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朧 OBORO  作者: 悠良木慶太
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史隆から一志の報告内容を聞いた楓は琴乃にも伝えるよう言い電話を切った。

楓は涼子達を呼び、全員を座らせて現状を語る。

登山口の捜索本部が襲撃され、雫が連れ去られたが、現在は山住衆に護衛されたことで再度の襲撃は考え辛い。

九鬼の一門が森に入り狒狒の本体を炙り出して巳葺小屋へ追い込み、北から龍崎一門が山住衆を率いて真っ直ぐ進み、まもなく到着する。

史隆も大隊を連れて進行中である事。

言い終わると翔と聡史、宗麟を見た。

「和尚さんや翔君、聡史君は今すぐにでも雫ちゃんを救出に動きたいってことは痛いほど分かるけど、居場所の特定と本当の勢力の把握なしに、闇雲に動く事は、更なる被害を産み、不利になると思うのね。一つ、安心できる情報を伝えると、翔君。この巳葺小屋で生まれた精霊の数を覚えている?」

楓は穏やかに翔を見て聞く。

「三柱と聞いています。」

翔が寛美から聞いた古文書の内容について答えた。

「そう。その精霊達は神崎の一族。正確には光雲の子孫の誰かを守護しているとも伝えたわよね。そのうちの一柱の守護精霊が、狒狒が作った幽世に入って雫さんを追っている事が浅井君の目撃談から分かったの。だから私は大丈夫と言ったのよ。」

楓の語り口調は更にゆっくりと話している。翔も落ち着き始めていた。

「その精霊は狒狒に対抗できる力を持っているという事ですか?」

ゆっくりと頷き翔を見て言う。

「狒狒では相手にならない程の力を持っているの。ただ、皆が目撃した群れの中でも特に大きな個体が三頭いたでしょ。奴らは別格の力を持っているし、知能も非常に高い。雫ちゃんを人質に、何らかの罠を張っている可能性は高いの。狙われたのが女性だったからなのかは、分からないけど、何かを仕掛けてくる事は考えられる。九鬼の皆はある意味では一番危険な役目を負ってくれているの。一志君は子供の頃から鍛えられた現代陰陽師のエリートよ。私は彼を信じて待ちたいと思っているの。」

言い終わると楓は腕時計を見る。18時を過ぎていた。今度は皆を見て話し出しす。

「そこでね。想定していなかったのは私のミスなんだけど、この時間まで狩り込めていないので、あと1時間半で逢魔が時を迎える。暗くなると人間の方が不利になるから君達は確率的に安全な捜索本部に戻るべきと考えるんだけど、涼子ちゃんはどう思う?」

涼子は回答の前に一つの疑問を呟く。

「楓さん。狒狒の目的は何だと思いますか?私が監理官になって三年。楓さんにはいろいろと教わりましたけど、物怪には、知性はあるけれど理性は無い。と実感していました。人質を取る行為は知性から来るものとも、合理性を基に行うとも取れてしまいます。そして、最初の犯行。この巳葺小屋での殺人は何を狙っての犯行か判断できていません。楓さんの考えを教えてください。」

楓は妖艶な微笑みを涼子に見せてただ一言。「知らないわ。」とだけ言った。

涼子は自分の質問は「人」による犯行動機を考慮してのものだった事に気付く。

物怪の行動原理に動機が含まれない事象は多くあり、それが自分の職務経験でもあった。

物怪は基本的に『ただやりたいからやった』というのが普通であった。今回のように狡猾に。組織的に人を殺め、対抗する相手は経験がない。最初の犯行。脊山を殺したのは偶発的なものだったとしても経験上の理屈は通る。その味をしめて残った人間を殺しに来た。あるいは喰らいに・・・。楓の発言を受け入れる以外の選択肢が浮かばず、時間の制約を考えると決断した。

「楓さんの言う通りですね。暗闇は我々に不利な状態になります。暗視ゴーグルがあったとしても視野が狭まると皆を守り切れるとは思えません。岩屋の砦も既に一度破られていますから安全とも言えませんし、我々が新たな人質になる事も、あるいはもっと酷い結果も・・・。判断するのは今しかありません。ですが、戻るには道案内がいません。宗麟さんと私達がたどって来た道では途中で夜を迎えてしまいます。楓さんが来た道で帰るしか方法が無いかと。」

静かに聞いていた忍が口を開く。

「私が覚えています。同じ道でよければ。ですけど。」

楓は忍を見て「忍ちゃん。大丈夫?」と心配した。忍も父親の深山が重傷者として搬送されている。能力の心配は不要だが、まだ十八歳の高校生であり、その心を気遣った。

「大丈夫です。道は覚えています。師匠の教えをきちんと守っていますよ。」

楓の心配を払拭する弟子の強い返事だった。憂いをもった瞳で忍に微笑む。

二人の表情を見ていた聡史が嬉しそうに眺め、翔に肘打ちを受けていた。

「涼子ちゃん。いい?」楓は涼子の意思を再確認した。

「楓さんはお一人で残られるんですか?誰か護衛に残しましょうか。」

「ふふふ。・・・私を守れる『人間』ってこの世にいるのかしらね・・・」

頬杖をついて見つめる目を見て、涼子の背筋に冷たいものが流れた。


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