても楓さんがいてくれるから今でも元気でいられるって、忍に弓道を教えてくれながら私にだけそっと仰っていたわ。楓さんの立場で考えると自分が愛情をかけた子供たちが自分を置いて先にいなくなることをずうっと見て来たって事なのかしら。史隆さんの考え方も的を射てるかもね。まあ、その楓さんを極普通に受け入れている私達も変わっているのかもしれないけど。それでも私はあの人が好きよ。微妙に時代に合わせきれていないところとかもね。・・・それで?ゲームがなによ。」